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映画『空気人形』是枝裕和監督独占インタビュー

空気人形

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『誰も知らない』『歩いても歩いても』の是枝裕和監督の最新作は、業田良家の「ゴーダ哲学堂 空気人形」を原作に、韓国の人気女優ペ・ドゥナを主演に迎え、“心”を持った“人形”の、切なくも温かい愛の形を描いたファンタジックなラブストーリー。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品に続き、トロント国際映画祭への出品も決定した本作の、是枝監督に独占インタビュー。『空気人形』に込めた想いや、それぞれの出演者の魅力などを語っていただきました。
画像:『空気人形』是枝監督独占インタビュー
──業田良家さんの原作との出会いを教えてください
是枝:出会いは9年前ですね。漫画は連載中も読んでいたんですけど、「空気人形」は単行本になってから初めて読んで、その時にすぐに映画化しようと思いました。他にそういう経験はなかったんですけど、あの漫画だけは…、ビデオ屋でクギに引っ掛けて体から空気が抜けていく、床に倒れた人形に男が息を吹き込むという描写が非常に官能的に伝わってきました。
僕はまだ3本ぐらいしか映画を撮ってなかったんですけど、あまりストレートにセックス描写を自分の映画の中で撮ろうとは思っていなかったんです。でも、このやり方だったら、しぼむビニールの音と吹き込む息の音でセックスが描けて面白いだろうなと思いました。
──恋愛ファンタジーとして映画化したのは?
是枝:業田さんの本自体はもう少し哲学的で、「人間とはなんだろう」という問いに満ちているんですけど、「空気人形」の20ページだけは、吹き込む、吹き込まれるという、息を介して人が満たされたり満たしたりする“恋愛”だと思いました。人形を動かさなければならないので、ファンタジーという枠組みを借りながら恋愛映画を撮れるんじゃないかなと思いました。
──ペ・ドゥナさんを起用したのは?カタコトの日本語というのは監督の狙いですか?
是枝:結構細かいプロットを書き終わって浮かんだのが彼女でした。元々ファンだったので(笑)、これだったら片言の日本語からスタート出来るから、日本の女優さんにこだわる必要はない。ペ・ドゥナでやれたら面白いなと思いました。
──ペ・ドゥナさんのファッションもキュートでした。
画像:『空気人形』
是枝:空気がテーマだから、風の動きとか流れ、動いた時に揺れるのを意識した衣装にしたいなと思ってました。(衣装担当の)伊藤佐智子さんは前にコマーシャルで一緒に仕事をしたんですが、女の子の服のセンスが素晴らしくて、布地の選び方から繊細なので、お願いしました。ペ・ドゥナのスタイルの良さも伊藤さんの計算に入っていたと思います。
──監督の好みも入っているんですか?
是枝:僕が思ったよりはミニが多かったですね(笑)。真冬だしここまでミニじゃなくても…、と僕は正直思ったんですけど(笑)。伊藤さんが、「この人形がもし心を持って“体の線”を消せたら、絶対肌を出すはず。男が選んだ服とは違う服を自分で選び、世界に触れて回る時にはこのミニでいきたいと思うはずだ。」と断言されました。結果的にはその通りでした。でも僕の好みはもう5cmぐらい長いんですけど(笑)
画像:『空気人形』
──ARATAさんは久しぶりの起用でしたね。
是枝:8年ぶりですね。僕は彼のナイーブな演技と、何より声が太くて、語尾のにじんでいる部分が非常に好きなんです。最初に登場した時には、見ている人は板尾さんの役のほうが「う、気持ち悪りぃ」って思って、ARATA君は優しく佇んでいる存在だったのが、後半、スッと交差していくというのをやりたかった。非常にミステリアスな役ではあるけど、そういうのをやらせたらすごくうまい役者なんです。他の役者さんだと何か説明しようとするんですが、ARATA君はうまく説明しようとする変な欲がないから、ある種、暗い闇として、空虚としてそこにいてもらえることが大事でした。(ARATAの起用に)迷いはなかったですね。
──オダギリジョーさん(人形師役)の、ほんの少しの場面で重みのあるシーンが素敵でした。
是枝:でしょ(笑)?あれもリサーチで実際に人形を作っている人を取材して、その方が言ったセリフをそのまま使っているんです。職人的な人形へのこだわりと、人間に対する哲学的な思考が同居していてすごく魅力的な人だったんです。ただ、言葉にしていくと、観念的だったり哲学的だったりしすぎるので、それをさらっと言ってのけて説得力のある役者はオダギリジョーしかいないと思いました。「あなたしかいません」といってお願いしました。
──舞台になった東京の風景は印象的でしたね
是枝:最初は団地を探してたんですよ。もう若い人がいなくて、お年寄りだけが残っていて、夜になるとまばらにしか明かりがつかない、共同体がある種の共同性を失って、近所づきあいもなく、個人がバラバラに住んでいる。東京という街を象徴するには、高齢化した団地がいいなと思っていたんですけど、たまたま製作部が見つけてきたのがあそこだったんです。団地ではないんですけど、向こうに高層マンションが建ち、隅田川が流れていて、まばらに地上げされていて空き地に立体駐車場ができている、でも開発が止まっちゃったもんだから錆び付いている。パッとみてここだと思いました。なんだか不思議な寂れ感と、でもノスタルジックではなく、無機質でもない、その微妙さがよかった。ここだったら、人形がふと動き出すのも、アリかなと思いました。
──今回は息を吹き込まれて満たされる人形のお話ですが、監督はどんなことで満たされますか?
是枝:今、おいしいごはんを食べたので満たされてますよ(笑)。
確かに(映画では)膨らまされて満たされるんですが、あのシーンで大事なのは、自分自身で膨らませても満たされないけれど、他人に膨らませてもらうことで空虚感が満たされるというのが(原作の)惹かれたところなんです。誰もが、自分で自分を満たそうとしますよね。癒しとかヒーリングって他者は関係ないでしょ?自分で自分を満たせると思っているところが豊かじゃないなと思っていて。業田さんの原作、吉野さんの詩(※)に出会った時に、欠落、欠如、空虚というのは、他者と出会うきっかけを与えてくれると考えれば、それほどネガティブなものだけじゃないという発想がどちらにもあって、その哲学に基づいて色んなシーンを作っていったのが、この映画なんです。
なかなかそういう考えになれないかもしれないけれど、素敵な考え方です。吉野さんの詩を読んでペ・ドゥナも今回のテーマが腑に落ちたと言っていましたから、映画と詩がいい出会い方をしたんだと思います。
※作品の中で引用される、吉野弘氏の詩「生命は」
次回作の展望を伺ったところ、「まだ練っているところですね。」と答えた監督。インタビュー当日は、世界陸上の100m走でウサイン・ボルト選手が世界記録を出した日でしたが、そんなニュースにかけて、「今回は9秒58で走った感があるからなぁ(笑)、ちょっと休もうかなと思って。4年くらい(笑)」と、冗談めいて(と願います!)話していました。
監督が全力疾走して撮りあげた『空気人形』は、これまでの作風とは一風変わりながらも、監督の作品に常に流れる、孤独、人との関わりかたや愛の形など、見れば見るほど美しく深い味わいのある作品。今後、世界的な評価も期待される本作、是非、お見逃しなく!

『空気人形』これこれレコメSPECIAL

是枝監督に聞きました!『空気人形』と合わせて観たい作品

是枝:取材に来た記者さんが挙げられたものもありますが、僕もそのとおりだと思うもの、実際に撮影の時に観たものを挙げます。
シザーハンズ
フランケンシュタイン
フランケンシュタイン('31)
散り行く花
道
カビリアの夜
バルタザールどこへ行く
ピノキオ
2009年9月17日
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『空気人形』
2009年9月26日(土)、渋谷シネマライズ、新宿バルト9ほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://www.kuuki-ningyo.com/