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盲目の貝類学者が自然を感じ観る物語──『シェル・コレクター』坪田義史監督インタビュー

シェル・コレクター

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リリー・フランキーが盲目の貝類学者を演じた、15年ぶりの単独主演作『シェル・コレクター』が、27日(土)より全国順次ロードショー。本作は、ピュリツァー賞作家アンソニー・ドーアの同名処女短編集の一編を、舞台を沖縄に移して映画化。メガホンを執ったのは、デビュー作『美代子阿佐ヶ谷気分』が国内外で高く評価される坪田義史監督。沖縄の孤島でひっそりと暮らす主人公が、偶然にも貝毒で奇病を治してしまったことから、彼の生活に異変が訪れるさまを、幻想的な映像の中に描いていく。映画の公開にあわせ、坪田監督にお話を伺いました。
盲目の貝類学者が自然を感じ観る物語──『シェル・コレクター』坪田義史監督インタビュー
──厭世的な生活をしていた貝類学者の生活が一つの奇跡によって一変し、悲劇がもたらされる…。純粋にストーリーを追うと、『まんが日本昔ばなし』のような普遍的で深いメッセージがあると思いました。
監督:それは嬉しいですね。ちょうど『まんが日本昔ばなし』に影響を受けた世代ですし、尊敬する映画監督で脚本家の沖島勲さんが描かれた一話完結の寓話性、井上ひさしさんの「ひょっこりひょうたん島」や、「鏡の国のアリス」(ルイス・キャロル)など、子ども向けの物語でありつつ、裏テーマのあるファンタジーが好きなんです。実はその路線を狙っていました(笑)。
──「シェル・コレクター」は外国文学ですが、心掴まれたのはどんな部分でした?
監督:日本で翻訳されたものを手に取ったのが2009年ぐらいでした。読み物として、主人公が盲目であるというのは、小説の中で読み手に想像力をかきたてる文学的装置だと思うんですが、見えないからこそ、見えてくるものがあると思いました。読んでいてイメージが広がりますよね。映画化したい気持ちが高ぶりました。
──舞台を沖縄に置き換えたのは?
監督:日本で映画化するならば、沖縄しかないと思いました。豊かな自然と独特な文化のある沖縄であれば実現できると思いました。奇跡が起こるかもしれないと思わせる場所を探して、渡嘉敷島に決めました。
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──主演のリリー・フランキーさんは、孤独な盲目の貝類学者というキャラクター像にピッタリでした。
監督:脚本を何稿か書いているうちに、オファーするならリリーさんだなという思いはありました。リリーさんって、ダンディーで達観した雰囲気があり、それでいて「おでんくん」のようなキャラクターを生み出す少年のような感性がある方だと思います。主人公は一人で厭世的な生活をしながらも、心の奥底ではいまひとつ捨てきれない、誰かと繋がりたいと思っている。まんが日本昔ばなしに出てくるような典型的な仙人像ではなく、現実と寓話の狭間で演じて頂きました。
──役作りについてはどんな話し合いをしたのですか。
監督:まずはリリーさんに、脚本を読んだ印象のまま演じてもらおうと思いました。最初は、もっと老人のようなイメージ持っていたようなんですが、もう少し現実のリリーさんに近い年齢に修正していきました。盲目の人という部分では、衣装合わせの時に盲目の方に来ていただいて、対話をし、実際にリリーさんに歩いてもらったり、普段の生活状況をインタビューしていきました。リリーさんのデッサン力と言いますか、吸収の早さにはビックリしましたね。短時間でオリジナルなものにしていきました。

撮影は3週間あったんですが、リリーさんにはずっと島に滞在していただいて、寺島さんや池松さん、橋本さん等が撮影のために島に渡ってきて撮影して帰って行く感じでした。
──それは迎えるリリーさんもちょっと楽しそうですね。
監督:都会の喧騒から離れて、役に向き合えたと仰っていました。
──リリーさんは海に沈むシーンが何度もありました。
監督:CGに頼りたくなかったので、実際に何度も何度も潜っていただきました。1月の沖縄はすごく寒いんですが、沖合いの船上にバスタブを用意して、潜って・浮いて・バスタブに入って・また潜って…とリリーさんには苦労をかけましたが、素晴らしいシーンが撮れました。
──海に沈むリリーさんの周りの景色も素敵でした。
監督:日本で一番腕がいい水中撮影の方々にお願いしました。映画の撮影期間中に渡嘉敷島周辺の海に潜っていただいて撮影した映像なんです。実際にそこに生息している魚やウミガメがいて、とてもいい映像が撮れました。

生身の身体が海に浸かっていき、生身の人が深海で呼吸をする姿、深層心理のような異世界を描けました。盲目の貝類学者が、海の中では、視力があり、自然を感知し、呼吸もしているような幻想的なシーンを生身の身体で表現したいと思ったんです。
──沖縄の色鮮やかな景色と、夜のシーンでの完全な闇とのコントラストもまた印象的でした。撮影はベテランの芦澤明子さんですね。
監督:芦澤さんが切り取るフレームが好きで、フィルム撮影をお願いしました。昼間は16mmフィルムで撮影して、夜は闇に強いHDカメラで、極力照明を焚かずに撮影しました。水中は超高解像度のカメラで収録しています。古き良き日本映画の画質と、現代的なデジタル撮影の画が混在していて、レトロフューチャーな世界観になったと思います。
──時々差し込まれる抽象的な映像や音楽はどのようなイメージなのですか。
監督:盲目の人がイメージした世界や記憶、そこから感じられる気配、解毒のイメージや幻覚、戦争の気配などを、どう感覚的にビジュアライズさせるかを考えていきました。CGに頼らず、何千枚もの静止画や動画を何重レイヤーにも重ねて明滅させて視覚効果を作りました。観ている方を、視覚的にも聴覚的にも刺激するような工夫を施しました。全体的に既視感の無いものを打ち出せたと思います。
──監督自身が特に気に入っているシーンは?
監督:冒頭の浜辺でのロングショットで、主人公が自分の家に帰っていくところですね。遠巻きに家があって、主人公が杖をついて近づいていく。あの家は貝の螺旋状の内部構造をもとに作っていて、身を守るシェルター的な意味もあるんです。そこへ、ヤドカリが宿を探して近づいていくようなイメージで、意味深いものになっていると思います。
──そんな貝をイメージした家が動き出すラストシーンも意味深です。最後に登場する貝は本物ですか?
監督:最後の貝は想像上のものです。見逃す方が多いんですけど、実は動いているんですよ(笑)。最後は違う島に辿り着いたとも捉えられるけど、現実の世界なのか幻想の世界なのか、生きているのか死んでいるのかさえもわからない新世界。観る人によって色んな捉え方ができると思います。
──最後に、これから観る方にメッセージをお願いします。
監督:盲目の貝類学者が自然を感じ観る物語で、感覚的で拡張された世界観を作りました。巨大な劇場のスクリーンで体感して欲しいです。そのなかで、自然と人間が対峙する映画を楽しんでいただければと思います。
2016年2月26日
『シェル・コレクター』
2016年2月27日(土)より、東京:テアトル新宿、沖縄:桜坂劇場他全国順次ロードショー!
公式サイト:http://bitters.co.jp/shellcollector/