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原作に描かれていないスペースを見つけて、攻略する──『桐島、部活やめるってよ』吉田大八監督インタビュー

桐島、部活やめるってよ

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第22回小説すばる新人賞を受賞し、ベストセラーとなった朝井リョウの原作を映画化した『桐島、部活やめるってよ』。本作は、学校内の誰もが認める“スター”桐島が部活を辞めるというニュースが校内を駆け巡り、部活内、友人関係、恋愛関係、そしてどこにでも存在する、“上”と“下”の関係に歪みが広がっていく様を生々しく描いた青春映画。監督は、『パーマネント野ばら』の吉田大八監督。若者たちの、ふとした事で変化していく繊細な人間関係と、彼らそれぞれの想いを丁寧にすくい取った吉田監督にインタビュー。映画に込めた想いやキャストの魅力を語っていただきました。
原作に描かれていないスペースを見つけて、攻略する──『桐島、部活やめるってよ』吉田大八監督インタビュー
──前作『パーマネント野ばら』に続き、原作ものになりましたが、本作のメガホンをとることになった経緯を教えてください。
監督:『パーマネント野ばら』を観たプロデューサーから連絡があり、この映画の企画を知りました。原作は、本屋に置いてあるのを見かけたことはあっても、自分には縁遠い世界だと思っていたので驚きました。でも、その第一印象と自分との距離が逆に面白くなって、自分がこれをどう映画に出来るんだろう、この映画に関わることで自分がどのように変わるんだろう?と。それも見てみたいな、とは思いました。
──プロデューサーから、どんなことを期待されていると感じましたか。
監督:最初に聞いたのは、『パーマネント野ばら』で、登場人物ひとりひとりの表情が印象的だったということでした。「桐島〜」の原作はモノローグで心情や情景が語られるけど、映画の場合、モノローグだけでは結構ツラそうなので、登場人物の表情で見せれば映画として語れるんじゃないか、それで…と言う感じになったと想像してます(笑)。
──遠い世界観だろうと想像していた原作本は、実際に読んでみていかがでしたか?
監督:もうちょっと甘酸っぱい雰囲気の青春ものだと思っていたのですが、全然想像と違ったので、いい意味で驚きました。登場人物の心情を、すごく丁寧に、かつ冷静に解体して、ちょっとづつ腑分けして並べていく。そういう淡々とした手つきの果てに、最後には、感情をグッとつかむ。はっきりした事件がないのも魅力的でしたが、何もないのに痛みだけ残るところが、すごくよかった。ラスト近くの、前田と宏樹が向かい合う場面は、是非映画でやってみたいと思いました。
──「ひかりが振り返った」という表現ですね。
監督:「ひかり」が振り返るんですよ(笑)。よく書いたな〜って感心します。この表現を、映画のやり方で近いものにするって、挑戦のしがいがあるテーマだなと思いました。いろんな意味で決め手でしたね。
──「はっきりした事件がない」という原作ですが、映画ではちゃんとグランドフィナーレを用意していますね。このあたりの構成はどのように考えていったのですか?
監督:前田(神木隆之介)と宏樹(東出昌大)の場面をゴールとして、映画では原作と別のルートを通って辿り着くというつもりで脚本を作っていきました。ほぼ関係が無い二人を同時に屋上にあげるためには…と考えて、一番思い切った球を投げてみました(笑)。
──前田君のカメラを通して観る世界は、何というか感動的でした(笑)。
監督:ロケハンの帰り、アクションやスタントの話をしているうちに偶然思いついたんです。半分冗談のつもりでその場で口にしたら、相手が微妙な表情だったので「やっぱりやり過ぎか…」と思ったのですが、結局やってしまった(笑)。僕もあのシーンは好きです。
──前田君は映画部で、原作では岩井俊二監督の青春映画などがピックアップされていますが、映画ではゾンビ映画や『鉄男』(塚本晋也監督作品)が登場します。これにはどんな意図が?
監督:ゾンビやホラーなど、一般的に後ろ指をさされがちなジャンルへ映画部を追い込みたかった、というのはあります。女子生徒に気持ち悪がられたり、顧問の先生に「ゾンビ映画が撮りたい」と言ってもなかなか許可されないような状況が、最終的に彼らが反撃するときのバネになるので。あと、ゾンビが噛みついた相手を自分と同じゾンビに引きずり下ろす、というところで、学校の中に見えない形で出来ているヒエラルキーに対する前田たちの気持ちみたいなものも、うまくゾンビに託せるなと(笑)。ゾンビにすることで、いろいろな意味で腑に落ちるなと思いました。

映画館のシーンについては、好きな女の子と映画の趣味が合えば嬉しいけど、それが大メジャー映画じゃなくって、より観客を選ぶ『鉄男』のような映画ならもっと嬉しいじゃないですか。こういう言い方をすると塚本さんに怒られるかもしれないけど(笑)。それだけで相手との距離が縮まった気がしてくるから。そんなことがあったらいいなっていう、映画好きにとってのファンタジーです。
──神木隆之介さん、橋本愛さん、大後寿々花さんはどんな経緯で起用を?
監督:脚本づくりと並行して、登場人物のイメージが固まったところで俳優をピックアップしていきました。この世代の俳優でベストの布陣を組まないと戦えないので、この3人が決まってくれたら心強いと思いました。タイミングが合ってよかった。
──ほかのキャストはオーディションで選んだそうですが、宏樹役の東出昌大さんはとても魅力的でした。
監督:宏樹役は一番悩みました。東出君は初めて会った時に魅力的だと思ったけど、「演技」している姿が正直想像できなくて。でも、その後もなんか忘れられずに(笑)また呼び出して…と、5〜6回繰り返して会ううちに、だんだん彼の顔が変わってきて、いい感じの揺らぎが出てきたんです。モデルで活躍しながらアクセサリーのデザインも手掛けてそれなりに安定していたけど、それをいったん辞めて役者に絞るという、自分の進路に対する不安げな佇まいが見えてきて、宏樹らしくなっていきました。最終的には思いきって、彼が伸びる勢いに映画として乗っかってしまえと(笑)。青春映画にはそれくらいの賭けがあったほうが面白いと思いました。現場に入って、周りの俳優たちとの関係もあってどんどん役者の顔になっていく。彼自身がひたむきに役と向き合っていたのが何よりよかったのだと思います。
──橋本愛さんが演じた「かすみ」は原作にはあまり登場しませんが、このキャラクターに肉付けしたのは?
監督:かすみもそうですが、原作に書かれていない部分を想像して映画で描くことで、原作が好きな人にも違った魅力を感じてもらえると思いました。そのかわり、諦めなくてはならない場合もあります。例えば(原作では)実果の家庭の話は人気のあるエピソードでしたが、映画ではシチュエーションを極力学校内に限定して圧力を高めたかったので、あえて削りました。色々議論はあったけど、かすみのことや、梨紗(桐島の恋人)と沙奈(宏樹の恋人)が2人でいるときは何話してるんだろう?…など、想像する余地はまだ残っていたので、原作のスペースを見つけて、攻略するイメージを持って脚色していきました。
──先ほど、この原作の映画化を手掛けることで「自分がどのように変わるんだろう?」と仰っていましたが、撮り終えてみて、ご自身が変わった部分はありましたか?
監督:どう変わったかは、もうちょっと時間が経たないと分からないですね。でも最近、消費税でも原発でも、将来に関わる選択についてのニュースを見るたび、最大の当事者であるはずの若い人たちがどう思っているんだろう?ということは強く考えるようになりました。彼らもおそらくどんな議論があるのかは肌で感じてると思うけど、自からはあまり声を発しないですよね。じゃあ今大人は何を考えて、行動するときには何を意識するべきなのか。そういうことをこれまで僕はあまりにも考えてこなかったような気がします。この映画で若い人たちと接して、情が移ったのかもしれません(笑)。
──最後にこの映画を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
監督:あえて大げさに言いますけど、今最も語られるべきなのは『未来』だ、という強い思いでつくった映画です。皆さんにどう楽しんでもらえるのか、僕自身がいちばん楽しみにしています。
2012年8月7日
『桐島、部活やめるってよ』
2012年8月11日(土) 新宿バルト9ほか全国ロードショー
公式サイト:http://kirishima-movie.com