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ちゃんと言葉で伝えるのが大事 ── 『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』小林聖太郎監督インタビュー

初恋~お父さん、チビがいなくなりました

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長年連れ添った夫婦の秘めた想いと愛を描き「泣ける!」「こんな夫婦になれたら」と話題を呼んだ西炯子の人気漫画を映画化した『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』が、5月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。本作で描かれるのは、50年一緒に過ごしてきて、初めてお互いの気持ちに向き合う2人に起こる、猫がくれた優しい奇跡。亭主関白な夫に心から尽くしながら、自分は本当に夫から愛されているのだろうかという寂しさを長年抱えてきた妻・有喜子を演じるのは倍賞千恵子。そんな妻に対しては無口でぶっきらぼう、離婚を突き付けられずっと心に秘めていたある想いを告白する夫・勝を演じるのは藤竜也。映画の公開を前に、メガホンをとった小林聖太郎監督にお話を伺いました。
ちゃんと言葉で伝えるのが大事 ── 『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』小林聖太郎監督インタビュー
──原作のどんなところに魅力を感じましたか?
監督:倍賞さんが演じる有喜子さんが、結婚を続けているからこそ味わっている寂しさというか、そんな感情を持つ女性って多いと感じていたので、そういう人たちへの…エールと言えば大げさですが、頑張りや〜とか頑張らんでもええでとか、そういう共感を届けられるんじゃないかと思いました。夫婦観にしても、時代というか社会全体の空気が今と違うし、女性がぼんやりと不満を抱えていたとしても、どうやってそれを表に出すか、なかなか一歩が踏み出せない時代ですよね。よき妻を求められるし、自分でも自分に求めてしまう。でも、そんなこと考えなくてもいいんじゃないかって思います。

『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』
──男性として、お父さんに共感はしませんでしたか?
監督:全くなかったですね(笑)。最後に一言告白したぐらいでは許されない50年だぞ、って僕自身の気持ちとしては思うんですけど(笑)、有喜子さんにとってはそれが幸せなのかもしれないので、女性たちが団結して革命を起こすって感じじゃなく、みんな穏やかでいい気分で物語が終わればいいかなって思いました。

でもお父さんはお父さんで辛かったとは思うんです。男たるものこうあるべしと、求められるものが強くあり、家族を養っていく不安とか、会社での立場とか、色んなことを考えて彼なりに頑張ってきたけど、“彼なりに”というのが問題であって(笑)、お互いに一切共有しなかった故にこんなことになってしまった。だから、こうなる前に、早めにふたりでちゃんとコミュニケーションをとろうね、と、思っていただければうれしいですね。時間は取り戻せませんから。

『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』
──倍賞千恵子さんと藤竜也さんが夫婦役を演じましたが、ベテランお二人との仕事はいかがでしたか?
監督:倍賞さんはスクリーンで長年観てきた方なので、ご一緒できてうれしかったです。ものすごく可愛らしい方で、オープンさにも程があるというか(笑)。防ぎようがないほど溢れ出るかわいらしさがありました。

藤さんとは、『村の写真集』で、助監督としてご一緒しました。その時、藤さんは撮影隊よりも早く、お一人で自家用車で先行して四国の山奥に来られていて、毎晩飲み歩いて馴染みを作り、地元の言葉を覚え、土地の空気を吸収して、すっかり地元に馴染んでいました。ホテルの一室で自炊されていて、その真摯さ、垣根の低さに驚きました。人間としても面白いし素晴らしい。是非またご一緒したいです。
──藤竜也さんは、亭主関白な夫を演じましたが、どのように話し合われましたか?
監督:藤さんは初めて脚本を読んだ時、今どきこんな男がいるのか?ちょっとやり過ぎじゃないか?って疑念を持っていたみたいですね。ところが、周りの業界人じゃない友人10人以上にリサーチしたところ、「うちの夫がそうだ」って言う方が結構いたらしくて(笑)、しかも親世代どころか50代ぐらいの人でもそういう方がいると聞いて、ショックを受けるとともに、納得して演じたようです。
──本作で描かれた夫婦は、長年連れ添っていながらも一方通行だったり、すれ違っていながらもお互いに思い合っていますよね。監督が思う家族、夫婦とは?
監督:みんな、血の繋がりを信じすぎるというか、そこに甘えすぎるところがあると思うんです。血が繋がっていようがいまいが、それぞれ1人の人間、他人であって、同じではない。もし、自分のクローンがいたとしても、2人でいたら、たぶん揉めるんですよ。だから、遺伝子がちょっと似ている程度で、通じ合えるなんて思ったら大間違い(笑)。一緒に住んでいても夫婦は他人だし、家族も他人だと思うところから始めるしかないですよね。逆に、そこがしっかりしていれば、血が繋がっていなくてもそれは家族と言えるんじゃないかなって思います。

『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』
──倍賞さんと藤さん演じる夫婦の子供たちを演じた小市慢太郞さん、西田尚美さん、市川実日子さんも素晴らしくて、この家族の物語をずっと見ていたいと思いました。
監督:僕も撮っていてそう思いました(笑)。大好きな一家です。家族が揃う場面は少ししかないけど、この家族がどんな結びつきなのか、誰と誰だったら魅力的に見えるか、どんな空気になるだろうかって組み合わせを考えて出演をお願いしました。思った通りというよりも、それ以上のものが出たと思います。
──母親が“離婚”を口に出したとき、動揺しながらも一人の女性として話を聞く娘。素敵な母娘像だと思いました。
監督:お母さん自身が今まで自分の本当の心から目をそらしていて、それに気付けたっていうのがこの物語のポイントだと思います。どうしても母親業をこなすことで自分自身をごまかしてきて、子供たちが大きくなって、ぽっかり空いてしまった穴を猫と韓流ドラマで埋めちゃったけど、それは麻薬でしかなかったと判明した(笑)。本質に向き合わず、解決せずに来ちゃったのが、今回返ってきてしまったんですね。

『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』
──この映画のもう一つの重要なポイントである猫の演出はいかがでしたか?
監督:助監督の時にも猫で苦労したことがあったので、撮影前は結構気が重かったです。動物の中でも猫と爬虫類は人間の言うことを聞かないですからね(笑)。演技という程じゃなくても、窓から入ったら段を降りるとか、ご飯を食べるとか、それだけでもあらぬ方向に行っちゃうので結構大変ですが、繰り返すしかないですね。でも今回のリンゴ(チビ役)ちゃんは賢くて、最大でも8回ぐらいでこなしていました。猫のなかでは信じられないほど優秀だと思います(笑)。
──監督はデビュー作から今作までで、家族・家族・音楽・ヤクザ・家族を描いています。映画の題材として、家族を描いていきたいという気持ちがあるのですか?
監督:特別、家族にこだわっているわけではないですが、社会の最小構成単位なのでやはり面白いですよね。音楽(『マエストロ』)もヤクザ(『破門』)も、他人同士が揉め合いながら一緒にやっていくという話でしたから、そういう意味では共通していますね。もう少し幅を広げていきたいとは思っていますが…。

『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』
──最後に、この映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。
監督:危険信号が点っているなと感じた妻が、夫を連れて観に来るのがいいかもしれませんね(笑)。連れられてきた夫は、「俺ももしかして…?」って思うかもしれません。自分で喋らずに相手に気づいてもらうなんて思わず、ちゃんと言葉で伝えるのが大事。言葉が不足しているなと思ったら、コミュニケーションの第一歩として観ていただければと思います。

2019年5月9日
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『初恋〜お父さん、チビがいなくなりました』
2019年5月10日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト:http://chibi-movie.com