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この映画を月の光のような優しい存在にしたい──『しあわせのパン』三島有紀子監督インタビュー

しあわせのパン

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原田知世&大泉洋 共演。北海道の洞爺湖のほとりにある小さな町・月浦のパンカフェを舞台にした映画『しあわせのパン』。オール北海道ロケで製作された本作は、パンカフェを営む夫婦と、その店を訪れる人々の人生を、北海道の四季折々の景色とともに描いた心温まる物語。本作のメガホンをとった三島有紀子監督にインタビュー。映画に込めた想いやキャストの魅力、撮影の様子など語っていただきました。
この映画を月の光のような優しい存在にしたい──『しあわせのパン』三島有紀子監督インタビュー
──映画の構想はいつ頃から考えていたんですか?
監督:10年も前なんですが、初めて北海道に行った時から北海道を舞台に映画を撮りたいと思っていました。誤解を恐れずに言うと、北海道って私の中では「外国」のような思いがあって、初めて飛行機で降り立った時に見た光景が、赤や青の可愛い色のトタン屋根が並んでいる外国のようなものだったんです。いただいた食べ物も美味しかったし、色んな面で独自の文化を築いていて、ここで少し非日常的な大人の寓話を撮りたいと思いました。

今回は、北海道の知られざる魅力を伝えるような女性向けの映画が作りたいと言われ、どんな映画にするか考えながら色んな場所を周って、洞爺湖のほとりにある月浦に辿り着きました。
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──劇中のカフェは実際にあるものですよね?
監督:洞爺湖の月浦に坂道があって、坂道を上がって振り返った時に、澄んだ空気と真っ白な雪原、その奥に紺碧の湖が見えて、ハッとするほど美しかったんです。その奥に一軒だけぽつんとカフェがあり、行ってみたら温かいコーヒーとパンを出してくれました。「絶対にここで撮りたい!」と思って、近くの民宿に泊まりながら何度も通って、オーナーと色んな話をしながら、まずはお友達になってもらいお願いしました。
──映画では、1年間を通して北海道の色んな顔を見ることができました。四季折々の北海道を撮るのは大変だったのでは?
監督:死ぬほど大変でした(笑)。9月に行って、春・夏・秋を20日間で撮りました。冬は1月に行って撮ったので、撮影期間は全体で1ヵ月もなかったんです。
──1ヵ月で撮れるんですか?
監督:撮るんです(笑)!でも、全部“自然合わせ”でした。自然はアポをとってくれないので、チーフが組むスケジュールも何のその(笑)。朝一番に誰よりも早く現場に行って状況をみて、撮影の組み合わせを考えるんです。劇中で2人が散歩に出る時に、草原に影が差しているんですけど、あれは陽が落ちる直前にしか撮れないんです。全然違うシーンを撮っている時でも、影が出てきたら「今だ!」って(笑)。大泉さんは休憩していたのに、急に呼ばれて歩かされたこともありました。
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──キャスティングも素敵でしたが、原田知世さんを選んだのは?
監督:台本は、完全に原田さんをイメージしていました。永遠の少女のイメージなんですけど、譲らないところは譲らない、そんな芯の強さもあって、“りえさん”にすごく近いなと思っていました。

あと、この映画自体を、月の光のような優しい存在にしたいと思っていたんです。私自身、月が好きなんですけど、神秘的で美しく、激しい光じゃなくちょっとだけ優しい光を照らしてくれる。月にはそんなイメージがあって、原田さんにもそのイメージがあった。“りえさん”にぴったりだと思いました。
──相方を大泉洋さんにしたのは?
監督:このキャスティングは悩みました。大泉さんの役柄は、あまり喋らず、間接的に時間をかけて愛情を伝える男性なので、黙っていて怖かったり暗かったりする人じゃダメなんです。大泉さんは黙っていても明るさと暖かみが伝わって来ます。そういう熱量を感じます。かといって、何も考えていない単純な人ではなく、繊細な部分も見えてくるので、是非にと思いました。
──“ヨーコさん”役の余貴美子さんもよかったですね。彼女がいることによって3つのオムニバスのようなストーリーが1つになっていて、“しあわせのパン”になっているなと思いました。
監督:余さんも、私が助監督時代にご一緒させていただいていて、私のたっての願いで直接交渉に行きました。“ヨーコさん”は誰よりも自由な役柄ですが、私の理想の女性です。ああいう風に人生を重ねたいと思っています(笑)。
──撮影中の“しあわせなエピソード”はありますか?
監督:地元の人たちがお弁当を手配してくれて、毎回ものすごい愛情がこもっていて美味しかったんです。ホタテを焼いたものや、いくらの醤油漬け、カニ汁とか…。差し入れもたくさんあったんですけど、おにぎりをその場で握ってくれて、疲れているからと“にんにく味噌”を入れてくれたり、お弁当にメッセージが添えられていたり、愛情があるものでした。作っている人が見えると幸せですよね。大泉さんもスープカレーを作ってくれました。

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あとは、原田知世さんは根っからの映画女優さんで、とてもカメラに愛されている人だと思いました。カメラに映し出されたときの吸引力が全然違うんです。「私は今、原田知世という映画女優を撮っているんだ」と思うとしあわせでした。撮影は大変でしたが、しあわせな瞬間がずっと続いていました。

ある日、銀色の三日月が出て、原田さんと2人で見上げていたんですけど、原田さんが「監督、今日の月はきっと、“水縞りえさん”が初めて来た夜に見た月だと思いませんか」って仰ったんです。誰よりも“水縞りえ”を理解してくれているんだなと感じて、それもしあわせな瞬間でした。
──フードスタイリストの石森いづみさんも参加されていましたね。
監督:石森さんは、劇中でどういうメニューにしようかと考えていた時に、実際にカフェの方が畑から紫のインゲンを摘んできて、それをさっと茹でてオリーブオイルをかけて塩をふって出してくれたことを話したら、「まさにそれですよ!」とおっしゃいました。石森さんは、「コテコテで複雑な料理ではなく、ここの大地が産んだ素材をそのまま大切に料理してお出しするという哲学のもとにやるのがいいと思う」と仰いました。私自身も、ただ美味しそうというのではなく、「その人物がどういう哲学をもとに料理を出すか」が大切だと思っていたので、根幹の部分を解ってくださる素晴らしい方でした。
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──主題歌の「ひとつだけ」(矢野顕子&忌野清志郎)については?
監督:この歌詞に向けて台本を書いていたので、これ以外は考えられませんでした。この歌を聞いた時、「いつかこの歌がエンディングで流れるような映画が作りたい」と思いました。月浦のカフェに辿り着いた時に夫婦の話にしたいと思いましたが、夫婦ってそれぞれ、相手がかけがえのない存在だと確信するまでに時間がかかると思うんです。それまではどこか心が離れたり、すれ違ったりする。2人がずっとそれを願いながら生きていて、それが結実する時にこの歌をかけたいと思っていました。
──最後に、本作を期待されている皆さんにメッセージをお願いします。
監督:日々慌ただしく暮らしていると、自分にとって大切なことが見えなくなる時があると思うんですけど、そういう時にこの映画を観ていただいて、自分にとっての「ひとつだけ」って何だろうと感じてもらえたらと思います。是非、それを見つけてください。
2012年1月25日
『しあわせのパン』
2012年1月21日(土)北海道先行ロードショー、1月28日(土)全国ロードショー
公式サイト:http://shiawase-pan.asmik-ace.co.jp