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個性的な新しい日本人像を構築したい〜『ムカデ人間』"先頭部" 北村昭博インタビュー

ムカデ人間

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ホラーを遥かに超えた恐怖と戦慄でセンセーションを巻き起こし、伝説のカルト・ムービーと化したサイコ・ホラー『ムカデ人間』。"人間をつなぎ合わせたい"という禁断の、そして超個人的な野望を実現しようとする博士と、その餌食となった人々の死闘を描いた本作で、ムカデの"先頭部"として強烈な関西弁を操り博士に抵抗する日本人を演じたのが、現在ハリウッドで活躍し、TVシリーズ「HEROES」へも出演した北村昭博。7月2日(土)からの日本公開を前に北村昭博が緊急来日し、独占インタビューに応じてくれました。
『ムカデ人間』北村昭博インタビュー
──本作は、原題も「The Human Centipede(=ムカデ人間)」ですが、最初にこのタイトルを聞いた時、どんな映画だと想像しましたか?
北村:タイトルを聞いた時は、"Centipede"がピンと来なくて調べたら「ムカデ」だったので、ムカデが何百匹も襲いかかってくるような映画だと想像しました。最初は、キャスティングディレクターの方から脚本が送られてきて、「こんな映画があるけど、もし出たいと思ったら連絡して」と言われたんです。普通、オーディションを受ける前に脚本を読むことはないんですが、相当ヤバイ映画らしくて(笑)。脚本を読んだらもっとヤバくて(笑)、ホラー映画なのに衝撃で笑いが止まらなかったですね。

すぐにオーディションを受けたいと思ったんですが、まず高知の母に連絡しました。京都大学出のインテリなんですけど、この手の映画が好きで、「面白そう」と言ってくれたので、「おかんが言うなら…」と(笑)。それでオーディションを受けてみたら、受かっちゃった(笑)。
映画『ムカデ人間』 映画『ムカデ人間』
──どんなオーディションだったんですか?
北村:僕はロサンゼルスにいて、監督はオランダなので、スカイプでのオーディションでした。この映画の監督なので相当ヤバい人かと思ったら、そこにいたトム・シックス監督はニコニコした感じの良い人で驚きました。「あなたは天才です!」とか言いながら、映画の数シーンや即興演技をしたんですが、とても気に入ってくれて、一週間後にはオランダに飛ばされていましたね。急展開でした。
──情熱が伝わったんですね。映画は、脚本の段階で"先頭"が日本人だと?
北村:本当は50代の日本人サラリーマンで、役者も決まっていたんですけど、その人が背中を痛めちゃったので、オーディションをし直したらしいですね。
映画『ムカデ人間』 映画『ムカデ人間』 映画『ムカデ人間』 映画『ムカデ人間』
──50代のサラリーマン?
北村:そうなんです。でも、僕はロスで5年間演技の勉強をしていて、ずっと不満に思っていたのが、日本人が海外の映画に出ると、おとなしいちょい役だったり、サムライとか美しい日本のスピリットだったり、しっかり系の日本人ばかりなんですね。もっと個性的な日本人がいてもいいんじゃないかと常に思っていました。あと、ホラー映画の被害者は、恐怖の演技が中心なんですけど、実際に自分がそんな状況に陥ったら、泣き叫ぶだけじゃなくて、怒りや悲しみ、絶望とか色んな感情が出るだろうから、そういったものを出したほうがホラーとしてリアルなものが出来るかなと思いました。

そこで、どうしようかと思っていたある日、Youtubeで亀田史郎(プロボクサー亀田兄弟の父)さんとやくみつるさんが口喧嘩してる動画を発見したんです。亀田さんって、すごいエネルギッシュな人で、こういうキャラクターがヨーロッパ映画に出たら、新しい日本人像が生まれるんじゃないかと思いました。そこで監督に話したら、「全然OK!」と言ってくれて、そこから「強烈な関西系で、ドイツで悪いビジネスをしてる日本人」というキャラクターを構築していきました。
──セリフは日本語でしたが、自分で考えたんですか?
北村:そうです。脚本にはセリフが書かれていなかったんですけど、監督のビジョンがしっかりしていて、ストーリーやディテールも細かく書いてあったので、僕は「生きた日本語」を言うのが役目でした。監督は、俳優のクリエイティビティを活かしたいという思いで、役者には自分の言葉で喋って欲しいと考えていました。ビジョンがしっかりしている分、役者に自由を与えてくれるんです。役者として自分の言葉に責任を持つような、そういう気分にさせられるので、ガチガチにやられるよりは楽しかったですね。

あと、監督はオランダ人なんですけど、日本映画が好きなんですよ。三池崇史監督とかが好きで、日本人が自分の映画に出て日本語を喋っていることに興奮していて、僕がセリフを言うだけで「good job!! サイコー」って言ってました(笑)。
──劇中では日本語・ドイツ語・英語が飛び交い、お互いがまるで意思疎通できないところが効果的でしたけど、現場はいかがでしたか。
北村:現場は全て英語でしたね。オランダ人はみな英語を話せますし、僕も14年アメリカに住んでいるので、コミュニケーションは英語です。劇中では、アメリカ人の女の子が、わけの分からない日本人に繋げられるので余計に恐怖感が増すし、ドイツ人のハイター博士が人間嫌いという設定なので、僕が日本語で叫んでいても、犬が吠えてるのと一緒なんですね。意思疎通ができないペットのような。だから日本人を先頭にしたと監督は言ってました。
──撮影中は、常にアメリカ人の美女が北村さんのお尻にくっ付いていたわけですよね(笑)
北村:やばかったですね(笑)。でも、あれはお尻の型を取って、それを履いて包帯で隠していたので、直接肌と肌の触れあいはなかったんです。なので、思ったより性的に興奮する要素はなかったですね(笑)。感覚的にはズボンの上みたいな(笑)。
──「お尻」と言えば話は変わりますが、TVシリーズの「HEROES(season4)」にも出ていましたね。それも「お尻」にまつわる役柄で…(笑)
北村:そうなんですよ!『ムカデ人間』に出てからマネージャーがついて、色んなオーディションに行けるようになったんです。僕があの役を得たときに、ちょうど『ムカデ人間』が色んな映画祭で話題になっていて、僕が起用された後に「HEROES」の脚本が変わったんです。「HEROES」では、お尻をコピーしたのが原因で、何度も何度も自殺しようとする役柄なんですけど、最初の脚本は全然違っていたらしいので、確実に『ムカデ人間』が影響していましたね(笑)。
──私は「HEROES」を観たすぐ後に『ムカデ人間』を観たので、「お尻の人だ!」って思いましたよ(笑)。北村さんのために脚本が変わったんですね。
北村:メジャーなものを崩した気分で、ちょっと気持ちよかったですね(笑)。『ムカデ人間』を撮影していた時は、凄いなと思いながらも、やはり規模は小さい映画だったので、まさかこうなるとは(笑)
──元々、役者を目指してアメリカへ渡ったんですか?
北村:脚本や監督をやりたかったんです。アメリカでインディペンデントで2本作ったんですけど、監督として役者と話すために演技学校に通い始めたんです。そこで先生に評価されはじめて、「僕、演技できるじゃん」と思うようになりましたね。

実は、自分で脚本を書いたり、藤井隆さんが出演する、アメリカの日系社会向けのバラエティ番組を監督したりしてたんですけど、6年間で監督として得たギャラより、「HEROES」で一日出たギャラのほうが多かったんですよ(笑)。
──屋上に立ってるだけで(笑)!
北村:そうなんです!屋上で丸一日立って、マシ・オカさんと芝居してたんですけど、それがもうショックで(笑)。監督をやりたかったですけど、役者に専念したほうがいい人生を送れるんじゃないかと(笑)。天秤にかけるわけじゃないけど、やはり『ムカデ人間』が成功して、アメリカでも人気がある今は、俳優として知名度を上げていく時期なのかなと思ってますね。
──元々監督志望の北村さんが、役者としてトム・シックス監督の現場で演出を受けて得たものはありますか。
北村:得たものは多かったですね。『ムカデ人間』は、既に各国で配給が決まっていて、アメリカでは「サウスパーク」で一話丸ごとパロディにされたり、「サタデー・ナイト・ライブ」でもコメディアンのネタにされたり、社会現象になるくらいに成功しているんです。1本の映画を成功させるには、これくらい飛び抜けたアイデアが必要なんだと勉強になりました。撮り方にしても、グロテスクなところをあえて見せずに想像に任せるとか、美しく撮る方法とか、そういうのも凄く勉強になりました。尊敬していますね。
──しばらくは役者に専念すると思いますが、これからどんな役柄をやってみたいですか?
北村:やはり日本人として、キャラクターの個性を発揮できるような面白い役をやりたいですね。なかなか日本人のために用意された役はないんですけど、役作りがちゃんと出来て、役者として魅力的な面白い役をやっていきたいです。『ムカデ人間』ではこういう役柄でしたけど、僕は本当は"スイーツ男子"というか、ロマンティックで優しい心の持ち主なので(笑)、希望としてはロマンティックな役もやりたいですね。『ムカデ人間』の後なので、しばらくはエッジの効いた役になると思いますが。
『ムカデ人間』北村昭博インタビュー
──では、最後にこれからご覧になる方へメッセージをお願いします。
北村:この映画は外国圏の方に楽しんでもらいましたが、日本人の方にはもっともっと楽しんで頂きたいです。日本人として日本語で頑張ったので、応援してもらいたいという気持ちもあります。

『ムカデ人間』と聞いてたぶん、ヤバくてグロい“ゲテモノ”映画を想像すると思いますが、あんまりグロさもないですし、サイコロジカルな面もあって、ホラー映画好きじゃなくても楽しめるし、女性でも観られる映画です。トム・シックスの独創性、そしてディーター・ラーザー(主人公ハイター博士)の狂気も、ホラー映画に残る演技をしています。僕も日本人としての魂の叫びというか、気合いを入れました。是非みんなに見てもらいたいです。
2011年6月22日
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『ムカデ人間』
2011年7月2日(土)、シネクイントにてレイトショー(全国順次公開)
公式サイト:http://mukade-ningen.com/