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震災を経て、「命の重み」というテーマがよりクローズアップされた──『るろうに剣心』大友啓史監督インタビュー

るろうに剣心

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和月伸宏原作の人気漫画「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」。少年誌への連載でありながら、女性からの熱い支持を受けシリーズ累計5700万部を突破、世界23ヵ国で翻訳されTVアニメも大ヒットを記録したこの人気コミックを、佐藤健主演で実写映画化。原作のスピリットを引き継ぎながら、役者たちの生身のアクションと奥深い人間ドラマを融合させ、日本映画としてこれまでにないアクション・エンターテイメントが完成した。メガホンをとったのは、NHK大河ドラマ「龍馬伝」や映画『ハゲタカ』の大友啓史監督。本作の公開を前に、大友監督を直撃。映画に込めた熱い想いを伺いました。
震災を経て、「命の重み」というテーマがよりクローズアップされた──『るろうに剣心』大友啓史監督インタビュー
──『るろうに剣心』のメガホンを託されたとき、一番プレッシャーになったことは何ですか?
監督:まずはアクションですよね。と同時に、漫画原作を映像化した時の、いわゆるサムい感じは避けたいということもありました。映画は原作を知らない人も観てくれるものなので、原作で二次元の中に描かれた人物たちを、そのキャラクター性を損なうことなく、生きた存在として如何に描けるかもポイントでした。例えば剣心のキャラクターを描くということは、飛天御劔流を会得した無敵の人斬りを描くということ。「スパイダーマン」だったら設定上、CGのアクションは有り得るけど、剣心は生身の人間なのですからね。まずは佐藤健という役者の生身の体で、どこまで凄いアクションが描けるのか、その辺が大きな課題ではありましたよね。
──剣心をはじめ、各キャラクターにどんな役作りを求めましたか?
監督:今回は、ほぼ全部自分で「この人じゃないと嫌だ」というぐらいの勢いで選んだキャストなので、俳優達に対しての信頼感は物凄くありました。まず健くんの場合は、人斬り抜刀斎としての剣心を体に染みつかせないといけない。2ヵ月半ぐらいアクションの稽古を徹底的にやってますが、彼自身も取材で「アクションが格好悪かったら役者辞めます」と言ったくらい覚悟を決めていた。蒼井優さんは、元医者で贖罪の意識を持っている役柄です。演じる上では、原作と似ているか似ていないかではなく、内面からしっかりアプローチしてくれた。不思議なことに生身の俳優がその役の感情のディテールを共有すると、必然的に見てくれも原作のキャラクターに似てくるんですね。ですから、蒼井さんだけではなく、演じる役に対する的確な理解と感情の持ち方を体現してくれる役者たちが、僕にとって、この巨大な原作に向かう時の最大の武器でした。

あとは、それぞれに必要なアクションの稽古をしてもらい、コスプレにならないように、いやある意味上質なコスプレになるように衣装にも細心の注意をはらいました。彼らが思いっきり演じられるような環境さえ作ってあげれば、彼らなりのアプローチで役になりきってくれると信じていましたから。
──海外でも人気のある漫画なので、海外公開も視野にいれていたと思いますが、どんな意識で製作されたのですか?
監督:日本の時代劇っぽく作らないぞ、という意識は強くありましたね。スタッフみんなに言っていたのは、「マーベル感だよね」ということ。テンポも含めアメコミ感覚で、絵の密度が濃い感じですね。日本の映画の作り方って、足し算ではなく引き算感覚というか、余計なことはしないという方向に向かってしまう。すると、作品の濃密度という点で海外作品に負けてしまうんですね。僕が2年間ハリウッドで勉強して、映画としての違いは何なのか考えていた時、そんなことをゆるゆると思っていたので、今回は空間も含めて敢えて過剰に作り込んでいますね。

あとは、台詞よりもやはりアクションですね。僕がハリウッドにいた'97年から'99年が、ちょうどジャッキー・チェンやジョン・ウーがアクション描写を武器にアメリカに進出していた頃だったので、いずれアクションで勝負してみたいと常に思っていました。アメリカは、ロスにしてもニューヨークにしても色んな人種が住んでいて、言葉の壁を乗り越えていけるのは体の動き、つまり「アクション」であると映画人は分かっています。もともとキートンやチャップリンも無声映画から始まり、体の動きで全てを表現していた。なので、日本的な心情表現だけじゃなくて、エモーショナルな面も含め「アクション」で見せていけば、結果として海を渡れるんじゃないかと考えていました。
──原作のテーマでもありますが、剣心は、斬れない刀で人を守ろうとします。これまで日本の時代劇って勧善懲悪で、クライマックスでは悪を斬って結末を迎えるのが定番でしたが、迷いはありませんでしたか?
監督:ありませんでしたね。脚本を書いていたのは、ちょうど去年の大震災が起きた頃で、僕は被災地・岩手の盛岡出身ですからね。あの震災を目の当たりにして、自分が何もできないという無力感と絶望感に襲われながら、一方で「命の重み」というテーマが僕の中でさらにずしりと重くなっていった。もともと剣心は殺さずの誓いを胸に秘めた人ですから、そのテーマは原作自体が持つテーマです。ですが脚本の段階で震災を体験したことで、無意識にその部分がさらに大きくクローズアップされることになったと思います。

帰る場所があるという意味の「かならず、帰る」というキャッチコピーもそうですし、「助ける価値のない命などない」というストレートな台詞もそうですね。ラストシーンも含めて、脚本の在り方も少しづつ変えていきました。こういう未曽有の出来事があった時代だからこそ、剣心が人を殺さず、人を助けていくという生き方がより魅力的に輝くんじゃないかと思いましたね。「命」というものがどんな扱いをされてきていて、どんな扱われ方をされる時代に変わったのか、その中で彼が何を感じているのかもテーマになっています。これは明らかに震災の影響でしょうね。
──原作を少し変えていく台詞など、原作者の和月先生は何か仰っていましたか?
監督:台詞については、原作が持つキャラクターのスピリットから発せられる言葉であるかどうかに徹底的にこだわって脚本を創りましたから。特に厳しい注文はありませんでしたね。むしろ、斎藤一の「己を向いた刃は、やがてお前を苦しめることになる」という台詞や、剣心の服が赤に変わるところも、「やられた!」と言ってくださいました(笑)。試写室で一緒に観ていたので、鑑賞後は「本当に最高です。完璧です」と握手してくださいました。嬉しかったですね。太鼓判を押された気分です。

剣心の衣装についても、幕末の人斬りが赤い服でさすらっていたら目立って見つかっちゃいますからね(笑)、実写に落とし込んでいく時に、どうしても変えなければならない。でも一方的に変えるのではなく、原作コミックの表紙の色なんかを見ながら、青を混ぜた赤なのか、オレンジに近い赤なのか、スタッフ皆でワイワイ言いながらやっていましたよ(笑)。5,700万部を超えた原作ですから、リスペクトせざるを得ない。本当に原作を大事にしながら、そのイメージを最低限壊さないように作ったつもりです。
──監督の中で、ここは原作を超えた!と思えるところは?
監督:「超えた」というよりも、生身の人間がやることによって感情移入しやすいシーンはあると思います。人斬りの剣心が、人を殺して初めて恐怖を覚える。自分が斬った命の向こう側に、守りたい人があったことを目の当たりして、命の重みを知るシーンですね。漫画で描写するのは難しい感情の動きだと思うし、「贖罪」をテーマにした映画の一番のキーとなる部分なので、会心のシーンが撮れたと思います。
──最後に、これから映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。
監督:単なるセールストークではなくて、アクションもドラマも、本当にこれまで観たことのない日本映画になっていると思います。漫画ならではの魅力的なキャラクターを、日本の一流の役者たちが精魂傾けて演じているので、原作ファン、アニメファンの方にはその辺を観て頂きたい。アクションも練習の成果が十分画面に現れていますので、その凄みを是非楽しんで頂きたいですね。
2012年8月15日
『るろうに剣心』
2012年8月25日公開
公式サイト:http://www.rurouni-kenshin.jp