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この映画でショックを受けて立ち直ったら、いい恋愛が出来る─『恋の罪』園子温監督インタビュー

恋の罪

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園子温監督の新作『恋の罪』は、渋谷区円山町ラブホテル街で起きたエリート女性殺人事件からインスパイアされた物語。貞淑なセレブ妻である一方、心の渇望を埋められない女、大学教授という社会的な地位にありながらも狂ったように体を売る女、仕事と幸せな家庭を持ちながらも愛人との関係を絶てない女刑事。境遇の異なる3人の女性の生きざまをセンセーショナルに描き、神楽坂恵、冨樫真、水野美紀がそれぞれ過激な性描写も含め体当たりで演じる。『冷たい熱帯魚』から一転、女性の愛と性を大胆に描き出した園監督に直撃しました。
この映画でショックを受けて立ち直ったら、いい恋愛が出来る─『恋の罪』園子温監督インタビュー
──『冷たい熱帯魚』に続き、実際の事件(東電OL事件)にインスパイアされて映画化されていますね。
監督:そうです。以前から「グロテスク」(同事件を扱った桐野夏生の著書)とかの小説を元にして作るとか、オリジナルで作るとか、何度かオファーはあったんですけど、どうも重くて、僕に出来るかな?という思いはありました。「東電OL事件」のみを映画化するには確かな資料が少ないし、犯人推理劇にはしたくなかったので、その女性個人について書けば話が広がるなと思いました。『冷たい熱帯魚』の後は、“女性讃歌”の映画にしたいと思っていたので、“女”をテーマにした途端に、書きやすくなったし面白いなと思ったんです。
──女性の心の深いところにある闇や渇きを描いていますが、1人ではなく3人の女性にしたのは?
監督:男の僕が、「女はこういうもんだ」って決めつけると必ず失敗すると思ったんです。1人の女性に絞ると男として理解を深められないので、取材を進めながら、3人にして3つのタイプにすることで、何か、想像だけで突っ走らないですむブレーキがいっぱい出来るんじゃないかと思ったんです。でも、台本はかつてないほど大変でした(笑)。
──『冷たい熱帯魚』の時は、歌舞伎町のホストに殴られに行って書き上げたとか、壮絶な脚本づくりを話してましたね。今回はもっと凄いことに(笑)?
監督:『冷たい熱帯魚』は肉体的に大変だったけど、『恋の罪』は精神的に大変だった(笑)。
──劇中では、「言葉なんておぼえるんじゃなかった」という田村隆一さんの詩、「帰途」が出てきますね。
監督:もともと田村さんの詩は好きだったので、取材を受けている時によく比喩で使っていたけど、色んな映画でまたがって引き合いに出したので、よほどこの詩が(自分にとって)重要なんだとわかりました。映画の中で使う気はなかったけど、美津子がやる授業の内容を考えた時に、直感で出てきました。例えば「愛」ならば、言葉を埋め尽くしても、セックスで埋め尽くしても「愛」は表現できない。そんな揺らぎの中にあるものが愛だと思う。そういう曖昧模糊としたものを表現するのに適しているなと思った。理屈を超えたところで考えましたね。それしかないと。
『恋の罪』 『恋の罪』
──その大学教授、美津子を演じた富樫さんはエキセントリックでした。
監督:オーディションで決めたんですけど、彼女が入ってきた時に、美津子そのものが現れたという感じでしたね。そんなに悩まなかったです。
──神楽坂恵さんは、前作に引き続き起用されていますね。彼女にどんな魅力を感じていますか?
監督:“女優女優”していなくて、素朴なんですよね。普通の女優だと、「大河ドラマに出たい!」とか、夢があると思うけど、彼女にはそういう野心が全くなくて、「この映画でいい芝居をしたいだけ」というのが凄く分かりやすいんです。「伸ばしてやりたい」と思えるような人ですね。僕は、自分の中に秘めたる引き出しがあると思っていない人とは仕事したくないし、新しい引き出しを作ることの楽しみを分かち合える人とやりたいと思っているんです。
──そしてもう1人、正統派女優と思われた水野美紀さんは、冒頭からフルヌードになって驚きました。
監督:次はもっと動かしてみたいですね(笑)。3人の中で最も観客が共感しやすい位置にいて欲しかったので、適材適所になっていると思います。
──監督の現場は厳しいことで有名ですが、“女性讃歌”というこの映画で3人の女優さんを撮って、改めて“女性って凄いな”と感じたことは?
監督:女性は生命力が凄い。撮影していくうちに、「これはもっとポジティブなラストを迎えないといかんな」と思って、シナリオを変えたんですよ。本当は、いづみ(神楽坂)が死んじゃおうかとも思っていたし。死のうが生きようがポジティブな気持ちではあったけど(笑)。最後のほうでヤクザに蹴りを入れられるシーンでは、地に這いつくばってでも生きていこうとする女の、”これから這い上がっていくその瞬間”で終わる感じのほうがいいなと思った。そこで僕のこの映画のテーマがより明確になったなと思って。女の生命力の凄さがテーマかな。男は絶対に途中で倒れちゃうような道を、諦めずに歩いて行けるのが女なんだと思った。
──今回もたくさん取材を受けていると思いますが、女性記者と男性記者ではやはり反応は違いますか?
監督:そういえば…ほとんど女性記者ですね。やっぱりこれは女の映画で、女の観客に向かってるなというのは感じてますね。男の話を聞くと、「落ち込んだ」とか「女ってもっといい生きものだと思った」とか、妄想を壊されて悲しがっている感じでしたね(笑)。それが全体かどうかは分かんないけど。ここは是非とも、男性もこの映画を観てショックを受けて、女性に対するロマンや妄想をぶち壊したほうがいいと思いますよ。猛省して出直せば、きっといい恋愛ができると思います(笑)。女性も、迷いがあったり、「男性に尽くさないと幸せになれないのかしら…」なんて思っている人は、この映画を観てそんな妄想もぶち壊して、スッキリして欲しいですね(笑)。
2011年11月10日
『恋の罪』
2011年11月12日(土)テアトル新宿ほか全国ロードショー
公式サイト:http://www.koi-tumi.com