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見せない暴力表現へのこだわりとは?──『ビューティフル・デイ』リン・ラムジー監督インタビュー

ビューティフル・デイ

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『モーヴァン』『少年は残酷な弓を射る』のリン・ラムジー監督が、ホアキン・フェニックスを主演に迎えて描くクライム・ドラマ『ビューティフル・デイ』が、6月1日(金)より公開。自殺願望を持ち、死の誘惑に取りつかれた主人公と、天使のように愛らしくも同じように心の壊れた少女の出会いを描き、孤独なアウトサイダーたちの魂の共鳴を映し出した本作は、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミア上映されるや絶賛を博し、フェニックスが男優賞、ラムジー監督が脚本賞を受賞するという2冠の快挙を達成した。説明的な描写やセンチメンタリズムを排除し、徹底的に研ぎ澄まされたスタイリッシュな映像美を創出したリン・ラムジー監督にお話を伺いました。
──本作は短編小説が原作となっていますが、原作にどのような魅力を感じて映画化したいと思ったのですか?また、どんなシーンが最初に映像として思い浮かびましたか?
監督:エンディングも含めて、原作とはかなり内容が変わっているけれど、最初に読んだ時に一番惹かれたのはやはり主人公ジョーのキャラクター。母親と住んでいて、中年にさしかかりミッドライフ・クライシスと言われる“中年の危機”を感じている。何か、より掘り下げていけばレベルの高いおもしろいキャラクターになるんじゃないかと思ったの。 最初に映像として思い浮かんだのは、実は原作にはないシーンで、ジョーの顔がイマイチよく見えないなかで、徐々に明かされていくというもの。ホアキンだと分かったときに、インパクトが大きくなるようにね。
──主演のホアキン・フェニックスは圧倒的な存在感で、台詞が少ない中でジョーというキャラクターを表現していました。肉体改造やキャラクター作りなどどのように話し合ったのですか?
監督:まるで野生の動物を見ているみたいだったわ!良い意味でね(笑)。いつも物事に対して問いかけていて、それは監督として嬉しいこと。脚本どおりに撮らず、嘘っぽいなと思ったら、どうしたらリアルになるのか考えながら作っていけた。ソウルメイトを見つけたような感覚よ。他の俳優さんは絶対にそんなことしないけど、撮影の7週間も前から現場に入ってくれて、まるで撮影監督のようだった。そんな役者いないわよね(笑)。

映画を作っていくなかで、自分が描いたキャラクターが物理的に目の前で形になっていくのを見るのは感動するものよ。ジョーのキャラクターに関しては、私の中で明確なものがあったというよりも、オープンに考えていたの。ただ、腹筋がバリバリに割れているとか、か弱き者を助ける、ピカピカの甲冑を身につけた騎士というタイプは絶対に嫌だった。むしろその真逆として描きたかったの。描いていくなかで、どんどん“熊”っぽくなっていったけれど(笑)、それはそれで感覚的に正しいものだった。ホアキンは、この作品のあとすぐにイエス・キリストを演じなければならなかったので髭を伸ばしていたの。ルックス的に工事現場の人とかストリート系にしか見えなかったから、ニューヨークで撮影しても、誰にも気付かれずにゲリラ撮影が出来たわ(笑)。
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──劇中でジョーが下す暴力は、ドア越しとかカメラ越しに見せる表現でした。暴力描写を直接描きたくないという意図もあるのですか?
監督:個人的なスタンスとして考えているわけじゃないの。むしろアクションシーンをいかにワクワクできるものにするか、どうしたら今までと違う形のアクションを撮れるのか追求していったの。脚本段階からあったアクションもあるし、製作過程のプレッシャーの中で閃いたものもある。華麗な振り付けがされた漫画的なアクションはこれまで何度も見ているから、オリジナルな表現方法はないのか模索していったの。スタントマンたちも色んな動きを提案してくれたけど、「普通の動きでいいよね」ってホアキンと確認しながら現場で削ぎ落としていって、まるでパズルのようだったわ。

あと、見せない暴力表現って逆にインパクトがあるのよね。暴力そのものよりも、その後を見れば何が起きたかわかるでしょ?それがジョーにとってどういう意味なのかも。
──そのせいか想像力がかき立てられ、精神的にも肉体的にも痛みを感じる映画だったと思います。人が感じる“痛み”に対して意識しているのは?
監督:映画を観ている時、登場人物の痛みが私自身に刺さってくるような作品が好きだけど、自分がそれを叶えられているかどうかは分からない。観客は様々なので、痛みを五臓六腑で感じたい人もいれば、そんなの嫌だって思う人もいる。感じる事って恐いから。私の表現がいいのかどうかは分からないわ。
──個人的に好きなシーンですが、あるシーンで瀕死の殺し屋の横に、ジョーが寝そべりますよね。ゾッとするような、寂しいような、可笑しいような美しいような…。
監督:私が正しかったんだわ(笑)!あのシーンは原作にないオリジナルなの。でも現場でホアキンから「このシーンは成立する?」って言われて、誰も応援してくれなかったの。インタビューでも彼は「リンはイカれたのか?って思った」と言ってたしね(笑)。普通なら、瀕死の殺し屋から情報を聞き出して次の場所へ向かうでしょ?でも私にとってあのシーンは、プロットを先に進めるよりも重要だった。曲、哲学ともにね。死んでいくまでの時間、そこでラジオがかかり…何かエモーショナルなんだけど、同時に可笑しみもある。でも現場では誰も信じてくれなかったわ…解ってくれて嬉しい!
──現場では、監督自ら水風呂に入ったりハンマーを振り上げたりして演出しているそうですね。いつも自ら役者の立場にたって演出するのですか?
監督:小さい頃から絵を描いたりしてるけど、その世界に没頭してしまって前が見えなくなるタイプなの。『モーヴァン』の時に、後からメイキング映像を見たら、主人公がやっていることと同じ動きを私がモニターを見ながらやっていたの(笑)。おかしな人に見えるけど、自覚がない(笑)。でもそれはキャラクターの世界に飛び込みたいという思いからきているんだと思う。役者がカメラの前に立つ時は、脆い部分をさらけ出さないといけないし、自分自身を暴かれるという心境だと思う。だから自分もそれを理解したいという気持ちがあるの。

今回も、ホアキンが「これは無理がある」って言ったら自分でやってみて、「確かに成立しないわね」って思うことも多かった。キャラクターを理解し共感するのは重要だから、そうやってホアキンと話しながら発見し、学んで作っていったわ。
2018年5月31日
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『ビューティフル・デイ』
2018年6月1日(金) 新宿バルト9 ほか 全国ロードショー
公式サイト:http://beautifulday-movie.com/