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脱北女性に命がけの密着!『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』ユン・ジェホ監督インタビュー

マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白

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中国へ売られ脱北ブローカーとなった北朝鮮女性B(匿名/マダム・ベー)の数奇な運命と貪欲に生きる姿を追ったドキュメンタリー『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』(6月10日(土)公開)。マダム・ベーの中国での生活、そして韓国への脱北の道中にも密着し、彼女の壮絶な生き様を記録した本作は、カンヌ国際映画祭ACID部門に正式出品されたほか、モスクワ国際映画祭とチューリッヒ国際映画祭にて最優秀ドキュメンタリー賞受賞するなど、各国の映画祭で高い評価を得た。監督は、フランスと韓国を拠点に活動する新鋭監督ユン・ジェホ。映画の公開を前に来日したユン・ジェホ監督にお話を伺いました。
脱北女性に命がけの密着!『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』ユン・ジェホ監督インタビュー
家族のための出稼ぎのはずが騙され、中国の貧しい農村に嫁として売り飛ばされた北朝鮮女性B(マダム・ベー)。最初は憎んでいた中国の夫と義父母との生活を受け入れ、そこで生き抜くために脱北ブローカーとなる。しかし北朝鮮に残してきた息子たちの将来を案じた彼女は、彼らを脱北させ、自らも韓国へと渡る過酷な道を選ぶ──。
──主人公のマダム・ベーは「脱北ブローカー」ですが、そう簡単に出会えるものではないですよね…。どのようにこの映画のテーマに取り組み、彼女と出会ったのですか?
監督:『マダム・ベー』を作る前の2011年に、ドキュメンタリー映画『北朝鮮人を探して』を撮ったのですが、その作品に取り組む間、たくさんの脱北者と出会うことができました。その中に脱北ブローカーもいて、そこから何人かの紹介を経て出会ったのが、彼女でした。
2013年に別の劇映画のシナリオを準備していて、その時の彼女の役割は、私に脱北者を紹介してくれるガイド役でした。映画のリサーチで中国に渡った時に、彼女が中国の家族の家に招待してくれたのですが、彼女が何故中国人と一緒に住んでいるのか気になって聞き出したところ、彼女自身の身に起こったことを話してくれました。さらに、彼女自らが、この話を映画にしてはどうかと提案してきたんです。
──マダム・ベーさんは北朝鮮に家族を残したまま中国で“嫁”として売られ、やがて脱北ブローカーになります。特別数奇な人生を辿っているとは思いますが、監督が出会った脱北者の方々は、一般的に…というのも難しいとは思いますが、脱北が成功した後どんな生活をしていたのですか?
監督:本当に様々で一概には言えませんが、脱北者に対する韓国の社会的雰囲気は、決して良いものではありません。実際に韓国に入ってくる脱北者の70%は平民というか一般人で、北朝鮮であまりいい生活をしていなかった人たちです。彼らが韓国に来ても、生活条件が良くなるわけではありません。残りの30%は、北朝鮮で政治家など高い地位にいた人たちです。権力や情報を持っている彼らは脱北ルートも苦労しないし、韓国でも待遇が良いのです。
──マダム・ベーさんは、北朝鮮の家族を脱北させ、自らも中国からラオス、タイを通って韓国へ渡ろうとします。監督自身もそれに同行してますが、かなり危険な道程で、映像でも緊迫感が伝わってきます。なぜ同行しようと決断したのですか?
監督:彼女から「これから韓国に行く」と連絡を受けて、私も中国へ行って彼女と落ち合ったんですが、なんとなくバスに同乗したらそのままタイまでついて行くことになったんです。なので、私自身何か大きな決断があったわけじゃなく、まさか一直線でタイまで行くとは思っていなかったというか、選択の余地がなかった(笑)。
──監督自身は、本来はパスポートで入国できたわけですよね?
監督:同行していた脱北者の女性にも言われました(笑)。「あなたは韓国のパスポートを持っているんだから、飛行機に乗って先にタイで待っていればいいじゃないの。何故険しい道を歩くのか?」って。その時も今もそうなんですが、何故自分でそういう行動に出たのか、未だにわかりません(笑)。結局、タイに入った時にトラブルに巻き込まれ、散々な目にあいました…。
──話せる範囲で教えてください(笑)
監督:タイには色んな国から難民が集まってくるので、彼らを収容するための施設があるんですが、脱北者は先ずわざと捕まって、収容所で政府の保護を受けるんです。しかし私は韓国のパスポートを持っていて難民ではないので、タイの保護ガイドラインの対象外となり、タイに入った瞬間に「密入国者」になってしまったんです。
──彼女たちは施設に保護され、監督は違法行為で捕らえられてしまった!?
監督:ちょっと馬鹿なことをしたなと思ったんですが、タイの警察は親切で、色々面倒を見たうえで釈放してくれたんです。と言っても、ちゃんと警察に行って裁判を受け、罰金を払ったうえで追放されました。しかしその足でフランスに帰るつもりで、バンコクでチケットを買い空港に向かったんですが、今度は「出国しようとしているが、入国スタンプがない」との理由でまた捕まりました(笑)。24時間調査を受け、色々言い訳して逃れたんですが、「次は容赦しない」と言われました。どうすればタイから出られるか思案して、韓国の政府にも助けを求めたんですが相手にされず、結局、フランスの映画の事務局に連絡して手を打ってもらい、バンコクからフランスに帰ることが出来ました。
──映画では、マダム・ベーさんが韓国へ入った時から韓国が舞台になりますが、中国の家族との素朴な生活を映した場面に比べ、韓国を映し出す映像では、厳しい現実のせいか、どこか幸せじゃない印象を受けました。
監督:それは私自身が感じたものでもあります。実際に中国の家族の生活を撮る時に、彼らは私を温かく迎え入れ、食べ物のことなど色々気を遣ってくれました。私自身がとても良い思いをしていたんです。一方で、この映画を撮っている最中に、私は長いフランスでの生活をたたみ、完全に韓国へ帰国しました。そこで感じたのが、私自身へだけでなく脱北者に対する韓国社会の、良くない雰囲気でした。それを体感して、非常に悲しい差を感じました。
──「自由の国・韓国へようこそ」という雰囲気ではないことに驚きました。
監督:私も驚きました。そして人一倍悲しかったです。
──マダム・ベーさんは最後に「中国に戻りたい」と言っていました。中国の家族が彼女を大切にしているのが伝わってきましたが、彼女は今どうしているんですか?
監督:映画は、中国の家族と北朝鮮の家族の間で葛藤していた時期で終わっていますが、彼女はその後、ソウル近郊の都市でバーを経営しています。今のところ、どちらの家族も選択せず、一人で独立して生活しています。そしてバーの経営で稼いだお金を、中国の家族と北朝鮮から脱北した家族の両方に仕送りしています。自分が出した結論に対して最善を尽くしていました。
──たくましいですね。
監督:本当に素晴らしい女性だと思います。
2017年6月8日
『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』
2017年6月10日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
公式サイト:http://www.mrsb-movie.com