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リアルな教育現場を描くため2年間学校に通った ── 『12か月の未来図』オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督インタビュー

12か月の未来図

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パリ郊外。移民、貧困、学力低下―など、フランスを悩ます社会問題を背景に、エリート教師と問題だらけの生徒の交流と成長をユーモアたっぷりに描いた感動作『12か月の未来図』が、4月6日(土)より岩波ホールほか全国公開。監督は、今作が長編監督デビュー作となるオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル。よりリアルな教育現場を描くため、学校に2年間通い本作を完成させたという監督に、自身の経験や教育現場の問題点を伺いました。
リアルな教育現場を描くため2年間学校に通った ── 『12か月の未来図』オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督インタビュー
──今作が初の長編作品ですが、なぜ教育についての物語を作ろうと思ったのですか?
監督:長年、教育問題に関心があり、この題材についての映画を作りたいと考えていたんだ。ジャーナリストとしてユネスコの依頼で海外を回り、バングラディッシュ、ネパール、インドネシアなど様々な国の教育現場で仕事をし、当時から興味深い題材だと思っていた。たまたま、同じ思いを抱いているプロデューサーからオファーがあり、今回はパリ郊外の中等学校を探検する機会に恵まれたんだ。
──教育についてどんな問題意識を抱えていたのですか?
監督:すべては教育から始まると言っても過言ではないと思う。子どもたちの最も重要な資質は、幼少期から青年期への転換点にあたる中等学校で花開いているのです。瞬く間に成長する10代にとって、その時期は全体的な可能性と方向性を決定づけるもの。人間として開花する幸せを感じる時期でもあるんです。しかし、今の教育現場はそのような教育を与えていないと感じている。例えば、この国には医者が必要だから医者を育てるというような、社会の求めに応じて子どもたちを養成しているようなところがある。それではいけない。やはり社会というのは、自分のことだけでなく他者のことももっと考える、オープンな心をもった子どもたちを育てていかなければならないと思う。
『12か月の未来図』
──リサーチのために2年間学校に通ったそうですね。まず、教育者でも学生でもない立場で学校に潜入出来るものなのかと驚きました。
監督:僕にとって2年間のリサーチは必要不可欠だった。僕自身、教育者としての経験はないし、学校に行っていたのも遙か昔のことだから、今、現場で何が起こっているか理解する必要がある。教育に関してステレオタイプな作品に陥らないためにも、学校に行ってリサーチするのが唯一の方法だった。

こういったリサーチで、数ヶ月で見た気になるのは間違っていると思う。新学期が始まった頃の生徒や先生の態度と、年度末では違うからね。皆疲れてるんだ(笑)。そういうことを見るためにも、最低1年は必要だったし、僕はそれを2度繰り返したんだ。

学校長には、そういった企画意図を説明し、僕自身がシナリオを書いて監督すると伝えた。ちょっとした期間だけ見に来るメディアもあった中で、「あなたが長い期間をかけてリサーチするなら、願ったり叶ったり」と学校長が同意してくれた。おかげで教室内や学校評議会、職員室、教育会議など学校の日常を形作るあらゆる場面を見ることができ、リアルな教育現場に近づくことが出来たんだ。
──学校長と話した時、監督の中には何かストーリーは出来上がっていたのですか?
監督:シナリオは全く描かれていなかったけど、ある先生が、有名校から郊外の学校に転勤するというアイデア自体は出来ていた。本当に冒頭だけだね。2年間リサーチするなかで、学校評議会での出来事やヴェルサイユ宮殿への遠足を経験し、少しずつシナリオを構築していったんだ。
──監督は1969年生まれなので、学生時代といえば80年代頃ですね。当時とは明らかに違うなと感じたことはありましたか?
監督:僕が学生だった頃は、もっと暴力的な雰囲気はあったかな。最終学年ともなると、テーブルの上にビールがあったり、トイレに隠れてタバコを吸ったり(笑)。でも、そういうことに対する罰もあまりなく、見過ごされていた。現代のように規制や圧力もないし、ましてや評議会にかけられて退学なんてこともなかった。規律という面では、今のほうがよほど厳しいし、それに対して今の子どもたちは従順に従っているという印象がある。

社会が発展するにしたがってどんどん規則が生まれてくるけど、それは自由を殺してしまうことでもある。ルールでがんじがらめにするのは、教育においては難しいところでもあるけどね。
『12か月の未来図』
──学生を演じた子どもたちは演技初経験だそうですね。演技指導は大変でしたか?
監督:大変だったよ!子どもたちとじかに接する機会が増えるほど、彼らの言葉を劇中で発することが出来るのは彼ら自身の他にいないと確証を得るようになったので、キャラクターにあわせて僕自身がキャスティングしたんだ。学校の休暇にあわせて何度もリハーサルし、一度、本物の技術スタッフを入れ、本番の状況と同じ条件でリハーサルすることになった。すると、子どもたちが突然、棒読みになって、僕もプロデューサーも青ざめたんだ(笑)。きっと彼らは、照明スタッフが入りカメラが回った途端、何か特別なことをしなくちゃいけないと構えたんだと思う。今まで通りでいいんだよと説得して、その後は上手くいったんだ。
『12か月の未来図』
──主演のドゥニ・ポダリデスさんは、堅物な国語教師でありながら人間味あふれるキャラクターが素晴らしかったです。フランスでは舞台俳優として活躍しているそうですが、起用の理由は?
監督:彼はコメディ・フランセーズという、フランスで由緒ある劇団に所属していて、役者だけでなく演出や執筆も手掛ける才能豊かなアーティストなんだ。でも映画では脇役を演じることが多く、今回は主演としてスクリーンに登場したので、ようやく彼の顔を一般の観客に知らしめることが出来たと思う。彼自身も、今までやってきた中でも素晴らしい役柄に巡り会えたと満足してくれた。

撮影中は、僕の希望を大まかに言うだけで、感情をどのように表現するか彼自身が考えてくれた。ただ、眼鏡を外したり付けたりするのは彼のアドリブだから、シーンが上手く繋がらなくて、現場でスクリプターが悲鳴を上げてたよ(笑)。編集は大変だったけれど、作品を見直すたびに、彼の演技の中に新しい発見があり、彼の繊細さを感じたよ。
『12か月の未来図』
──タイトルの『LES GRANDS ESPRITS』は「大いなる精髄」と訳せると思いますが、フランスが培ってきた友愛・平等・自由といった言葉が集約されているように感じます。
監督:確かにその通りだね。フランスには「グラン・エスプリが出会う」とう表現があり、そこからも来ているんだ。先生と生徒が出会うという意味でね。

最初は、「H4/9.3」というタイトルが付けられていたんだ。「H4」はアンリ4世校(Lycée Henri-IV)、「9.3」はパリ郊外の郵便コード。フランス人は聞いただけでどの辺りのことか分かるけど、他の人はわからないよね(笑)。ギリギリまで見つからなくて、配給と話し、『LES GRANDS ESPRITS』になった。タイトル選びは本当に大変なんだ。とりわけ教育がテーマの時はね。
『12か月の未来図』
──最後のシーンで、フランソワが社会教師のクロエにプレゼントを渡していました。その中身が気になります。
監督:何だと思う(笑)?上映会で質問すると、皆それなりのことを考えているようだね。実は、彼女がカナダに行く車中でプレゼントを開けるシーンを撮っていたんだけど、蛇足だなと思ってカットしたんだ。そのほうが効果があると思ってね。
2019年4月5日
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『12か月の未来図』
2019年4月6日(土)より岩波ホールほか全国ロードショー
公式サイト:http://12months-miraizu.com