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この映画は希望についての物語 ──『ダンシング・ベートーヴェン』アランチャ・アギーレ監督インタビュー

ダンシング・ベートーヴェン

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日本でも根強い人気を誇り、今年で没後10年となる天才振付家モーリス・ベジャールが、ベートーヴェンの「第九」をバレエで表現した傑作ステージ「第九交響曲」。東京バレエ団創立50周年記念シリーズ第7弾として、東京バレエ団とモーリス・ベジャール・バレエ団の共同制作という空前絶後の一大プロジェクトとして2014年に上演されたこのステージの舞台裏を捉えた感動のドキュメンタリー『ダンシング・ベートーヴェン』が、12月23日より公開。本作のメガホンをとったアランチャ・アギーレ監督に、映画に込めた想いを伺いました。
この映画は希望についての物語 ──『ダンシング・ベートーヴェン』アランチャ・アギーレ監督インタビュー

──日本では年末になると風物詩のように「第九」が演奏され、合唱に参加する人も多くいます。バレエの世界をよく知らなかったので、「第九」を踊りで表現するというのがとても新鮮で感動的でした。
監督:バレエファンにとっては、ベジャール作品としてよく知られています。この音楽は有名だけど、「第九」に振りをつけるという大胆なことをしたのはモーリス・ベジャールただ一人です。ダンスにふさわしい音楽だと思ったのでしょう。第九交響曲は、ベートーヴェンが初めて交響曲にコーラスを入れたことで、人間の声が交響曲に参加するという門戸を開きました。そして今度はベジャールがそのドアをさらに開き、ダンスを参加させたのです。
──劇中で、指揮者のズービン・メータさんが、「聴覚を失ったベートーヴェンがもしこのバレエを見ていたら、自分の音楽の形が見えただろう」と言っていたのが印象的でした。振付師としてのベジャールの魅力とはどんなものですか?
監督:ベジャールが偉大なのは、ダンスが装飾的なものに陥っていたのを、元々ダンスに備わっていた知性やスピリチュアルなものを取り戻したことにあると思います。ダンスに興味がない観客がベジャール作品を見ると、そこに人間の不安とか夢といったものを見出すことが出来ると思います。
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──前作の『ベジャール、そしてバレエはつづく』では、ベジャール亡き後のベジャール団を描きました。同じバレエ団を撮るにあたり、今作はどんな思いで臨みましたか?
監督:ダンサーにとって「第九」のステージを再演すること自体が大きな挑戦だったので、撮る側としても熱意を持って、この演目に掛けている彼らの情熱に値するような作品を目指しました。ただ“ダンスの舞台を映像に収めました”というものでは、リスペクトを欠いてしまいます。偉大なアーティストたちが提示している問題も含め、観客にも興味を持って鑑賞し、一緒に考え、感じてもらいたいと思いました。
──確かに、公演に至るまでのダンサーたちの舞台裏に密着しただけでなく、ゴヤの絵が挿入されたり、「第九」が生まれた背景、曲やダンスに込められたメッセージも丁寧に描かれていました。
監督:ゴヤとベートーヴェンは同時代の芸術家です。ベートーヴェンがオーストリアのウィーンで活躍していた頃、ゴヤもスペインで活躍していました。ちょうどその頃、この2つの国はナポレオンが諸外国に仕掛けた侵略戦争の犠牲になっていました。ゴヤが描いた絵は、ナポレオン戦争による恐怖、残酷さを表しています。ベートーヴェンが生きた時代の概念を映像で見せるために、ゴヤの絵を入れました。

もう一つ興味深いのは、ベートーヴェンは生涯にわたってシラーの詩「歓喜に寄す」に取り憑かれていました。彼がこの歌詞に曲をつけようと考えたのは随分若い頃でしたが、作品として完成させたのは、最後の作品となる「第九」まで待たなければならなかった。彼の頭の中には強迫観念のように詩が存在し、人生の最後にいたってようやく完成したというのは興味深いことです。ご存じのようにベートーヴェンは聴覚障害など人生で辛い思いを経験し、最後の最後に昇華して美と希望の曲を生み出した。苦しみを知っているからこそ、歓喜を描けたのでしょう。
──撮影する中で、メインダンサーのカテリーナが降板するというハプニングがあり、女性のキャリアについても考えさせられました。
監督:私も女性であり、母として、仕事をする人間として、そのテーマを入れるのは重要でした。女性のみならず男性もここに着目すべきだと思います。もちろん、キャリアを中断してでも子供を持つといのは、それだだけの価値があるということ。母になるという経験が、アーティストとして豊かになることなのだと彼女はよく分かっていたと思います。
──日本での撮影はいかがでしたか。
監督:この映画の撮影のために初めて訪れ、3週間滞在しました。最初の1週間は、ベジャール団と交わる前の東京バレエ団のダンサーたちを撮りたかったのです。日本のダンサーたちがハードな練習をこなし、規律が行き届いているところに感銘を受けました。私はその時が初来日だったけど、前作『ベジャール、そしてバレエはつづく』が日本で公開されていたので、全く知らない映画監督が来たというリアクションではなく、“あの映画を撮った監督”という迎えられ方をしてもらったのが嬉しかったです。
──モーリス・ベジャール・バレエ団と東京バレエ団の共演ということで、日本でも注目している人も多いと思います。本作を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
監督:日本でも撮影しているし、日本という国にふさわしい、きちんとした作品になっているかどうか、観客の方々の反応をエキサイトしながら待っています。楽しんでもらえるようベストを尽くしたつもりですが、今となっては何をすることもできません(笑)。この映画は希望についての物語なので、良い反応を祈るばかりです。


2017年12月22日
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『ダンシング・ベートーヴェン』
2017年12月23日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、 YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開
公式サイト:http://www.synca.jp/db/