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映画『哭声/コクソン』ナ・ホンジン監督オフィシャル・インタビュー

哭声/コクソン

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『チェイサー』『哀しき獣』のナ・ホンジン監督最新作で、2016年カンヌ国際映画祭で上映されるや観る人を震撼させ、今年韓国で観客動員数700万人に迫る大ヒットを記録した究極のサスペンス・スリラー『哭声/コクソン』が、3月11日よりシネマート新宿ほかにて公開。警察官ジョングを演じるのは、43歳にして本作が初の主演作となる名脇役クァク・ドウォン。平和な田舎の村に大きな変化をもたらす“よそ者”を國村隼が演じ、韓国2大映画賞のひとつ青龍映画賞で外国人として初めて受賞。その他、村の祈祷師をファン・ジョンミンが怪演。本作の公開を前に来日したナ・ホンジン監督のオフィシャルインタビューが到着しました。
映画『哭声/コクソン』ナ・ホンジン監督オフィシャル・インタビュー
──クァク・ドウォンをキャスティングした理由と、一緒に作業しながら感じたことは?
監督:『哀しき獣』を撮っている時に、クァク・ドウォンさんは最も印象的な俳優でした。最初のテイクでものすごく気に入ったんです。すごく印象的で…翌日、主演俳優たちがみんな来た時、彼が演技するのを見せながら“こんな俳優がいたんだよ” “この俳優は驚くべき俳優だ” “この俳優は…” “ただ者ではなさそうだ”とかそんな話をしたのを思い出します。それ以降、彼にずっと注目していました。この映画のシノプシスが出た時、彼を訪ねていきました。 “先輩(クァク・ドウォン)と一緒にやりたい”“こういうシノプシスだ。やろう”と伝えると、彼もオーケーしてくれました。
彼が仮に銃なら、とんでもなく射撃精度の高い銃です。狙いを定めれば絶対に命中します。
──ファン・ジョンミンをキャスティングした理由は?
監督:ものすごく長くなりますよ(笑)。祈祷師役を誰に演じてもらうかなかなか決まらず、色々な問題があってのびのびになってしまっていたんです。この役柄をどうしようかと悩み、シナリオの手直しをしようと江原道(カンウォンド)にある束草(ソクチョ)という海辺の町にいこうと思いました。その場所には山を越えていかねばならないんですが、その時すごい強風が吹いていて、車は揺れて周りの車も非常灯を付けて停まっているような状況でした。その中をゆっくりゆっくり運転しながらひとりでドライブをして山の中を進んでいたんですが、その山中でイノシシに出逢いました。イノシシが道端をふさいで僕の方を睨み付けてくるんです。10分ぐらいその状況が続き、なぜこのイノシシはここで道をふさいでいるんだろうと不思議に思っていたんですが、結局イノシシは道を空けてくれました。それでまた車を進め始めたら風は収まり、静かになっていました。季節は冬でした。右の方には田んぼがあり、また強風が吹き始め、田んぼのところに倉庫のようなものがあり、それが強風に煽られて車に向かって飛んできたんです。それがあたかも刀のように車に向かってきて、なんとかそれを避けて通ることができました。大きな事故になりそうになったんですが、私は急ブレーキを踏んでなんとかしのぐことができました。

映画『哭声/コクソン』ナ・ホンジン監督オフィシャル・インタビュー
そんな2つの出来事を経験して宿に着き、気を引き締めようとTVを付けたらちょうどファン・ジョンミンさんが出演している『新しき世界』をやっていました。以前私はこの映画を観に行ったんですが、途中で中座して出てきてしまっていて、TVを付けたところがちょうどその続きから始まったんです。映画を最後まですごく楽しく観ることができて、彼も素晴らしかった。その時彼は『ベテラン』の撮影をしている最中だったので、監督であるリュ・スンワンさんに電話をしてなんとかキャスティングをしたいので仲裁してくださいとお願いしました。当時、祈祷について取材をしていたせいなのか、そういったことをすごく重要視していて、そういう不思議な経験の影響もあったと思います。

ファン・ジョンミンさんは主人公を演じている時と、助演として演技をする時では、すごく大きな違いを見せる俳優ではないかと思っていました。うまく説明できませんが、主演を演じている時は作品全体について集中しなければいけないせいなのか、助演の時の方がキャラクターにより集中することができ、よりクリエイティブな演技ができる人ではないかと。祈祷師イルグァンを演じるのはそういう人がいいと思っていたんです。映画には祈祷をするシーンがあり、体を使わなければならないので、彼にはバレエや舞踊の経験もあってそういう意味でもすごく役立つのではないかと思いました。それがキャスティングをした理由です。

出来上がった映画を観て、やはり彼は助演を演じている時は本当に自由になんのプレッシャーもなくキャラクターに集中してクリエイティブで素晴らしい演技ができる方だと改めて実感しました。本当に彼は素晴らしい俳優だと思います。
映画『哭声/コクソン』ナ・ホンジン監督オフィシャル・インタビュー
──國村隼のキャスティングの理由は?
監督:國村隼さんの作品で僕が入手できる作品はすべて観ました。彼の演技を見て感じたのは、瞬間瞬間ワンカットワンカットで表情がくるくる変わるんです。本当に不思議な演技をする方だなと思いました。出演のお願いをするために彼と実際に会って話をしましたが、とても若い考え方を持っていて、僕よりも若い、クリエイティブな考え方を持っていて、色んなものへの欲求を持っている方だと思いました。それで苦労して彼を迎えて一緒に仕事をすることになりました。一緒に撮影してからのフィーリングですが、技術面において本当に生まれて初めて見るような演技で本当に驚きました。本当に準備をきめ細かくしっかりしてきてくれるんです。そして、監督との長い長い対話を通して正確に作品について理解しようとしてくれます。そういう正確な理解を通して、映画の撮影に適したベテランらしい演技、姿を見せてくれました。僕たちスタッフは彼との撮影初日に、そんな姿を見て本当に驚いた記憶があります。年齢がおありなので、このキャラクターを演じるのは肉体的に苦痛な部分もあったと思います。なんとかお願いして厳しい撮影を行ったんですが、本当に変瞼(中国の古典劇に伝わる一瞬で面を変える演技)のようにワンカットワンカット撮影するたびに素晴らしい演技を見せてくれました。

撮影現場の雰囲気というのは、いい時があればよくない時もあったと思います。でも、一度カメラが回ると本当に素晴らしい演技、素晴らしい姿を見せてれました。彼がこの役柄を演じてくれなければ映画自体が大きく違うものになっていたかもしれません。この映画ができたのは、國村さんがいた結果ではないかと思っています。
──前作とのスリルの与え方の違いは?
監督:観客にスリルを与えたこれまでのやり方は避けたかったんです。そうではなく、どうやったら観客にスリルを与えられるだろうか…というのが『哭声/コクソン』を作る時に最優先させたことです。これまでの緊張感と今の緊張感は違う。この緊張感は明らかに違う緊張感だ、その違う緊張感を表現しなくてはと思いました。

いつの間にか映画は一層ダークになっていて、いつの間にかさらに暗くなっている。そんなふうに、ずっと、ゆっくりと前に進み続けながらスリル感を高めていくようなスタイルの映画を作りたかったんです。今までとは違うスリル、違う緊張感をお見せしたかったんです。
映画『哭声/コクソン』ナ・ホンジン監督オフィシャル・インタビュー
──脚本のアイデアの出発点を教えてください。そして、“よそ者”をなぜ日本人にしたのですか?
監督:僕は韓国に住んでいる韓国人ですが、そんな自分が見た社会的な雰囲気を映画に込めてみたいと思っています。影響を受けた部分ですが、家族の中でひとり亡くなった人がいて、その死ということに多くのことを考えさせられこの脚本を書くに至りました。『チェイサー』と『哀しき獣』を振り返ってみると、加害者への好奇心のようなものがあり、犯罪の現場とか死というものを、それを作った人や導き出した人に焦点を当てて描きました。でも、その2作品には被害を受けた人々がなぜ被害を受けるに至ったのかについて、彼らの悩みや想いへの描写が不足していたのではないかと思います。どうしても事件に集中してしまうので、被害者に余り目を向けていなかったのではないかと思いました。だから今回は、被害者がどんな原因によってなぜそのような事件に巻き込まれることになったのかについて書いてみたいと思ったのです。彼らがなぜそんな悲惨な経験をしなければならないのか、色々と考えさせられる映画を作ろうと思いました。社会全般の決してよくない雰囲気を包括的にこめた映画を作りたい。そう思って脚本を作り始めました。

“よそ者”を日本人にしたことについて、ひとつは新約聖書の影響を大きく受けています。イエスがエルサレムに向かっていきますが、その時にユダヤ人がどのように受け止めたのかというフィーリングを活かしたいと思いました。この映画は混沌や混乱、疑惑について描いていますが、イエスは歴史上最も混乱を与え、疑惑を持たれた人物の中の一人ですよね。そういう意味で、見た目は似ているけど全く違うという異邦人が必要でした。見分けるのが本当に難しいものが自分の内部に入ってきた時、敵なのか味方なのか分からなくて混乱しますよね。映画が持っている<混同>というテーマを表現するのにそんな存在が理想的じゃないかと思いました。そんな外国人を演じることができるのは、韓国に近い中国か日本の俳優ですが、その中でも日頃から尊敬している日本の方と一緒に仕事をしてみたいと思いました。そういうキャラクターを演じるのに適した人は日本の俳優ではないかと思ったんです。
──人によって見方が変わるラストになっていますが、監督としてはラストがどのように届けばいいと思っていますか?
監督:今回の脚本を書いたのは、被害者の立場に立ってみたいと思ったからです。被害者が出るということはそれを送り出す遺族がいます。遺族はそのことをどう思うだろうか…と。そして僕たちは遺族に対して慰めの言葉をかけますよね。だから、<慰め>ということがエンディングになることを望んでいました。もちろん苦しみや悲しみや痛みなどを他の人が感じることはできませんが、僕たちは<あなたが、家族のために家長として、父親としてどのような努力をしてきたのか、最善の努力をしてきたことを見守ってきました。失敗はしてしまったけれど、その努力する姿を見守ってきました。あなたは立派な父親でありベストを尽くしました。だから、余り苦しまないでください。辛く思わないでください。あなたは最高の父親ですよ>と慰めになるような映画になることを望みました。一番最後のエンディングのところは、役者の顔のアップで終わりますが、それで終わることによって共感を一緒にしてくれたらいいなと思いました。そういう風に観てもらえることがこの映画の存在価値ではないかと思っています。
2017年3月9日
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『哭声/コクソン』
2017年3月11日よりシネマート新宿ほかにて公開
公式サイト:http://kokuson.com/