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エッシャーのだまし絵のような捜査 ── 『ザ・シークレットマン』ピーター・ランデズマン監督インタビュー

ザ・シークレットマン

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第37代アメリカ合衆国大統領リチャード・ニクソンを辞任に追い込んだ“ウォーターゲート事件”。この事件の全容を白日の下に晒し、政権の不法行為や腐敗を暴いた内部告発者の素顔と、事件の裏側を描いたサスペンス映画『ザ・シークレットマン』が、2月24日(土)より公開。なぜ彼は極秘の捜査情報をマスコミへリークしたのか?全てを犠牲にしてまで真相を暴くに至った心境とは?メガホンをとったピーター・ランデズマン監督に伺いました。
エッシャーのだまし絵のような捜査 ── 『ザ・シークレットマン』ピーター・ランデズマン監督インタビュー
──ウォーターゲート事件を内部告発した人物が、元FBI副長官マーク・フェルトだと分かったのが2005年でした。映画化はいつ頃から考えていたのですか?
監督:2005年に記事が出た時点で脚本を書き始めたんだ。当時の私はジャーナリストで、監督業をやっていなかったから、純粋に物語を書いていった。実際に監督をやろうと思ったのは、企画が進み、前作の『コンカッション』を撮り終えてからだから、2015年頃だった。
──ジャーナリストとして、記事にしたり書籍にしようとしたわけではなく、映画というツールを選んだのは?
監督:書籍化も考えていたけど、その時期は映画業界に転向し始めている時期だったし、作家として少しガス欠気味だったんだ(笑)。何か違う方法で語っていきたいという思いがあって、映画というツールがまさに最適だった。俳優がパフォーマンスし、様々な視点でストーリーテリング出来るからね。
──実話を描くにあたり、どんなリサーチをしましたか?
監督:ウォーターゲート事件をいちから洗い直すというプロセスだった。40年前には明るみに出ていなかったFBIの機密文書にもアクセス出来たので、様々な機密文書をもとにこの事件を組み立て直した。マーク・フェルトが、誰にどの情報を何処まで開示したのか、私自身のジャーナリストとしてのバックグラウンドを活かしてこの事件を細かく追っていったんだ。だから、映画では迫真性をもって描くことが出来たと思う。
──マーク・フェルトさんご本人ともお会いしたそうですね。彼を調べていく中で、どんな人物だと感じましたか?
監督:本人に会った時、彼は92歳で忘れっぽくなっていたけど、“娘のことが大好きなおじいちゃん”という印象だったよ(笑)。今回は1970年代の彼がどういう人物か描いたわけだけど、使命感をもって仕事にあたり、高潔で謙虚で鋼鉄の意志を持つ人物だと感じた。ニクソン政権を倒した張本人でありながら、それを約40年も秘密にし続けた。その裏ではものすごく苦しんだと思う。FBIに忠誠を誓いながらも、FBIとして絶対にやってはいけないことの一線を越えたわけだからね。家族も友情もキャリアをも犠牲にして。

しかし、彼のような謙虚さや高潔は、今現在みられるような“政治サーカス”に打ち勝つんだということを示していると思う。ド派手なことによって人々の注意の矛先がコントロールされているけど、高潔さと謙虚さを持って当たることで、それに打ち勝つことができるんだ。
──FBI副長官という立場で情報をリークし、またその捜査も進めていくという綱渡り状態でしたが、その二面性がスリリングでした。
監督:ものすごい無理難題だよね。4枚の皿を同時に回すジャグラーのようなもの。彼は内部告発者である自分を突き止める捜査を自分で先導しながら、同時に家庭でも問題を抱え、娘の行方も捜していた。FBIの捜査では、寸分の狂いも許されない。実際に明らかになったテープから推測するには、おそらく周囲には正体がバレていたと思う。彼自身もそれを感じつつ、伏せながら捜査を指揮していた。エッシャーのだまし絵のようなものだ。
──彼がどんな思いで内部告発したのか、映画を観ていて理解できました。一方で、もし彼が昇進し長官になっていたら、内部告発していただろうか?と邪推してしまいます。
監督:評価が分かれるところだね。私は、彼が個人的な妬みのような感情で内部告発したのではないと思う。フーバー亡き後、FBI長官に任命されたのはパトリック・グレイだが、その裏にはホワイトハウスがFBIを私物化しようとする意図があり、マーク・フェルトはそれに対し懐疑心を持っていた。彼が情報をリークしたのは、ホワイトハウスがウォーターゲート事件の捜査打ち切りを迫ったことで、彼が自分の職務を妨害されたと感じ、道徳的危機に直面したからだと思う。
──この映画が完成した時、アメリカはトランプ政権になっていました。偶然とはいえ、このタイミングについてどのように受け止めていますか?
監督:ずいぶん前から企画が進み、トランプ政権誕生前に撮影も終えていたけど、このタイミングが良かったのか悪かったのかというと…難しいな(笑)。今現在、ホワイトハウスから出てくる話題があまりに馬鹿馬鹿しくて、皆が食傷気味になってるよね。時期が違ったら、もうちょっと興味を持たれていたかもしれないけど、リアルタイムでどうしようもない情報が出てきている…(笑)。
──監督としてのデビュー作『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』でケネディ暗殺を取り上げ、『コンカッション』も実話をベースにした社会派ドラマでした。もし今後、トランプ大統領を取りまく人物を映画として取り上げるなら、誰に興味がありますか?
監督:トランプが出馬した時、選挙対策本部長だったコーリー・レヴァンドフスキかな。しょうもない奴だから(笑)。もしくは、大統領夫人メラニア・トランプ。彼女は大統領夫人になるつもりなんかなかったと思う。写真を見ていると身動きとれずに辛そうだよね。まるでガラスを噛むような表情だ。彼女は本当にあり得ない人生を送っている、東欧のスロバキアで芋を売っていたような農家の女の子が、アメリカで大統領夫人になってしまった。悲喜劇として描けるけど、映画にしたら裁判沙汰になってしまいそうだ(笑)。


2018年2月22日
『ザ・シークレットマン』
2018年2月24日(土)新宿バルト9ほか 全国ロードショー
公式サイト:http://secretman-movie.com