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全力で妻を愛した“偏屈じいさん”の魅力に迫る──『幸せなひとりぼっち』ハンネス・ホルム監督インタビュー

幸せなひとりぼっち

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スウェーデン発の大ベストセラー小説を映画化し、スウェーデンで歴代3位の興行成績を樹立、世界各地でも大ヒットを記録した映画『幸せなひとりぼっち』が、12月17日(土)より公開。本作は、愛する妻を失い、哀しみにくれる頑固老人オーヴェが、新しい隣人を迎えいれることで再び生きる希望を見いだす姿を描いた、心温まるヒューマンドラマ。北欧映画ならではのテンポとユーモアを織り交ぜて綴られるオーヴェの人生。不器用ながらも全力で人を愛するからこそ迎えられた幸せな結末が多くの観客の胸を打ち、スウェーデンのアカデミー賞と言われるゴールデン・ビートル賞で主演男優賞(ロルフ・ラスゴード)と観客賞をダブル受賞した。映画の公開を前に来日したハンネス・ホルム監督にインタビュー。“愛すべき頑固老人”オーヴェのキャラクター像について伺いました。
全力で妻を愛した偏屈じいさんの魅力に迫る──『幸せなひとりぼっち』ハンネス・ホルム監督インタビュー
※最後の質問にはネタバレを含んでいます。ご注意ください。

──主人公は頑固者で、妻に先立たれ幸せな頃を回想しながら自殺未遂を繰り返します。主人公のキャラクターは一見、暗そうなイメージがありますが、原作のどんなところに惹かれましたか?
監督:正直、暗くてあまり面白そうな話じゃないよね。もし僕が自分で企画してプレゼンしてたら、おそらく製作には至らなかったと思う(笑)。実は映画化の話が舞い込んで来たときに、一度断ったんだ。ベストセラー小説を映画化するのは好きじゃないからね。でも本を読んだら、一見暗そうな物語だけど、主人公のあまりにも古い価値観によって醸し出されるユーモアが魅力的だったし、さらにその中でメランコリックな恋愛物語が描かれている。そこに驚きを感じたし、今とは違う時代のラブストーリーを描くのは、僕にとってのチャレンジだと思ったんだ。
──脚本にしていく過程では、どんなところに気を遣いましたか?
監督:僕はコメディ作品を手掛けていたから、スラップスティックなコメディにも出来たけど、コメディになりすぎると重要なテーマが薄れてしまう。脚本の段階で、ドラマチックな部分とユーモアのバランスには非常に気を遣ったんだ。この映画に関しては、ワインが時を経て熟成されていくような、スローでスウェーデン的なユーモアになったと思う。国際的に受け入れられたのも、このユーモアのおかげだったと思うよ。
『幸せなひとりぼっち』ハンネス・ホルム監督インタビュー
──主人公のオーヴェは昔気質で不機嫌なキャラクターで、日本でも懐かしい父親像になると思います。スウェーデンもそうですか?
監督:典型的な父親像だし、普遍的な男性像でもあるね。オーヴェは59歳だけど、この世代は責任感が強いことで知られていて、例えば、今の世代は車の調子が悪くなったら買い換えるけど、昔の世代は何十年もケアして使い続けたりする。それが世代の特徴なのか時代特有のものなのかわからないけど、実直で頑固で気難しい。でも僕自身の父親もそうで、きっちりして無愛想だけど、中身は愛情深くて温かい人なんだ。
──家の屋根にはスウェーデン国旗を掲げ、国産車サーブを信奉し、近所のあらゆる問題に厳しい一方で、セクシャルマイノリティや移民には寛大ですね。
監督:オーヴェは保守的に見えるけど、基本的には偏見を持っていないんだ。だからといって全てに寛大ではなくて、もちろん未知のものや部外者への恐怖はある。例えばパルヴァネが作った料理を最初は拒絶してるけど、食べてみたら美味しかったので素直に受け入れている。そういう人間味のある普通の人なんだ。

実はこの映画が公開された時、スウェーデンでも人種差別的な見解をもつ党の党首が、パルヴァネを演じたバハー・パールに電話をしてきて「この映画が気に入った」と言ってくれた。もしかしたらこの映画がリベラルとの架け橋になってくれるもしれない。人種差別が存在するとしても人種差別主義者を拒絶するのもまたいけない話で、なぜそうなのかを考えるのかがベストだと思うし、そういう意味でもこの映画が役立つなら嬉しいと思う。
──確かに映画ではオーヴェのキャラクターは終始頑固なまま変わらず、私たちが彼のことを理解することによって、オーヴェに親近感を憶えて愛すべきキャラクターになっていきます。
監督:彼を知ることで見方が変わっていくんだよね。いわゆる気性が荒い男が、周囲との交わりでキャラクターが変わっていくのだと、ちょっと現実味がなくておとぎ話になってしまう。そういうのは避けたかったんだ。
『幸せなひとりぼっち』ハンネス・ホルム監督インタビュー
──オーヴェを演じたロルフ・ラスゴードさんは、『アフター・ウェディング』などで知られるスウェーデンの名優です。特殊メイクでオーヴェを演じましたが、キャスティングの理由は?
監督:この映画はコメディと思われるけど、オーヴェは演技力のある役者をキャスティングしたかったんだ。ロルフはスウェーデンに限らずスカンジナビアのトップ俳優で、オーヴェ役は彼しか考えられなかった。特殊メイクにしたのは、劇中で語られるオーヴェの歴史の全てを顔に刻みつけたかったから。時間も予算もかかったけど、そこはこだわって丁寧にやったんだ。ロルフの演技と合わさって、観る人が納得できるオーヴェという人物が出来上がったと思う。

撮影の初日は、現場のスタッフが特殊メイクをしたロルフに気付かなくて、「変なおじさんがいるから追い出せ」と言ったくらい(笑)。僕も一日中怒っているオーヴェに少し恐怖を感じたけど、ロルフがメイクを落としてやって、目を細めたときは嬉しかったよ(笑)。いつかまた一緒に映画を作りたいと思う。
『幸せなひとりぼっち』ハンネス・ホルム監督インタビュー
──ラストシーンは原作とは違った展開で、思い出すだけで涙が出るくらい素敵なシーンだったと思います。ラストに込めた思いとは?
監督:映画は、オーヴェとその向かいに引っ越してくるパルヴァネとの思いがけない友情が軸だけど、オーヴェとその妻ソーニャとの感動ストーリーも語られる。オーヴェにとってソーニャは人生の全て。物語を通してオーヴェはずっとソーニャに会いたがっているので、最後は会わせてあげたかったんだ。物語をどう終わらせるか、ものすごくディスカッションしたけど、原作とはまた違う結末を用意できたし、素晴らしいラストになったと思うよ。
2016年12月15日
『幸せなひとりぼっち』
2016年12月17日(土) 新宿シネマカリテ・ヒューマントラストシネマ渋谷 他全国順次公開
公式サイト:http://hitori-movie.com/