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他者のストーリーを通して自分の物語を綴る ──『Girl/ガール』ルーカス・ドン監督インタビュー

『Girl/ガール』

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バレリーナを目指すトランスジェンダーの少女の心の機微や葛藤を描いた感動作『Girl/ガール』が、7月5日(金)より公開。メガホンをとったのは、本作が長編デビュー作となる新星ルーカス・ドン。第71回カンヌ国際映画祭ではカメラドールのほか3冠、第76回ゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネート、第91回アカデミー賞外国語映画賞<ベルギー代表>選出など快挙を成し遂げ、「奇跡のような完璧なデビュー作」とメディアから喝采を浴び、批評家からは、その才能と丹精なルックスから「第2のグザヴィエ・ドラン」と評された。映画の公開を前に来日したルーカス・ドン監督にお話しを伺いました。
他者のストーリーを通して自分の物語を綴る ──『Girl/ガール』ルーカス・ドン監督インタビュー
──物語の着想は、監督自身が10代の頃に読んだ新聞記事だそうですね。トランスジェンダーの人生は、私からみると色んな葛藤がありドラマチックなもののような気がするのですが、特別、彼女の人生に興味を持った部分はどういった所だったのでしょうか。
監督:トランスジェンダーの人生が特別ドラマチックというわけではないと思う。ゲイでもストレートでも、あるいは肌の色に関しても、色んな人の中で葛藤の大きさは人それぞれ。実際、脚本を書いている時もトランスジェンダーの方に話を聞きましたが、葛藤が大きい人もいれば、全然気にしていない人もいました。

2009年に彼女(ノラ・モンセクール)の記事を読んだ時、彼女が普通と思われる考え方の壁を壊して、ありのままの自分であろうとしていることに感動しました。15歳の彼女が選んだのはクラシック・バレエの世界だった。その世界には、お姫様と王子様しかいなくて、まさにジェンダーという意味で言うと、白か黒かしかないんです。そういうバイナリーな世界をあえて選び、そこで真の自分であろうと闘っている姿に深い敬意を抱きました。
──その時点で映画を撮ろうと思ったのですか?
監督:最初はスカイプ越しでしたが、初めて話した時から、“世界中に彼女のことを知って欲しい”と感じました。どうしたらそれが出来るのかと考えたら、やはり映画という手段が合っていると思いました。
──彼女の記事を読んだ当時、監督自身がジェンダーの規範に囚われているという思いがあった?
監督:「壁を壊して、ありのままの自分であろうとする彼女に感動した」と言いましたが、実際に会って彼女と話してみると、彼女はそう思っているわけじゃなかった。つまり、目立ってもいいからありのままでいようとしているのではなく、むしろグループの一員として、目立たず溶け込みたいという気持ちだった。それを知った時に、自分とすごく繋がりがあると感じました。僕も10代の時、すべてのエネルギーを費やして、“男はこうあるべき”というイメージに合わせようとしていたから。だから僕の葛藤は、彼女のものとは違ってはいますが、同じとも言えます。完璧な女性、あるいは完璧な男性にならなければと意識しすぎて、本来の自分を裏切っていたわけだから。

僕が思うに、ジェンダーはパフォーマンスという側面があると思う。男性的と聞くとタフさ強さを連想し、女性的と聞くとエレガントさ、柔らかさと繋げてしまう。そういったものは役者がキャラクターを演じると同じように、演じられるものなんじゃないか。でも今日の世界ってもうそういうイメージとは繋がらなくなっていると思うから、男性性、女性性という言葉に関係なく、自分の中にあるものを受け入れるべきだと思います。
──LGBTを扱った作品も多くなってますが、描くうえでプレッシャーなど感じましたか?
監督:僕が一番プレッシャーだったのは、映画の中でララ、つまりノラがリスペクトをもって描かれるか、観た人が彼女に共感し、彼女の物語を理解してもらえるかどうかということでした。幸い、そのプレッシャーは、ノラが観てくれた時に消えました。ノラは、「私があの時期に経験していた葛藤がちゃんと描かれていた」と言ってくれたんです。
──「当事者でない人が作るのはいかがなものか」というような批判もあったと聞きました。
監督:LGBTものは増えてはいるけど、やはりまだ少ない。少ないからこそ、一つの作品に対して「LGBT全員を代表していなければならない」というプレッシャーがかかってしまうんだと思います。我々はコミュニティであると同時に個々でもあるわけで、『Girl/ガール』という作品も、一人の女性のポートレイトであって、決してコミュニティのポートレイトではありません。

「文化盗用」に対する批判も同じで、作品を作る人が主人公と同じアイデンティティでなければならないという意見も、僕は反対です。これじゃ、女性の物語は女性監督しか作れないってことになってしまう。もし当事者しか物語を綴ってはいけないなんてことになったら、それは危険な事だと思います。 僕が映画を作る理由は、他者のことをもっと知りたいから。他者を知ることによって自分のことを知る。だから僕にとって映画はその架け橋。他者の話を綴ることによって間接的に自分の物語を綴っているんです。
『Girl/ガール』
──ララを演じたビクトール・ポルスターさんは素晴らしい表現力でした。彼の起用について教えてください。
監督:この作品で最も大変な部分がキャスティングでした。主人公に求められるものは、15歳で高いレベルのダンスをこなし、長編映画の最初から最後まで出ずっぱりで、しかもこのキャラクターのアイデンティティを責任をもって表現する高い演技力を持ち合わせていなければならなかった。1年半のオーディションを通して約500人の若者と会いましたが、その素質を持っている人は見つからなかった。

そこで、先にララのクラスメイト役のオーディションを、いくつかのグループレッスンの形で行ったところ、その一つに参加していたのが、ビクトールでした。彼を目にした瞬間、僕等全員が磁石のように惹きつけられた。彼の表情や顔を見て、1年半のキャスティングの中で他の誰にもなかった何かを感じたんです。父親役はもう決まっていたので、二人で演技をしてもらったとき、これが自分のララだと実感しました。
──クラスメイト役でオーディションに来て、主役と言われた時の彼の反応は?
監督:混乱していました。彼は自分自身にまだそんな演技力がないと思っていたので、かなり説得が必要でした。それに、プロのダンサーを目指しているので、キャリアとして考えても、あまり良くない演技を披露するべきじゃないと思っていたようだった。「君には演技力があり、これはとても素晴らしい作品になる」と説得しました。撮影もすごくスムーズに進みました。彼は小さな頃から演者だったので、すべてのパフォーマンスでベストを尽くしたいという気持ちを元々持っていたから、この映画にも、その気持ちで臨んでくれました。

2019年7月3日
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『Girl/ガール』
2019年7月5日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー
公式サイト:http://girl-movie.com/