ニュース&レポート

二人の心情と重なる、江の島の風景と曖昧な時間帯 ──『ホットロード』 三木孝浩監督インタビュー

ホットロード

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイートする
  • Facebookでシェアする
1980年代に別冊マーガレットで連載された、紡木たくの原作コミック「ホットロード」。主人公に共感する若者たちによって時代を超えて読み継がれている不朽の名作が、今最も注目を集める若手女優、能年玲奈を主演に迎え映画化。心に傷を持つ14歳の少女・和希と、孤独に生きる不良少年・春山、二人の刹那的な純愛を儚くも瑞々しく描き出したのは、『ソラニン』『僕等がいた』『陽だまりの彼女』などのヒット作を手がけ、恋愛青春映画の名手として高い評価を得ている三木孝浩監督。映画の公開を前に、三木監督に話を伺いました。
二人の心情と重なる、江ノ島の風景と曖昧な時間帯 ──『ホットロード』 三木孝浩監督インタビュー
──伝説的なコミックを映画化することになりましたが、監督と原作との出会いは?
監督:映画化の企画の話があった時に読みました。もちろん“ホットロード世代”ではあるんですけど、当時は読んでいなかったものの、周りの女子達が熱狂していたのは覚えていたので、「あれか!」と思いました。映画化の発表をした瞬間に、同世代の女性陣から「ちゃんと作ってね!」って圧力が半端なかったですね(笑)。それほど神格化された物語ですから、昔から読んでハマってたら、この映画化のプレッシャーに耐えられたかどうか(笑)。
──三木監督は、今や恋愛映画、青春映画の名手と言われていますし、三木監督ならちゃんとこの世界観を描いてくれるだろうと期待する人も多いと思います。
監督:いやいや、期待に応える方が大変なので、逆プレッシャーですね(笑)。今まで何本か青春ラブストーリーを撮ってきましたが、一つとして同じものにならないし、似てるって思われたら失敗なんです。和希と春山ならではの恋愛観の切り取り方は、また他の作品と違うものでなくてはならない。やればやるほど逆に難しくなるとは思いますね。
──原作を映像化しようと思った時、真っ先に浮かんだシーンはありますか?
監督:バイクのそばで寝ている春山と、それを見つめる和希のカットですね。その先の危険を知りつつも、ただただ無邪気に寝ている春山の姿と、そんなところに惹かれている和希。原作は絵になるカットが多いですが、あそこは距離感も含めてすごく好きなシーンです。

あとは、ガソリンスタンドでの最初の出会いのシーンですね。ボーイ・ミーツ・ガールのシーンが「殴る」って(笑)。恋愛物語だけど、和希と春山が不器用にぶつかり合う姿がすごくいいですね。好きなのに、相手に対してイライラする。この二人はぶつかり合ってから、求め合う。距離感がフワフワしているというか、何気にプラトニックだなと思いました。
──原作は80年代の物語ですが、世代や時代背景など意識しましたか?
監督:もちろん原作の世代に届けたいという意識もありましたが、懐古趣味的に物語を作るのではなくて、今の10代にも伝えられる物語として作るべきだという思いはありました。携帯電話のない時代が舞台ですが、ことさらノスタルジーを追い求める映画にはしたくなかったんです。
──和希と母親の関係、不良カルチャーなど描く上で気をつけたのは?
監督:木村さん演じるママが、母親になるまでの物語というか、母親として和希の思いに触れて、ちゃんと母親になる瞬間に僕は感動したので、そこは丁寧に描きたいと思いました。

この物語は不良カルチャーのディテールを追う物語じゃないし、実は春山もその中で浮いている存在で、どこか自分の在り方を捉え切れてない、むしろ和希と出会うことによって生身の自分というか、実態を取り戻していく物語だなと思っていました。それに春山って、不良というより、“ツンデレ”というか、危なっかしいけど母性本能をくすぐられるタイプですよね。なので、不良を描くというより、バイクが好きで、ちょっと無茶をしてしまう男の子という枠組みでいいなと思いました。
──ほかに映像化するうえで意識したこととは?
監督:場所ですね。江の島の134号線から生まれた物語なので、ロケ場所にはこだわりました。撮影前の打ち合わせで、原作の紡木先生が自ら原作の舞台を案内してくれたんです。原作でのケンカのシーンの場所、和希が拠り所にしている堤防とか、二人思いを重ねる風景が生まれた場所なので、江の島以外で撮れる物語ではないと思いました。

あと、時間帯も意識しました。自分たちの居場所、拠り所を探してさまよっている二人の、心の中の風景に重なるのが、“境目の時間帯”だと思うんです。セリフで伝える物語ではないですし、10代の、すごく曖昧で言語化できない思いを乗せられる風景…と考えた時に、夕方から夜、あるいは朝日が出る前の淡いブルーの世界、ギリギリのグラデーションになっている時間帯が合っていると思いました。どっちともつかない曖昧な、でもその中にも美しさがある。そういった空気感を切り取れればいいなと思いました。
──主人公の二人、能年玲奈さんと登坂広臣さんはいかがでしたか?
監督:キャスティングが決まった時、能年さんは「あまちゃん」のオンエア前だし、登坂君にいたっては誰も芝居を見たことがないので、実のところびっくりしました。でも二人とも、まなざしが和希と春山に重なりますね。セリフじゃなくて、互いを見つめる目に芝居じゃない存在感を感じさせられる。もしかしたら、芝居に慣れている人では出来なかったかもしれない。フレッシュな二人だからこそ演じられるキャラクターなんだと、撮っている時に感じました。

登坂君はもちろん、すごくリハーサルしましたし、技術的な面ではレクチャーしたけど、彼自身は、三代目J Soul Brothersとしてステージに立つ人なので、勘の良さがある。セリフのリズム感、トーンの出し方とか理解力が高いし、反応が良かったですね。和希の母親とのシーンのセリフの出し方も味わい深くて、登坂君ならではの春山になっていると思います。春山役はすごくプレッシャーだったと思いますが、物怖じせずに期待に応えてくれて、その心意気も格好良かったですね。
──主題歌、尾崎豊さんの「OH MY LITTLE GIRL」もまた物語を盛り上げていますね。
監督:『ホットロード』の主題歌と考えた時に、尾崎さんの名前しか出てきませんでした。僕も尾崎さんが好きですし、ライブビデオを見ていて、MCの時にふっと笑う感じとか、尖った中にも意外な柔らかさがある部分が、春山とキャラクター像が重なると思いました。歌っている世界観もフィットするので、シンクロ率が高いですよね。原作漫画も尾崎さんも全く色褪せてないものですし、今の10代の人たちにも世界観を感じ取れると思うので、時間差を埋めてくれる曲で本当によかったと思います。
──これまで青春映画を撮られてきましたが、今後挑戦したいジャンルはありますか?
監督:もちろん違うジャンルに挑戦したいと思います。でも、ふと思い返すと、結局自分は、この世代が好きなんだろうなと思います。自分の気持ちに無自覚で、自分自身を捉え切れていない子たちのもどかしさを撮りたいと思うし、撮っていて楽しいです。どんなジャンルを撮るにせよ、結局青春ものになっちゃうのかなって(笑)。
──最後にメッセージをお願いします。
監督:恋愛関係なり、親子関係なり、どんな世代でもそれぞれ重ねられる部分があると思います。今はコミュニケーションツールが増えて便利になっているけれど、本当の気持ちを相手に伝えられているかというと、逆に難しくなっているかもしれない。『ホットロード』の時代は、携帯電話もメールもなく、コミュニケーションしづらい状況ではあるけど、そんな状況だからこそ相手のことを思う時間が長かったり、自分の思いを育むことができる。そして相手と相対した時にどういう思いをぶつけるのか、物語を通して“思いの育み方”など考えるきっかけになったら嬉しいです。
2014年8月13日
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
『ホットロード』
2014年8月16日(土)より全国公開
公式サイト:http://www.hotroad-movie.jp