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かつて日本にこんな男たちがいたと認識して欲しい〜『半次郎』榎木孝明インタビュー

半次郎

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幕末維新を駆け抜けた薩摩の快男児・中村半次郎(のちの桐野利秋)の生涯を描いた映画『半次郎』。武士の時代から明治へと移り変わる動乱期の日本を舞台に、半次郎と彼を慕う仲間たちの絆を通して、“男が男らしく、侍が侍らしく生きた時代”を活写する。本作を企画したのは、主人公・半次郎を演じる榎木孝明。鹿児島出身で、自身も古武術の達人であり、これまで時代劇でも様々な偉人を演じてきた榎木氏が、自ら企画した本作に込めた想いとは?10月9日(土)の公開を前に、榎木氏に現在の心境や、映画について熱く語っていただきました。
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──この映画は、榎木さん自身が13年間温めた企画だそうですね?
榎木:中村半次郎は、若い頃から僕の憧れの人物だったので、機会があれば彼にかかわる仕事をしたいと思っていました。2001年に舞台「幕末2001」でも半次郎を演じているのですが、やはり映画にしたいという思いがあり、3年ほど前に「機は熟した」という感じで企画書を書いて立ち上げたんです。
『半次郎』
──作品が完成し、ご覧になった心境は?
榎木:不思議な感覚でした。通常ですと役者がラッシュの段階から作品を観る、というのはまずないのですが、今回は企画という立場でもありましたから、立ち上げから準備、撮影、仕上げと完成までのすべての段階を観てきましたので。とはいえ、これから公開ですから、まだまだまだ先は続きます。まだ「志半ば」という感じです。
──憧れの人物だったということですが、中村半次郎のどんな部分に魅力を感じていたのですか?

『半次郎』
榎木:映画の中では「ぼっけもん」と言う鹿児島弁の言葉を使っていますが、半次郎は、ハチャメチャでありながらも、豪放磊落で憎めない強者、という印象の代表格でした。「ぼっけもん」に対する憧れはありました。
──榎木さん自身、「ぼっけもん」的な部分はないのですか?
榎木:真面目な男なものですから…ウソですけど(笑)。ただ、僕は教員の息子として育ったので、あまりハチャメチャなことが出来ないという意識が暗黙のうちにありました。「ぼっけもん」に憧れるのは、そういうものへの反発もあったかも知れないです。
──西郷隆盛役の田中正次さんは、よく似てましたね。誰もが知るあの肖像をCGにしたんじゃないかと思うほど(笑)
榎木:実はCGなんですよ。…ウソです(笑)。半次郎と西郷隆盛の最初のシーンで、芝居中に頭をふっと上げると、そこに西郷さんがいるようで、僕もビックリしました(笑)。彼の存在感はよかったですね。
──その存在感は、普段は会社の経営者というバックグラウンドのせいでしょうか。
『半次郎』
榎木:そうですね。西郷役に関していえばもちろん役者さんに演じてもらうことも考えましたし、役者さんが演じるべきという、賛否両論あって当然だと思っています。ただ、僕と監督は、一般の方でも存在感と目ヂカラがあればOKとオーディションをすると決めたときから話していました。田中さんは実際に西郷さんのような考え方で自分で会社を興していて、厳しくも温かく、社員から慕われている方です。自分で言うのもなんですが見る目に間違いはなかったと思います(笑)

演技に関しては、余計な芝居をしようとする気持ちをまず捨てて頂いて、もともと持っている存在感だけを出して下さいと、話していました。田中さんも、撮影中は忙しい社長業を放り出して(笑)現場に付きっきりでいてくれたので、それがよかったのではないでしょうか。
『半次郎』
──AKIRAさんのパフォーマンスもかっこよかったです。
榎木:カッコよかったですよね。役が決まった時は、もちろんEXILEのメンバーとして知っていましたけど、殺陣に関して今回の役でいえば一抹の不安もありました。でも、驚きました。この映画全体を引っ張っていってくれたと思います。
──榎木さんご自身の役作りはいかがでしたか?実際の半次郎は、豪放磊落でありながら頭脳明晰という一面もありますね。

『半次郎』
榎木:難しさは感じていなかったですけど、外せないポイントはありましたね。それは、半次郎の「純粋さ」と「人の良さ」。あまり計算が先に立たず、人の良さに周りがついてくる。そこを大事にしました。

僕は、役作りにおいて計算しすぎると、人物がどんどん小さくなってしまうと思っているんです。田中さんに対してもそう言いましたが、同じく、半次郎も頑張って作ってしまうと、"半次郎度"が小さくなるので、大事な部分だけを残そうと思いました。あとは、「自分の中に半次郎が内在している」という"信じ込み"ですね(笑)。
──ほぼ「男だらけ」の現場はいかがでしたか?
『半次郎』
榎木:今回は僕が個人的に武術を教えている俳優仲間が多く出演してくれています。彼らは撮影が進むにつれて「半次郎隊」と呼ばれていました。劇中で随所で、彼らの本来の役どころではなく、薩摩軍や官軍に扮して闘ったことで映像に迫力が出ているので、彼らの活躍も今回のキーポイントだと思います。半次郎も若い人たちから慕われていましたので、彼らが存在してくれたおかげで、僕の中で「半次郎」と「榎木」がダブるものがありました。男だらけで1ヶ月間合宿状態でしたが、精神的に"榎木の支え"になってくれました。
──まさに映画の中の半次郎と私学校の生徒のような関係ですね。
榎木:過去に共演した人たちと話をしているうちに自然と武術の流れで稽古をするようになったんですけど、心を許せる関係って大事ですね。武術を通じてそういった絆が出来たのは良かったと思います。あと、本物の自顕流を見せたいというのもありました。

今までも、薩摩を扱ったドラマなどで自顕流は出てきましたけど、ここまで本格的なのは初めてかもしれないですね。今回は「半次郎隊」として出演してくれた俳優仲間たちと自主的に鹿児島に行き、自顕流の宗家で基礎から指導してもらいました。大変なんですけど、役者にとってのプラスになると呼びかけながら、僕自身もみんなと一緒にゼロからやり直しました。
──撮影も鹿児島で行われて、エキストラも地元の方々が参加されていますね。
『半次郎』
榎木:今回は参加してくれた地元の人たちが皆、自分の映画だと思ってくれていました。実際に西南戦争で戦って亡くなった方の子孫の方も沢山いましたし、戦跡で撮影していたので、かつてこんな形で撮った映画はないんじゃないかと思いました。通常ですと京都やオープンセット、撮影所などで撮影することが多いのですが、今回のロケ場所は、まさに133年前に実際に戦っていた場所ですから、映像の中にも不思議な「気」が籠っていたと思います。
──2人の女性、さと(白石美帆)とふじ(雛形あきこ)が対面するシーンは、恐怖すら感じました(笑)。柔らかさの中にも殺気があり、間に佇む榎木さんもまた可愛らしく(笑)…。
榎木:男は…、やはりああいった体験する時って実際にあったりするんですよね(笑)…僕もちょっとあった気がするかな…?まぁ、挟まれた男は何も出来ないですよね(笑)。楽しんで演じました。

よく、「薩摩は男尊女卑でしょ?」と言われることもあるんですけど、実はそうじゃないんです。男性は家に帰ると奥さんの手のひらに乗っかっている存在で、でも外に出ると女性が男性を立ててくれるので、気持ち良くいられる。薩摩にはいろんな偉人がいますけど、やはりその影には素敵な女性がいましたから。男を活かすも殺すも女性の存在が大きいと思います。

民主主義では男女同権と言う発想があるけど、僕が考える男女同権は、同じ立ち位置ではなくて、「男は男らしく、女は女らしく」ということだと思うんです。ちょっとその辺を世間は勘違いしているんじゃないかな…。
──そういう意味では、本作は「ニッポン男子っていいよね!」と思わせる、男らしい男が描かれていました。志、熱い魂をもった日本人がいて、それを現代の日本人は受け継いでいるはずだと意識できましたし、中村半次郎や幕末のことをもっと知りたくなりました。
榎木:それはひとつの目的でしたので、そう言って頂けるとありがたいです。"歴女"が増えるのもわかりますね(笑)。周りに満足できるような男たちがいないですから、やはり歴史の中に求めてしまうんでしょうね。
──今回は中村半次郎という人物を作品にしましたが、次に演じてみたい、企画してみたい人物はいますか?
榎木:その時代の中で時代が必要とした、生き生きとした人物を演じたいという希望はあります。ヒーローじゃなくても、史実でもそうじゃなくてもいいんですけど、後世の人が観て何かを感じてくれるような人物です。どうせ作るなら、観終わった後で「楽しかった」「カッコよかった」だけじゃなく、深く話し合えるような映画を作りたい。その時代の男たちの生き様を通じて、歴史に興味がなかった人たちにも、何かが残せたらいいですね。
──役者として、「こんな人を演じたい」と思っても叶えることは難しいかもしれませんが、今回の企画を実現させた榎木さんの熱意は、劇中で半次郎が言う「戦う意味は必ず誰に届く」というのにも通じますね。
榎木:単純ですけど、「こんな人物をやりたい」という思いがあったら、自分で企画するしかないんですよね。誰かの企画に乗っても、「榎木君、この役は君の年じゃ無理だよ」と言われるのがほとんどですから、自分でやるしかないと思いました。この『半次郎』でも、僕は23歳から39歳を演じてますから(笑)、「今さら榎木さんが23歳の役?」って言われるかもしれないけど、僕は気にしません。それは、役者として演じるべきものでしたから。
『半次郎』
──最後に、これからご覧になる方々にメッセージをお願いします。
榎木:カッコいい日本人を描くことは、とても大事なことだと思っています。日本は本来、精神文化の高い国なんですが、現代の日本人は自信を失い、残念ながらその自覚意識があまりになさ過ぎると思っています。近年の悲惨な事件も、その自信のなさの延長上で起こっている問題だと思っているので、僕としては、「もう一度日本人の誇りを取り戻そうよ」という気持ちがあり、その近道が、こういった作品を作って、「カッコいい男たち、女たち」をちゃんと認識させることだと思いました。自殺願望やひきこもり…、昔はいなかった人たちが沢山いると思いますし、そういう人たちにも、とにかく映画館に一度足を運んで、「かつて日本にこういう人たちがいたんだ」ということを認識して欲しいと思っています。是非劇場に足を運んでみて下さい。
<取材協力:フィオーリアGINZA>
2010年10月8日
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『半次郎』
2010年10月9日(土)よりシネマート六本木ほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://hanjiro-movie.com/