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説得力のある浮遊シーンが出来た──『ジュピターズ・ムーン』コーネル・ムンドルッツォ監督インタビュー

ジュピターズ・ムーン

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前作『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』が世界の映画祭を席巻したコーネル・ムンドルッツォ監督最新作『ジュピターズ・ムーン』が、1月27日(土)より新宿バルト9他にて公開。本作は、人生に敗れた医師と不思議な力を持つ少年の命をかけた逃亡を、テロや難民問題を内包しながらも、圧倒的な映像表現で描いたSFエンターテインメント。本作のメガホンをとったコーネル・ムンドルッツォ監督に、撮影の舞台裏を伺いました。
説得力のある浮遊シーンが出来た──『ジュピターズ・ムーン』コーネル・ムンドルッツォ監督インタビュー
──SF仕立てであり、ファンタジックで、スリリングなアクションもあり、社会的要素も盛り込まれ、まさにジャンルレスな作品でした。
監督:僕は様々なジャンルをミックスした作品が好きなんです。純粋に1つのジャンルで括られるものが、最近は空虚になっているというか、観客も満足出来ないと思うんです。ジャンルをミックスすることの良さを映画の評論家に説明するのは難しいけど、観客はピンとくると思う。現代のカルチャーは色んなものがミックスされているし、SNSなどで多様な情報を同時に受け取ったりする世の中だからね。ジャンルを飛び越えて何層にも重ねて表現するからこそ真実が現れるし、この方法で描くことが面白いんだ。
──浮遊する少年という設定は、監督自身が子どもの頃に読んだ本に影響を受けているそうですが、主人公が難民の少年というのは、近年ヨーロッパで難民問題が大きくなっていたからでしょうか?
監督:浮遊している少年という画はすごく挑発的なものと感じていたし、しかもマーベルのヒーローとは違う形で表現できれば、きっと印象的なものになると思っていました。アートは自由だから、出来るか出来ないか考えるよりもやりたいことはなんでもやってみようと思ったわけです。

この脚本の第一稿が書き上がったのは2013年頃で、『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』がまだ公開されていない時期でした。難民問題が勃発する前のことで、脚本には“どこか近い未来”と書いていましたが、この企画をハンガリーのフィルムファンドに提出したら、2015年頃に連絡が来て、「時事問題すぎるが、どういう事だ?」と聞かれたんです。もちろん僕自身はそういうつもりはなかったので、描こうとしていたことに現実が追いついてしまったんです。あまりに現代の問題に触れているので、作るべきかどうか、プロデューサーと話し合いました。

実は、僕自身は政治的な映画を作るのが大嫌いで、アートは、政治やジャーナリズムと最も距離を置いておくべきだと思っているんです。難民問題はそれぞれに色んな意見があるし、人々はこのトピックに自分自身の真実を見出そうとしている状況です。作品を通して政治的な主張をするようなものは作りたくないと思っていたけど、3年も温めていた作品だったし、僕にとってこの物語は寓話だったので、観客がそれぞれ意見を持つだろうことを想定しつつ、難民という設定のまま描こうと最終判断をしました。
──ハンガリーでは現在、難民を受け入れてないと思いましたが、劇中では難民キャンプのシーンもありましたね。
監督:2014年に、この作品ではなく舞台に取り組んでいた時、ちょうどこの問題が大きくなってきた時期に、難民キャンプでカメラを回していました。その半年後にはハンガリー国内に難民キャンプはなくなったけど、その時のフッテージを再利用しつつ、オーストリアから難民を呼びキャンプを再現しました。映画の撮影とはいえ、難民キャンプを再現するというのは、関わった全ての者にとって感慨深い体験でした。
──主人公が“浮遊する”という表現について、私はもちろん浮遊したことはないけど(笑)、「浮くってこんな感じだよね」と思わせるような没入感というか、マーベルヒーロー的でも宇宙空間でもない“浮遊感”がとても斬新でした。
監督:簡単に言うと“欲望と自由”です。アリアンを演じたゾンボル(・ヤェーゲル)にも言ったのですが、重力を感じないような表現ではなく、ここじゃないどこかへ行きたいという欲望や、自分が今出来ないことをやりたいという気持ちを表現して欲しいと伝えました。この欲望と自由の表現が、観る側を共感させているのだと思います。
──浮遊シーンの撮影はブルーバックかと思っていましたが、実際にクレーン車で宙づりにして撮影したそうですね。
監督:ワイヤーはCGで消したけど、ほぼ100%をその場で撮影しました。ゾンボルを中心にして、部屋の形をした装置にカメラマンを6人配置して宙づりにしたんです。僕は高所恐怖症なので無理だったけどね(笑)。浮遊する夢を見る人は多いと思ったし、その浮遊が信じられるものでなければならない。実際に説得力のある浮遊シーンができたと思います。


──前作『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』も240匹以上の犬を使った困難な撮影をしていましたが、今回の撮影もまたハードルを上げましたね?
監督:今回の撮影の方が大変でした。イメージにおいても物語においても、作品ごとに新しいテリトリーを見つけることにワクワクします。僕はヴェルナー・ヘルツォークの『アギーレ/神の怒り』や『フィツカラルド』を観た時に、体中に電気が走るような衝撃を受けたんですが、最近の映画ではそういったものが見られません。だから、映画の力を自分なりに表現したいと思っていて、常にリスクは付きものだけど、新しいものを模索していきたいと思っています。映画は新しいテリトリーを必要としているし、それによって観客もより自由になると思う。不思議の国のアリスが穴に落ちていくように、我々を未知の領域に誘ってくれる入り口が、映画というものだからね。
──この作品に限らず、ハンガリーでは最近、こういった大がかりな撮影がよく行われていますね。あまり規制が多くないのでしょうか。
監督:今のハンガリーでは、撮影にフレンドリーな法律や税制があって、ブダペストは基本的にお金さえあれば何だって撮影できます。住民の許可も不要で、街の許可さえ取ってしまえば、住民は文句を言いながらも従うしかありません。ハリウッド大作も、多くがブダペストで撮影されているので、質の高い素晴らしいスタッフが揃っています。今はバブルかもしれないけど、良質なバブルだと思っています。
──最後に、この映画を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
監督:とてもユニークな作品なので、映画において自由さを楽しみたい方、いつも同じスープを飲みたくない方々にとっては、特に楽しんでもらえると思います。


2018年1月24日
『ジュピターズ・ムーン』
2018年1月27日(土) 新宿バルト 9 ほか 全国ロードショー
公式サイト:http://jupitersmoon-movie.com/