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仕事も私事も正面突破!真っ向勝負で行く「覚悟」が見えた──映画『熱狂宣言』奥山和由監督インタビュー

熱狂宣言

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若年性パーキンソン病を抱えながらも、会社を東証一部上場企業にまで押し上げたDDホールディングス代表取締役社長・松村厚久の実像に追ったドキュメンタリー映画『熱狂宣言』が、TOHOシネマズ六本木ヒルズにて公開中。「止まったら死ぬぞ!」をキャッチコピーに、本作のメガホンをとったのは、プロデューサーとして数々のヒット作を生み出してきた奥山和由。映画界の“伝説の男”がとらえた松村厚久は、どんな人物なのか。奧山監督を直撃しました。
仕事も私事も正面突破!真っ向勝負で行く「覚悟」が見えた──映画『熱狂宣言』奥山和由監督インタビュー
■「松村さんに会うと、正体不明の元気をもらえる」
奧山監督:松村さんは、テレビや本で紹介されている印象があったけど、妙に立派すぎて、いまいち現実味がなかったんです。テレビだとパーキンソン病という視点から入りますよね。確かにそれは彼の大きな要素なんだけど、「病気と闘って会社を上場させた立派な経営者」というまとめにしているのが、何か違和感があった。作られたものじゃないだろうか?喉に小骨が引っかかった感じというか。それを実際に会って確認したいなと漠然と思って、「熱狂宣言」(著:小松成美)を出版した幻冬舎にセッティングをお願いして初めて会いました。

松村さんと二人きりで話して感じたのが、一言でいうとシンプルな人。周りの誰もが言うらしいけど、彼に会うと、何か正体不明の元気をもらえる。それが何故なのか、言葉にならないけど、ただ自分の中でチアアップしていく何かがあるんですよね。物事を深く考えているとか、ビジネスの才覚が傑出しているとかじゃなく、彼を前にすると気持ちが不思議なふるいにかけられて、軽くなる。デジタルの世界で言うと、スマホに色んなアプリをインストールして端末が重くなったとき、アンインストールしたら軽くなりますよね。きっと彼自身が、病気を機に色んな価値観をアンインストールしまくったんだと思います。
『熱狂宣言』
あと、二人で話す時間を一分たりとも無駄にせず、全力で対応しようとする思いが響いてきました。礼儀正しく、視線をそらすことなく全力で答える。相手が聞き取れていないと思うと何度も繰り返す。僕は若年性パーキンソン病がどういうものか詳しくは知らなかったけど、2時間ほど話して帰ろうとした時、彼が「奧山さん、すみませんが、このスマホのボタンを押してくれませんか」と言うんです。目の前に置いたスマホも触れないくらい体が動かなくなっていた。でもそれを感じさせないように姿勢を正したまま対応してくれていたんです。映画の中で彼は「エンディングでお客様を見送り出来ないのが悔しい」って言いますが、サービス精神という言葉では包むことが出来ない思いがあると感じました。
■病気を境に、一気に全力投球
奧山監督:皮肉なことに、彼の人生に病気というラインを引くと、病気を意識する前の彼は、僕にとってあまり魅力的ではなかった。映像や資料で知る限りだけど、黒服あがりで日焼けサロンから飲食業にステップアップし、勝ち組でラッキーな人生を歩んでいる。世の中に溢れる成功ストーリーがあるだけで、全然光り輝いて見えなかったんです。少なくとも、僕が関わる映画の素材としては、最も遠い存在でした。
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でも、若年性パーキンソン病になってから一気にダッシュし始めて、ベクトルが一方向に向かってシンプル化した。例えば服装にしても、人と会うときに「具合はどうですか?」で始まるのが嫌で、服装をどんどん派手にしていって、「今日も派手ですね」というポジティブな会話から始める方向に設定し直した。今日を生きるためのポジティブなエネルギーを掻き出すものであれば、何でも一所懸命で、命を燃やすという巨大なテーマに向かって、シンプルになっていったと思うんです。

僕が彼に共鳴したのは、喪失感をどう克服していくか。僕自身、会社から追放されて、ふざけるなと思う反面、愛情を感じることもあったり、心の奥底に染みついて消えない喪失感がある。でもそこに囚われて、残された人生がそのシミでくすんでしまうとか、1ミリでもへこんでしまうのが嫌だという思いが、松村さんにある。その前向きな気持ちに共鳴しました。会社を上場させたいとか、女性にモテたいとか目標を設定するけど、それが彼の最終目的だとは思えない。仕事も私事もどんな要素も、全力で正面突破、真っ向勝負だという、格好良く言えば「覚悟」のようなものが彼の中に見えて、それを映像で取り込んでみたいと思いました。
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■カメラを持ったのは身近な社員たち
奧山監督:ドキュメンタリーが普通の映画と違う魅力を持つのは、人間のどうしようもない感情を映しこむことが出来るから。映画で役者がどうしようもない感情を演じても、カットがかかったらその感情は消えますよね。本当にどうしようもない感情をリアルで見たときに、人は深いところで反応すると思うんです。でもその感情は、カメラを意識したら絶対に出てこない。10年待っても拾えないしれない。だから、最初に1年と決めて、監督である自分がカメラを持って入っていくのではなく、彼と日常的に接している社員を選んでカメラを渡し、タブーは一切なし、取れ高を意識しなくなるまで撮ってもらいました。だから、車の中での「レイニーブルー」のようなシーンが撮れたんです。
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■「レイニーブルー」と主題歌「LET YOUR LIGHT SHINE ON ME」
奧山監督:映画の中で病気の説明を排除できたのは、「レイニーブルー」のおかげだと思う。あの歌を歌っている時、松村さんの胸中に何があったのか。もしかしたら、何もなかったかもしれない。だけど、“失ったものを追いかける”という歌のテーマが、あの流れの中でしっくりくる。彼はたぶん追いかけるんですよ。気持ちの奥底で。失ったものを振り返る瞬間に溺れることがないように、前へ前へ進む生き方、喪失感を断ち切って、残されたことに集中する姿を撮りたかったし、松村さん自身もその姿を人に見せるのが自分の役割だと感じているんじゃないかな。

主題歌(「LET YOUR LIGHT SHINE ON ME」)は木下航志が歌っているんですが、彼は生まれながらの全盲で、幼い頃にピアノのおもちゃに興味を示し、小さい頃から路上ライブをやっていたんです。16歳ぐらいでアメリカに渡り、今は吉本興業の社員という面白い経歴。今回の映画音楽は、すべて彼がつけてくれました。主題歌は、黒人霊歌から選びたいと漠然と思っていて、いくつかあった候補のなかから、“私に明かりをくれ”という歌詞のこの曲に決め、より明るくなるようにアレンジしてもらいました。

映画は、極力説明を省きたいという気持ちがあるけど、主題歌はある種の説明的な要素があってもいいと思う。そういう意味では、曲の明るさと、分かりやすい英語の歌詞によって、限られた時間の中で映画と向き合い、終わった時に体にこびりつくような感覚が残ればいいなと思いました。

余談だけど、「レイニーブルー」の原盤権が高かったので、最初は木下くんに「レイニーブルー」を歌ってもらったんです。カバーというより、完全トレース。誰が聞いても違和感がないくらい、見事なトレースが出来あがってきたんだけど、映画に当てはめると、何かが違う。切なさというのかな…。やはり歌って不思議なもので、歌う人の恋愛経験や人生経験が染みついて、その心が言葉や息づかいになって歌声に出てくる。だから、ここはどうしても“徳永英明の「レイニーブルー」”じゃないと説得力が出なかった。松村さんが一人で入り込んで、「迷ったときはこれでいこうや」と言う切なさへ繋がっていく。それに社員で松村さんの運転手の安藝さんが半ば無神経に(笑)、「えー?今何て言いましたー?」って反応するのも、この映画のテーマみたいで面白いですよね。
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■周囲のスタッフのサポート
奧山監督:割と早い段階で、安藝さん(社員・運転手)が準主役になると思っていました。彼のある種の無神経さというのかな(笑)、素直さと、自分がサポートしなきゃっていう思い。松村さんとの間に生まれてくる感情の一体感があるんですよね。松村さんはその感情の一体感を無意識に作れるのがすごい。そういう力を期せずしてもってしまっている人物を最近はみたことがない。ある種のカリスマ性というのかな。無条件に人を引き寄せるものがある。もちろん人間だから負の部分もあるけど、そこを埋めてあまりある魅力が、あの爽やかな笑顔に象徴されていると思う。身近な人に言わせると、女性関係でモメてしまうこともあるって言うんだけど(笑)、それでも憎めない何かがある。
■この映画を通して、松村氏に化学反応が起きる
奧山監督:この映画がどう評価されるのか、周囲が自分をどう見るのか最初は心配していたみたいです。でも彼はそれを突き抜ける強さがあると思う。

僕は、今回の映画で彼を描ききったとは思っていなくて、松村さんという存在が、一部の人だけじゃなく、映画を通して全国区になったとき、彼の中でも化学反応が起こると思うんです。3年後、あるいは5年後、病気が治っているかもしれないし、会社を放棄しているかもしれない。まだ51歳だし、未知数が相当残っているから、その期待値を残し、1年だけ撮ったんです。今後、彼自身の中に出来上がっていく人生観は、絶対に深みが出てくる。それを取り込んだ時に、この映画が完成するんだと思います。

2018年11月9日
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『熱狂宣言』
2018年11月4日(日)TOHO シネマズ六本木ヒルズにてロードショー
公式サイト:https://www.nekkyo-sengen-movie.com/