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映画になった価値を原作者に認めてもらえるのは やっぱり嬉しいです〜『パーマネント野ばら』吉田大八監督インタビュー〜

パーマネント野ばら

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西原理恵子の叙情的傑作と名高い同名漫画を映画化した『パーマネント野ばら』は、高知県の田舎町にある美容院を舞台に、女性たちの切ない恋愛模様を描いた大人の恋の物語。菅野美穂を筆頭に、小池栄子、池脇千鶴、夏木マリらが、たくましく生きる女性たちを独特の存在感で体現している。メガホンを取るのは、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『クヒオ大佐』の吉田大八監督。本作で、不格好ながらも恋に生きる女性たちを優しく描いた吉田監督にお話を伺いました。
画像:映画になった価値を原作者に認めてもらえるのは やっぱり嬉しいです〜『パーマネント野ばら』吉田大八監督インタビュー〜
──映像化するにあたって、西原さんの原作を初めて読んだ時、どう思いましたか?
監督:すごく“女性の話”なのに男の自分にも届いたのはどうしてだろうと。自分が受けた感動と同じものが、映画として表現できれば、やる意味があると思いました。

一方で、西原さんの作品ってすぐれた絵本としても読めると思うんですけど、だったら西原さんの絵のない「パーマネント野ばら」って想像できないじゃないですか。これを実写にするなんて無謀だよなとは正直思いましたね。自分が原作のファンだったら、「お願いだからやめてくれ!」って思うだろうし。でも、映画を作る立場としては逆に燃えましたね。
──プレッシャーがあると燃えるタイプですか?
監督:色々言われたほうが燃えますね。コマーシャル育ちなので、いろいろな制約の下でどう面白くするか、という技術は20年磨いてきたつもりです。でも、映画の場合、より根本的な判断が監督に委ねられる場合が多いですし、特に今回は自らの企画ではなかったので、漠然と、「今の選択は、“僕にこの映画を撮らせている意思” みたいなものに叶っているだろうか?」と、考える事もありました。

僕が映画化したら、同じ原作の最初で最後の映画になる可能性は、当然高いわけじゃないですか。『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』と『クヒオ大佐』の時は、自分なりの切り口を見つけて、これを一番いい映画に出来るのは自分だ、という闇雲な確信があったんですけど、今回は「本当に自分で大丈夫かな?」と思っていました。そういう意味では一歩一歩が慎重でしたね。でも、映画にはそれがポジティブに影響したんじゃないかと思います。
──なぜ監督として自分が選ばれたと思いましたか?
監督:分からなかったですね。プロデューサーは全員男で、シナリオは奥寺佐渡子さん。自分で“キワモノ”って言うのもなんですが(笑)、単なる男目線のアプローチにならないように、ある種の変化球を期待されていたのかな。そのほうが逆に普遍性を持てるという。
──西原さんは舞台挨拶で「この映画化が一番嬉しかった」って仰ってましたね。
監督:「やった!」って感じですね。自分が勝手に設定した勝負に勝ったと言うか(笑)。原作に勝ったという意味ではなくて、映画になった価値を原作者に認めてもらえるっていうのは、やっぱり嬉しいですからね。もし「原作のほうがよかった」って言われても、「でも西原さん褒めてくれたし」と思っていられるので(笑)。
画像:『パーマネント野ばら』
──キャスティングについて伺います。主演の菅野さんの決め手はどんなところでしたか?
監督:菅野さんが演じた“なおこ”は、映画の前半と後半で見せる顔が違うのに、一貫した人間でいてもらわないといけない。これは、演技以前の存在感の問題かもしれないけど、強さと脆さを同時に表現できる女優さんを考えたときに、菅野さんが最初に浮かびました。主人公のなおこも、幸せそうに見えて、どこかに怯えというか“闇”みたいなものを感じさせる。僕が撮る『パーマネント野ばら』のヒロインとしては、菅野さん以上の人はいないと思いましたね。
画像:『パーマネント野ばら』画像:『パーマネント野ばら』
──強烈なキャラクターの小池栄子さん、ちょっと痛々しいキャラの池脇千鶴さんも光ってましたね。
監督:菅野さんとのバランスも考えました。小池さんは、感情の振幅が激しく、ある種の豪快さで“なおこ”とは対照的に立っていて欲しかったんです。池脇さんは、普通に見えて普通じゃない、内側にある深さはタダモノじゃない感じですね。あの3人の顔が並ぶだけで無敵ですよ。深い安心感に包まれながら撮影してました(笑)。
──監督は、女子トークを身近で聞いたことはありますか?
監督:ないですね。基本は近づかないようにしてます。女の人が3人以上並んでるだけで怖いですから。子供の頃、女の子の集団にいじめられたので、ガールズトークなんて聞くとむしろ舌打ちしたいくらいなんですけど(笑)。でも、その楽しさは想像できますね。
──パーマ屋での雰囲気がリアルだったので、もしかして監督は、あんな世界をみて育ったのかな?と思いました。
監督:そうですか(笑)。パーマ屋じゃないですけど、母親が化粧品店をやってた頃があったので、美容部員のきれいなお姉さんがよく遊んでくれて嬉しかったくらいですね。でも、あまり身近な環境ではなかったですけど。その辺は、西原さんのセンスを頼りつつ、あとは出演している西日本オバちゃん軍団の破壊力に賭けました(笑)。
──女同士の過激トークについて、女優さんたちから何か意見はあったのですか?
監督:小池さんは、見せてもいいパンツをはいていたらしいです(笑)。原作の“みっちゃん”は、スカートを脱いでパンツ丸出しでテーブルに仁王立ちしてますからね。だから自分もパンツを見せたかったって、後になって言うんですけど(笑)。でも、その心意気は画面に映っていると思います。
──登場する男子はことごとくダメダメでしたね。監督自身は、そんな彼らに共感する部分ってあるんですか?
監督:共感というか、憧れみたいなものはありますね。爽やかまでに無責任じゃないですか(笑)。自分にはそんな勇気はありませんが、あんなに清々しいまでに無責任に生きていけたら楽しいだろうなと思いましたね。男性の出演しているシーンは楽しかったです。
──その反面、江口洋介さんのシーンは、別の映画が入っているのかと思うくらいトーンが違っていました。
画像:『パーマネント野ばら』
監督:そうなんです。前半でその違和感を感じて欲しかったんです。後半で徐々に江口さんの比重が上がっていき、映画がクライマックスに向かっていく。その高まりかたは期待通りでした。江口さんと菅野さんの作ってくれる空気次第だなと思いましたけど、そこはさすがだなと思いましたね。
──ところで監督は、どんな作品を見て映画監督を目指したのですか?
監督:高校生の頃までは映画に興味がなくて、バンドをやっていました。たまたま、好きなバンドが出ているという理由で観たのが、『爆裂都市』('82 石井聰亙監督)でした。それまでも、映画はテレビで見てましたが、作り手の存在を意識したことはなかったんです。「桃太郎」を聞くのと同じ感覚で(笑)。でも『爆裂都市』で、「この世界を作りたいという強烈な意思を持った人がいて、俺は今、その人からぶつけられているんだ」と初めて自覚しました。決して人に勧めやすい映画じゃないけど、自分の中では特殊な体験だったので、そこから映画に興味をもちましたね。

あとは、『仁義なき戦い』とか、テンションが高いものが好きですね。淡々とした映画でも、気持ちの中に激しいものがあるものが好きです。『アウトレイジ』も早く観たいです。あ、ヤクザものもいいなぁ(笑)。
──監督の撮る“ヤクザもの”は是非観たいですね!
監督:僕は画面の中に並んだ顔を見るのが好きなので、自分の好きな顔だけで“ヤクザもの”ができたら毎日楽しいでしょうね(笑)。
──期待してます!では、最後に『パーマネント野ばら』を観る方に一言メッセージを
監督:女性の話を、男として畏敬の念をもって撮りました。男女問わずインパクトのある映画になっていると思いますので、ぜひ仲良く劇場に来てください。菅野さん、小池さん、池脇さん、夏木さんら女優陣の今までにない、新しい顔を見ることができますので、楽しみにして頂けたらと思います。
切ない恋に生きる主人公と、彼女を見守る人々の、繊細かつおおらかな愛情が描かれた本作。『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』や『クヒオ大佐』で監督が見せたシュールでブラックな笑いも満載で、その中で女優たちが一瞬垣間見せる切ない表情と言葉が、深い余韻を残す。恋の痛みや悲しみを知る女性たち、そして“見えない女心”に悩むオトナな男性たちも是非チェックして欲しい作品です。
2010年5月21日
『パーマネント野ばら』
2011年1月7日セル/レンタル同時リリース
公式サイト:http://www.nobara.jp