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初の実写作品、「やるしかない!」という悲壮感すらあった──映画 『はじまりのみち』 原恵一監督インタビュー

はじまりのみち

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映画監督・木下惠介の生誕100年を記念して製作された映画『はじまりのみち』。木下監督の実話を元にした本作は、血気盛んな映画青年としての姿と、戦争という時代のうねりに翻弄されながら、母を想う子、子を想う母の真実の愛の物語を描き出したドラマ。メガホンをとったのは、「クレヨンしんちゃん」や『カラフル』といったアニメーション作品で、国内外で高い評価を受けてきた原恵一監督。木下監督を敬愛し、熱烈なファンであることでも知られる原監督に、「初の実写映画」に挑戦した心境を伺いました。
初の実写作品、「やるしかない!」という悲壮感すらあった── 『はじまりのみち』 原恵一監督インタビュー
──初めての実写映画となりますが、元々、実写映画を撮りたいと思っていたのですか?
監督:多少は(実写映画を)撮りたいと思ってはいたけど、自分には合わないと思っていました(笑)。具体的な話もなかったし、自分は優柔不断なので、瞬時に判断を迫られる環境って合わないだろうと。でも、今回の話は、そこで躊躇できない企画でした。この映画は、木下監督の生誕100年にあたり、木下作品を再評価するという目的がある作品です。僕自身が個人的に地道にやってきたことでもあるので、断る理由がありませんでした。と言っても、最初は脚本を依頼されたんです。
──“逆オファー”というか、自ら監督として名乗り出たそうですね。
監督:誰が監督するんだろう…と考え、自分でやらないと後悔するんじゃないかと。楽しそうだからとか、やりたい!とか、そんな勇ましいものでもなく、悲壮感すらありましたね(笑)。実写は不安だらけで全く自信がないけど、自分で監督しないと絶対後悔する、やるしかない!と思いました。自分で書いた脚本だし、自分で責任をとりたいという気持ちもありましたね。誰かが撮ったものに文句を言いたくもないですし(笑)
──木下作品との出会いはどんな形だったのですか?
監督:映画を観るようになって、最初に出会ったのは黒澤明監督でした。やはり本当にすごい監督だなと思い、他の日本映画の巨匠の作品も見ないと、と思って、木下監督の作品を観たら、自分には木下監督作品のほうが合っていました。木下監督は、『二十四の瞳』の印象が強いけど、そのイメージだけで終わるともったいないんです。違う毛色で心抉られる作品やコメディも多いし、一人の監督がこんなに幅の広い作風で作ってることに驚かされます。「多才」という言葉で表現するには甘すぎるくらいですね
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──木下監督の時代は、映画監督として撮りたい映画や伝えたいメッセージを、映画会社や観衆ではなく、「軍」という組織に規制される時代でした。この時代を描いて、監督が感じた木下恵介像とは?
監督:『陸軍』('44)では、“皆が進んでお国のために命を捨てる気持ちになれる”映画を撮れと言われるなかで、ラストにああいうシーン(出征する息子を見送る母親を延々ととらえ続ける)を入れたわけですから、本当に図太い人だと思いますね。撮る作品は女性的な優しさを持っていますが、木下監督自身は、ものすごく過激でしぶとくて、冷徹さも持っている、一筋縄ではいかない監督だと僕は想像しています。
──本編では思った以上に木下監督の映画が登場しますね。この構成は初めから狙っていたのですか?
監督:映画の中で木下作品を流すというのは企画段階でありましたが、どういう形で本編に組み込むかというアイデアはなかったので、自分で考えました。でも、なかなか単純な話ではなかったです。僕はたくさん見せたいけど、旧作の分量が多すぎても、観客にとってはマイナスになってしまう。ギリギリのせめぎ合いはありました。大好きな作品をカットするという、辛い作業だけど、これもまた人に任せたくなかったので(笑)、自分を納得させながら泣く泣くカットしました。結構、手間がかかってるんですよ。
──アニメでは声優がアフレコで演技しますが、今回は俳優たちとの作業になりましたね。
監督:アニメでは絵に合わせることが第一ですし、間合いや演技はある程度絵でコントロール出来ますが、実写の場合は、役者さんがどういう演技を見せるのか、目の前で見るまで判らない。違和感がある時はその場ですぐに言わないといけないので、そのヒリヒリした感じは、実写ならではだと思いました。でも今回、役者さんがすごくハマっていたので、あまり困らなかったですね。本当に微調整ぐらいでした。
──俳優たちの予想を超える演技に驚いたことはありましたか?
監督:田中裕子さんは、無言で寝ているだけなのに一つ一つのカットに存在感がありましたね。ご自身で演技プランを立ててくれていましたが、顔の汚れを拭いてもらうシーンは、一拭きごとに神々しくなっていく、素晴らしい表情をしていました。
──加瀬亮さん、ユースケ・サンタマリアさん、濱田岳さんは現場ではいかがでしたか?
監督:加瀬さんは、すごく納得して演技したいタイプの方だと思います。撮影前に僕と話したいと申し入れがあり、撮影前も撮影中も、雑談も含めて結構話し合いました。すごく接しやすい方でした。ユースケさんは、現場をいつも笑わせてくれる人でした。中心になって冗談を言って、いい雰囲気を作ってもらいましたね。もちろん、演技もちゃんとしていました。濱田さんも、ハマり役でしたね。私服の濱田さんを見ると違和感あったぐらいです(笑)。
──映画では、木下監督の挫折と再生を描いていますが、原監督自身の挫折と再生は?
監督:木下監督ほど理不尽な時代に生きてないので、まだまだ甘いですけど、こういう仕事しているとありますよ。今回の仕事にしても、『カラフル』の次の仕事がなかなか決まらず、この先どうしようかと不安な日々を過ごす中で、降って湧いたようにこの依頼があったんです。100周年の話は元々聞いていて、木下監督の魅力をコメントするぐらいだと思っていましたが、脚本・監督を担当することになり…僕が暇じゃなかったら出来なかったことだし、もし逃していればものすごく悔しい思いをしただろうと考えると、不思議な縁ですね。

これまでの僕の作品でも、どこかで木下作品に影響を受けているので、『はじまりのみち』に関しても、それを活かして作ったつもりです。木下監督の地元、浜松の試写会では、作代さん(木下監督の妹/劇中では山下リオ)や澤田屋(旅の途中で木下監督らが泊まる旅館)の方々にも来て頂きました。見終わった後に作代さんが、「よかったです。泣きました」と仰ったので、僕も泣きました(笑)。これまでも、「良かった」と言われたことはありますが、泣いたのは初めてでしたね。本当に嬉しかったです。
──実は私は、木下作品を観たことがないまま、「原監督、実写初挑戦」と「木下監督の半生」に興味を惹かれて見たわけですが、『はじまりのみち』を観て、「木下作品を観なければ!」と、思い、帰ってすぐに『二十四の瞳』を観ました。何か「してやられた感」すらあります(笑)。
監督: 成功ですね(笑)。もちろんそうなって欲しいと思い作ったものなので、ドミノのひとつを倒した感じですね。次は『永遠の人』をオススメします。是非、次のドミノも倒して欲しいです(笑)。
2013年5月31日
『はじまりのみち』
2013年6月1日(土)全国ロードショー
公式サイト:http://www.shochiku.co.jp/kinoshita/hajimarinomichi/