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小さな幸福を夢見ている社会の片隅の人々の物語『希望の灯り』トーマス・ステューバー監督インタビュー

希望の灯り

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旧東ドイツ・ライプツィヒ近郊の巨大スーパーマーケットを舞台にした映画『希望の灯り』が、4月5日(金)よりBunkamuraル・シネマほかにて全国公開。本作は、ライプツィヒ生まれのトーマス・ステューバー監督が、クレメンス・マイヤーの短編小説「通路にて」(「夜と灯りと」に収録)を映画化した人間ドラマ。社会の片隅で助けあう人々の日常、そして淡い恋を静かに描き出す。映画の公開を前に来日したトーマス・ステューバー監督にお話しを伺いました。
小さな幸福を夢見ている社会の片隅の人々の物語『希望の灯り』トーマス・ステューバー監督インタビュー
──原作のどんなところに惹かれて映画化しようと思ったのですか?
監督:原作は本当に短い30ページほどのもので、映画の尺を思うと未だに信じられないよ(笑)。独特の雰囲気があり、最初に読んだ時にハッと心を掴まれた。孤独についての物語だが、スーパーの通路の間でマジカルなことが起きる。もともとクレメンスの筆致は映画的でもあるが、この短編と同じような作品を映画として作りたいと思ったんだ。小さな幸福を夢見ている社会の片隅の人々の物語をね。しかし、映画化するためには何かしら増やさなければいけない。でも台詞も説明も増やしたくない。どうしたらそれが実現できるか工夫しながら作っていったんだ。
小さな幸福を夢見ている社会の片隅の人々の物語『希望の灯り』トーマス・ステューバー監督インタビュー
──俳優の印象や台詞、台詞の間、場所など、すべてが相まって、すごく映画的な余韻の残る作品だと思います。この雰囲気が重要だと思いますが、こういったものは脚本段階で綿密に落とし込んでいくのですか?
監督:今回の脚本は、例えば「YES」と言った後、間・間・間・「本当?」というような、余白がたくさんある脚本だったので(笑)、あまり脚本には書き込んでいないんだ。映画は、どうしたらそういう雰囲気になるのか説明するのが難しい。現場でどうなるか分からないからね。思った通りになる時もあれば、全然違った形になるけど、かえって良くなったりして、まさにそれが映画のマジックだと思う。ただ、脚本を書き上げたから「よし!撮影だ」というわけじゃなく、撮影前に役者との時間をしっかりとって、色んなことを話し合って、役者のイマジネーションから出てくるものを取り入れて、皆で一緒に作っていくんだ。

今回は、メインの3人の役者は実際に卸専門のスーパーで2週間仕事をしてもらったんだ。僕も含めて皆フォークリフトの免許を取ったから、もし監督として食べていけなくなったら、フォークリフトの仕事ができるよ(笑)。
小さな幸福を夢見ている社会の片隅の人々の物語『希望の灯り』トーマス・ステューバー監督インタビュー
──スーパーという場所も大事な要素ですね。
監督:僕は映画を作る時にまず考えるのが、キャラクターのいる職場や環境。僕の描く登場人物はどんなアパートに住み、どんな内装に変えるのか。前作の『ヘビー級の心』の主人公も、どんなところに住んでいるのか考えてから物語を作っていったんだ。この作品の後に撮った『Kruso』も、バルト海に浮かぶ島のレストランの厨房を舞台にしている。映画における「場所」は登場人物について何かを教えてくれるものだし、カメラがそれをいかに捉えるかをいつも考えている。僕にとっては「場所」はすごく重要なポイントなんだ。

消費社会やマスマーケットといった要素も、物語の多層構造のなかに入れ込んでいる。ただ、他の作品と違って、そこで買い物する客の姿を見せることにはあまり興味がなくて、裏側だけを見せることを意識した。そこで働く人々の視点から、資本主義や消費社会を語りたいと思ったんだ。
小さな幸福を夢見ている社会の片隅の人々の物語『希望の灯り』トーマス・ステューバー監督インタビュー
──主人公のクリスティアンは、孤独と闘いながらもスーパーの人間関係の中でゆっくり変化していきます。フランツ・ロゴフスキさんとはどんな風に話し合ったのですか?
監督:今回の作品は、文学をそのまま映画にするので、アドリブもあまりなく、ある種の正確無比さが必要だったから、最初に僕のアプローチ法を理解してもらい、リハーサルを重ねてから撮影に入ったんだ。フランツと仕事したのは今回が初めてだけど、彼は肉体や顔も含めて映画向きな役者だと思う。実際にフィルモグラフィをみても、あまりテレビには出ていなくて、映画をメインにしているけどね。

物語には大きな変化があるわけでもなく、ターニングポイントと言えるものがない。よく言われることだが、映画は新しい物語なんてなくて、いくつかの物語が繰り返されているだけだ。僕は、ボーイミーツガールという典型的なラブストーリーを、僕なりに、リアルな人生にのせた物語として描きたかった。フォレストガンプ的なものじゃなくてね。そのためには、フランツの顔が必要だった。彼の顔はずっと見ていられるから、正しいリズムを最初に見せることができれば、観客がついてきてくれると思ったんだ。

あと、フランツは、スラップスティック的な要素を持ち込んでくれた。すごく気に入ってるのは、フランツの気持ちと同調するかのようにフォークリフトが好調だったり不調だったりするところ。マリオンが視線を送ってくれないときには、ビールをケースごと落としそうになったりして、フォークリフトと格闘しているかのような感じが気に入っている。ちょっとコメディタッチなところはフランツが持ち込んでくれたものなんだ。
小さな幸福を夢見ている社会の片隅の人々の物語『希望の灯り』トーマス・ステューバー監督インタビュー
──もう一人の重要なキャラクターであるブルーノを演じたペーター・クルトさんも哀愁があって素晴らしかったです。前作の『ヘビー級の心』では主人公を演じていましたが、監督にとって彼の魅力とは?
監督:彼は実はこの物語の主人公でもある。全ての物語が彼と繋がっているんだ。クリスティアンにとってメンターであり、父親的な存在。そしてマリオン情報もブルーノから得ているからね。

『ヘビー級の心』の時に感服して、今作でもオファーしたら「僕じゃないのでは?」って言うから、何とか口説き落とした。今回の作品でさらに彼に対する敬意が増したよ。最初は、前作と同じように台詞を減らそうとするから、そこは闘ったんだ(笑)。結果的に、ブルーノは結構喋っているんだけど、その奥底にどこかひびが入ったような、うつ状態というか悲劇的なことを想像させるキャラクターになっている。観客を、キャラクターの心の奥底へ引っ張り入れてくれる力をもっているんだ。

マーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロのように、監督と役者の稀有な巡り合わせがあるけど、僕にとって彼はそういう存在。彼の東ドイツ的なところも好きなんだ。身体もハートも大きくて、どんなに怖ぶっていても心の温かさを隠せない目をしている。僕が綴るアウトサイダーの物語にピタっとはまってくれる存在なんだ。
2019年4月4日
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『希望の灯り』
2019年4月5日(金)、Bunkamuraル・シネマほかにて全国公開
公式サイト:http://kibou-akari.ayapro.ne.jp