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良質なアニメーションのような世界観が魅力 ── 『四月の永い夢』中川龍太郎監督インタビュー

四月の永い夢

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『走れ、絶望に追いつかれない速さで』の中川龍太郎監督・脚本最新作『四月の永い夢』が、5月12日(土)より公開。本作は、3年前に恋人を亡くした主人公の穏やかな日常が、亡くなった彼からの手紙をきっかけにゆるやかに動き出し、喪失感から解放されていく様を優しく繊細に描いたヒューマン・ドラマ。主人公・初海役を務めるのは、アニメ映画『かぐや姫の物語』でヒロイン・かぐや姫の声を演じた朝倉あき。第39回モスクワ国際映画祭では、国際映画批評家連盟賞&ロシア映画批評家連盟特別表彰のダブル受賞を果たした。本作のメガホンをとった中川龍太郎監督にお話を伺いました。
良質なアニメーションのような世界観が魅力 ── 『四月の永い夢』中川龍太郎監督インタビュー
──前作『走れ、絶望に追いつかれない速さで』は、親友の死に直面した青年のお話で、今作は恋人を亡くした女性が主人公になりました。「死」をテーマにした2作の違いとは?
監督:前作は、実際に僕の友人が亡くなって1年後に撮った作品で、その時の気分を正確に捉えようという思いがありました。タイトル「走れ、絶望に追いつかれない速さで」は実際にその友人が僕に言ってくれた言葉で、自分の主観で撮ったメモワール的な作品でした。

それに対して今作は、もう少し距離を置いて違う視点から表現しようと思いました。そのために意識的に女性を主人公にしたんですが、そもそもこの作品は、朝倉さんを撮りたいというのが大事なテーマとしてありました。朝倉さんのあの雰囲気をどうやって魅力的に撮れるか考えて、結果的に、元々自分が持っていたテーマにぶつかりました。だから、映画を作るモチベーションという意味では、2作は全く違ったものになります。
──恋人を亡くしてから3年という月日は、実際に親友を亡くした監督の心境を反映しているのですか?
監督:そうですね。同じ3年という期間に被せているのもありますが、この映画の一つのポイントとして、恋人を亡くした喪失感を描くというよりも、それを言い訳にして、自分の人生を次のステージに進めることに対して臆病になっている人というのが主題です。僕自身にもそういう部分があって、友人を亡くしたという事実を隠れ蓑にして、自分が向き合わなければならない現実から目を逸らしていた部分もあったと思う。それが今回のキャラクター造形に繋がっています。
──何故、朝倉さんを撮りたいと思ったのですか?
監督:僕が友人を亡くした直後、死について考えていたなかで偶然に観た映画が『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)でした。かぐや姫を演じた朝倉さんの声が、僕の中にスッと入ってきて、それ以来勝手にご縁を感じていたんです。朝倉さんの声自体が、かぐや姫のキャラクター造形に影響を与えている感じもしましたし、死を主題にした物語として見たときに、朝倉さんでこのテーマを撮るというのは必然性があったかもしれません。
『四月の永い夢』
──朝倉さんの存在がこの作品にマッチしていて素敵でした。風景と朝倉さんの透明感、声のトーン、行間などあわせて映画全体に心地よい時間が流れていたと思います。朝倉さんには喋り方など細やかに演技指導したのですか?
監督:朝倉さんの喋り方は、実際に朝倉さんが普段喋っている感じをそのまま使いました。人と関わっている時の喋り方が独特で、僕が演出したというよりは、彼女の要素をそのまま映画に取り入れました。もし朝倉さんが出てくれなかったら大変なことになっていました(笑)。でもたぶん、朝倉さんじゃなかったらこの映画は撮らなかったと思うし、違う人だったらもうちょっとストーリーにひねりを入れようとか考えていたかもしれません。
──監督は詩人としても活動していて、言葉選びもこだわりがあると思います。イメージ的には固い言葉が多いのかな?と思っていたんですが、すごくリアルというか自然な台詞だったのが印象的です。
監督:そこは気を遣いました。詩人という経歴もあるし、エッセイや小説も書いているので、どうしても文語調になりやすい。今までの映画の反省点でもありました。今回は文語的な台詞もあるんですが、朝倉さんが喋っていたから臭味なく感じられたんだと思います。朝倉さん以外のキャラクターもなるべく自然な台詞で自然な演技が出来る方をキャスティングしました。
『四月の永い夢』
──志熊を演じた三浦貴大さんも、朴訥とした雰囲気があって良かったです。
監督:三浦さんは、自然な演技に関しては右に出る人はいないと思ってキャスティングしました。何というかちょっと昭和っぽいイメージと、近所の工場で働いていそうな、リアリティから離れていない人にしたかったんです。僕が男性を描く時は実直さがテーマで、三浦さんはまさに“ミスター実直”というイメージでした。
──昭和っぽさといえば、小道具もちょっと昭和っぽさを意識したのですか?監督自身は平成生まれですよね。
監督:昭和に触れたことがないので、憧れがあるんですよね。昭和って、二・二六事件から第二次大戦、経済発展、学生運動やバブルがあって、全部昭和の出来事。この激動の時代に乗り遅れたという意識が自分の中にあって、極端なことを言うと、もっと昔に生まれたかった(笑)。実際には、ウォシュレットがなくて心折れたりしそうだけど(笑)。

昭和の価値観って、今は善し悪し問われることも多いけど、そういう転換期だからこそ、昭和の良い部分を映してみたいと思いました。でも、本当の昭和を表現する必要はなくて、朝倉さん演じる初海が、狭い美意識の中で生きているということを表現するのに、オシャレに解釈した昭和というのを、初海の心象風景として描きました。
『四月の永い夢』
──選び抜かれた小道具もそうですが、風景や朝倉さんの存在感も相まって、実写ながらアニメーションを観ているような感覚がありました。
監督:それは嬉しいですね。自分としても今後挑戦したいテーマでもあります。現実にある風景が魅力的なものだと誰もが思えているわけじゃない。アニメって、その平坦に見える風景を再解釈することに注力したんだと思います。たとえば、『耳をすませば』の舞台は僕の実家に近いけど、人工的に作られた郊外の、画一的な団地だからこそ滲み出る個性とか、 どこにでもありそうな公園にラブストーリーを作ることで、そこが異界になったり。そういうことを高畑勲監督や宮崎駿監督は意識的にやっていたんだと思います。

実写に影響を受けたアニメがそうしたように、今はアニメに影響を受けて実写を撮る時期が来ているのかなと思います。“実写 VS アニメ”という形で語られることもありますが、僕自身はたぶん初めて観た作品がジブリ作品というアニメ・ネイティブな世代なのでそう思えるのかもしれません。
──確かに情緒的な邦画作品が少なくなったというか、最近ではアニメのほうが評価されていますね。
監督:低予算映画って、現実の厳しさを描くのが多いですよね。少ない予算で何かを描こうとすると必然的にそういう戦略になると思います。現実を現実のままに撮ったら暗いことしかないですよね(笑)。それはそれで必要なことだと思うけど、そうすると同じところで映画が循環しちゃうと思うので、僕はそこから一歩抜け出した映画を作りたいと思っています。
──この作品は、日本公開より先にモスクワ映画祭で上映され、国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評家連盟特別表彰のダブル受賞を果たしました。ロシアでの感触はいかがでしたか?
監督:今の話とも繋がりますが、映画祭って作家的な作品が多いし、内向的というか暗いテーマになりがちですよね。あまり爽やかさが評価されることがない。モスクワで意外だったのは、「こういう爽やかな映画を観たかった」という反応が多かったことです。何人かの観客が言っていたんですが、今のロシアは元気がなくて、経済も苦しいし世情が暗い。すごく息苦しさを感じていると思うんです。そんな中で、こういう爽やかな作品がタイミング良く心に刺さったんじゃないかなと思います。あと、ロシア人にとって、日本=桜というイメージがあるので、観たい日本が見れたという感じなのかもしれません。
──桜と菜の花のシーンも美しかったです!あれはどこでロケをしたのですか?
監督:埼玉県の北本市です。助監督の佐近くんが何十個所と探してくれました。2年前の4月7日に撮ったんですが、その日は朝倉さんのスケジュールが午前中しか空いてなくて、そこで撮れなかったら桜前線を追いかけて北まで行く覚悟でした。でも、その日の午前中、撮影した時だけ晴れてくれたんです!初海が一人で佇んでいるシーンですが、実際は観光スポットなので人がたくさんいて、伏せていただいたりして大変でしたが、運が良かったです。
『四月の永い夢』
──もうひとつの舞台である富山も素晴らしい風景でしたね。
監督:父の実家が富山県の朝日町で、祖父母に会いによく行っていました。笹川集落という朝日町の中でも独特な場所で、美人と湧き水が多くて(笑)、一日中水の音が聞こえる気持ち良い環境なんです。ここなら、ヒロインの再生の一歩となる舞台にふさわしいんじゃないかと思いました。

あの古民家はロケハンで見つけたんですが、実際にあの家に住む方は、旦那さんを亡くされた後もずっと丁寧な生活を送っていました。人が死を乗り越える方法ってまだ発明されていないけど、丁寧に日々の生活を送ることが唯一出来る事なのかなと思いました。そういう意味でもあの場所にして良かったと思います。
──私自身は親族を亡くした経験はあっても、ごく親しい友人や恋人を亡くした経験がないので、その喪失感、悲しみとの距離感が未だ掴めません。
監督:人の死は避けられないから、ちょっと語弊がある言い方だけど、その経験を通して自分の変化を大切にするしかないというか…。亡くしたこと自体は悲しいけど、その経験を通して新しい自分に出会えると思うんです。それ自体は豊かな経験になるんじゃないかと思います。友人を亡くした後、僕自身がそれに気付いたし、僕の人生にとってはマイナスだけじゃなかった。そこまで内在化するには時間がかかるし、僕自身もまだ出来ていない部分もあるけど、そういう考え方の入り口に触れるくらいの感覚が描ければいいかなと思いました。解決しなくても良い事だとも思うんです。
──ありがとうございます。最後に、これから映画を観られる方にメッセージをお願いします。
監督:良質なアニメーションを観ているような世界観とか、ありそうでなかった作品だと思います。そして静かな話だからこそ映画館で観て欲しいです。台詞の少ない中で表現しているものがたくさんあるので、映画館という暗闇の中で、この映画に触れて欲しいと思います。

2018年5月15日
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『四月の永い夢』
2018年5月12日(土) 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://tokyonewcinema.com/works/summer-blooms/