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『マザー』楳図かずお監督インタビュー:自分自身のドキュメンタリーの中に嘘の世界を展開する、新しい試み

マザー

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日本を代表する漫画家・楳図かずおが、77歳にして映画監督デビューを果たした『マザー』。脚本も手掛けて挑むその内容は、自らの母親をテーマにした自叙伝的なホラー・ストーリー。片岡愛之助演じる漫画家・楳図かずおの生い立ちを調査する担当編集者が、母・イチエの謎に迫るとき、母の怨念が恐怖を巻き起こしていく。映画の公開を前に、楳図監督を直撃。初の映画に挑んだ心境と、お話作りへのこだわりを伺いました。
『マザー』楳図かずお監督インタビュー:自分自身のドキュメンタリーの中に嘘の世界を展開する、新しい試み
──初監督となりましたが、映画には以前から興味があったのですか?
楳図かずお監督(以下、楳図):前から興味はあって「監督やりたい」って言ってたらしいですね(笑)。でも、自分が思っていても、そう叶うものでもないですし、周りから仕掛けていただいて初めて出来るものだと思うんです。“流れ”でそうなっちゃったとしか言いようがないんですけども(笑)。
──映画監督をやりたいと思ったのは、どういうきっかけから?
楳図:最初はね、ヒッチコックが亡くなった時に「ではあとは僕が…」って(笑)。あの方のスリラーが好きなんです。あとは、色んな方に僕の原作で映画を撮っていただいたりするんですが、良い場合もあるし、ちょっと意に沿わない部分もあったりすると、「僕だったらこんな風に撮りたいな」って、厚かましくもそう思ったりするんです。

前にも一度、監督として映画の話があったんですけど、その会社がリーマンショックで潰れちゃって(笑)。なので、気分的にはずっと映画をやりたいって思っていたんです。
──2008年頃ってことですよね。その時の企画は今回の『マザー』だったのですか?
楳図:全然関係ないものです。
──脚本も手掛けていますが、『マザー』企画はいつ頃から温めていたのですか?
楳図:温めていたわけじゃないけども、部分的には常に頭の中にあって、監督のお話をいただいた時から、きちっとまとまったストーリーにしていったんです。
──ご自身の半生や母親との関係をテーマにしたのは?
楳図:自分自身のドキュメンタリーを、どこまで嘘の世界に展開できるのか、そういう試みを今回やってみたかったんです。漫画でも何でもそうだけど、同じ繰り返しでは喜んでもらえないし、どこかで新しくないと受け入れてもらえない。それを考えたら、自分自身のことであり、現実の「僕の母親」のことだったんです。

今まで、漫画に「母親」は出てきましたが、自分の母親が出てくることがなかったので、身の回りの本当の話でまとめたのは初めてなんです。そういう意味でも、新しいものになったと思います。
──劇中の編集者・さくらとともに、観客は楳図先生のルーツを辿っていくんですね。
楳図:現実の僕を想像しながら観てもらえると思います。うまく嘘が描けていれば、あり得ないかもしれないけど、あるかもしれない…って感じられる面白さはあると思います。
──まさに、どこまでが本当でどこまでがそうじゃないのか、想像がつかなくて、ハラハラしながら観ていました。
楳図:狙い通りハマっていただいてありがとうございます(笑)。絵を覚えたエピソードは、母親がそう言うので本当だと思うし、「君恋し」の唄も母親が歌っていたので、部分的には本当なんです。
──生まれ故郷である高野山も出てきますが、撮影するうえで、ご自身のルーツとなった場所に訪れたりしたのですか?
楳図:全然行ってないんです。僕、あまり下調べしない方で、「わたしは真悟」('82〜)の時もロンドンが出てきたんですけど、適当に描いてたんです(笑)。後で一応行ってみようと思ってロンドンに行ったら、そんなに変わらないって思った(笑)。ドアを内側に開けるか、外側に開けるか、そういう細かい動きは行ってみないとわからないけど。

あとね、下調べして描いた漫画はウケないっていうジンクスがあるんです。たぶん、しっかり調べ過ぎちゃって、事実に縛られて嘘がつけなくなっちゃうんですね。何処で生まれて何をしているかっていう事実は事実として、あとは想像のほうが先行しないと、お話が広がらないんです。今回は、携帯もインターネットも出てきて、時代も無視してますから(笑)。
──ストーリー展開ではどんなことに気を付けるのですか?
楳図:寸分も無駄のない作り方、入り込んだら出られないくらいのテンポで、たたみ込んでいきたいっていうのは気にしていました。 漫画の時も同じなんですけど、無駄ゴマがあると見てる人は飽きちゃうんです。ひとつひとつのコマに意味があって、それが流れの中でちゃんと役を果たしている。そういう構成になってないといけないって思うんです。あとは、できるだけ前回と違う方向に行きたい。要するにいつも新しくありたいって思ってるんです。
──片岡愛之助さんが楳図先生の役を演じたのは衝撃的でした。
『マザー』
楳図:最初はもちろん想像してなかったけど、愛之助さんの名前を挙げられた時に、面白いなって思いました。歌舞伎ってリアリティの世界じゃなくて、最初から“物語”の世界ですよね。それをいかに本当らしくみせるかというのは漫画も一緒で、本当らしさを出すというより、本当らしく感じてもらえることが大切なんです。こだわり始めると難しいかなと思ったんですが、愛之助さんのペースにお任せして、無理なく演じていただきました。
──ちょっと落ち着いていて、クールな楳図先生でしたね。楳図先生は本当はこういう方なんだろうか…と想像してしまいました(笑)
楳図:実際はちょっと違うかもしれないですね(笑)。あんまりクールじゃないし、落ち着いていないですけど、「愛之助さんが演じる楳図かずおが、楳図かずお」と思って頂いてもいいかもしれません(笑)。
──母親役を演じた真行寺君枝さん、美しくて怖かったです。
楳図:ビジュアル的に素晴らしいんですけど、あまり怖い役の経験ないようですね。本来は優しい役が持ち味だと思います。でも、本人は計算外だったと思うんですけど、優しくニッコリ笑うのが、怖く見えちゃうんですね。すごく粘り気のある感じというか、女っぽさからくる怖さが自然に出ていたんじゃないかな。
──今回の作品で、映画ならではの表現や醍醐味を感じられたことは?
楳図:今回、真行寺さんの病院のシーンが怖かったって言われるんですけど、崩れゆく寸前の状態の怖さなのか、優しい顔が怖く見えるっていうのは、映画ならではだと思いました。漫画は、怖いものは怖く描かないと怖く見えないんです。映画をやってみて、より「怖い」と「優しい」は紙一重なんだなって思いました。あと、怒りが地響きになったり、男の声になったり。そういうのは映画じゃなきゃ表現できないなと思いました。
──漫画家としてもずっと「恐怖」をテーマにしていますが、何故「恐怖」はそれほどに先生を魅了するのでしょうか?
楳図:恐怖は面白いんです。あり得ないことが起こるっていう設定自体が面白いんですよね。
──先生自身が怖い体験をしたとか?
楳図:僕自身は怖い体験が全くないんですよね。お化けの経験もないので全然怖くない。自分が漫画家としてプロでやっていこうと思った時に、「恐怖」の世界はあまり一般的ではなかったので、ここだと思ったんです。そこで、「怖い」ってどんな感覚だろう?って思った時、父親が話してくれた伝説とか、母親のことを思い出して描くようになったんです。
『マザー』楳図かずお監督インタビュー
──今回は77歳にして映画監督にチャレンジしましたが、そのエネルギーの源は?
楳図:新しいことをすることかな…。新しいことを見つけると頑張れますから、それがエネルギーの源(笑)。
──最近、挑戦しているものは?
楳図:大それたことではないけど、5カ国語をラジオで聞いてるんです。フランス・イタリア・ドイツ・スペイン・英語ですね。ロシア語も聞き始めました。喋れないけど、聞き取っていくと少しずつ知識がついていくので、いつかは喋れるようになるのかな(笑)。
──今後、映画監督としての活躍は?
楳図:新しい恐怖を思いついた時に、またやりたいですね。
──ご自身の作品を自ら映画化することは?
楳図:わからないですね。過去のものでも、流れに紛れて隠れていた主題をクッキリさせるとか方法はあると思います。映画化されていないすばらしい作品がいっぱいあります。そう考えると何かワクワクしてきますね(笑)。
2014年9月25日
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『マザー』
2014年9月27日(土) 新宿ピカデリー他 ロードショー
公式サイト:http://mother-movie.jp