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靴・蜘蛛・花、ピアノの連弾…それぞれに込められた意味とは?──『イノセント・ガーデン』パク・チャヌク監督インタビュー

イノセント・ガーデン

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あらゆるタブーとバイオレンスを描きながら、抒情的な美しさをもたらす作品を作り続け、全世界で高い評価を受けている韓国映画界の奇才パク・チャヌク監督。ハリウッドデビュー作となる『イノセント・ガーデン』は、18歳の誕生日に父を亡くした少女とその母親のもとに、長年行方不明になっていた叔父が突然姿を現したことから、次々と奇妙な事件が起こり始めるというサスペンス・ミステリー。本作の公開を前に、パク・チャヌク監督に直撃インタビュー!登場人物の台詞、重要なアイテムと設定、それぞれに込められた意味を伺いました。
『イノセント・ガーデン』パク・チャヌク監督インタビュー
※このインタビューはネタバレを含む場合があります。ご注意下さい

──ウェントワース・ミラーが書いた脚本を初めて読んだ時の感想を教えてください。
監督:彼の脚本は、とても余白の多いものでした。監督が自分の想像力を発揮して満たしていける要素がとても強かったんです。どういう想像力で満たしていくのかは、私の演出によって変わっていくし、他の監督が撮ったとしたら別のものに生まれ変わっていたと思うんです。こういった脚本こそ本当にやりたいと思えるようなものだという印象を持ちました。
──脚本に興味を持ったのは、主人公のインディアが監督の娘さんと同じ18歳だったからと聞きました。娘さんからインスピレーションを得たり相談したことなどありますか?
監督:特別に意見を求めたことはありませんが、今まで育ててきた中で、生意気な態度をとっていた時期などを思い出しながら反映させた部分はあります。実はこの映画のプリプロダクションの時が、ちょうど娘の休みの時期だったので、「お小遣いあげるから」と現場に呼んで、アシスタントの手伝いをしてもらいました。コピーをとるとかいった雑用ですが、私があまりに忙しい時は、ハングルで書いた脚本やストーリーボードを英語に訳したものを、一言一句チェックしてもらい、助かりました。
──撮影前にメインキャストを集めて一週間のリハーサルを行ったそうですが、そこでキャストからインスパイアされて書き加えたシーンもあるのですか?
監督:ありました。例えば、終盤でエヴィ(ニコール・キッドマン)が娘のインディア(ミア・ワシコウスカ)に対して呪いのような暴言を吐くシーンがありますが、もともとは暴言を吐いて終わりだった。しかしきっとその後、エヴィは「娘に何てことを言ってしまったんだろう」と考えるだろう、どこかで娘に愛されたいと思う母親の気持ちがあるはずだと思い、リハーサルでニコールに相談したんです。すると彼女も同意し、彼女自身が20〜30の案を出してくれました。その中で私が選んだのが、「あなたは誰なの?インディア。私を愛してくれるはずじゃなかったの?」です。あのセリフはニコールとの共同作業で母親の気持ちを表現しました。
──ハリウッドデビュー作となりますが、ハリウッドだからこそ挑戦しようと思ったことは?
監督:インディアが弾くピアノの楽曲をフィリップ・グラスさんにお願いしたことと、インターナショナル版のポスターをメアリー・エレン・マークさんが撮影してくれたことです。二人とも私にとって生きた伝説のような方なので、ご一緒出来たのはハリウッドだから可能だったと思います。

ピアノの演奏は、最初の脚本の中に「エリック・サティ風の曲」と書かれていました。しかし、インディアはやや自閉症気味なキャラクターで、彼女の部屋や服装も規則的で厳格です。当然ながら、彼女が弾くピアノもロマンティックなものではなく、何らかの繰り返しやパターン化した旋律のほうが良いと思い、「フィリップ・グラス風」と書き換えました。音楽プロデューサーに、“こんな雰囲気のものを”と要求するつもりでしたが、トライしてみようという気持ちもあって、駄目もとで言ってみたら、話が通ってしまい驚きました。
──インディアとチャーリー(マシュー・グード)のピアノの連弾シーンはとても官能的でした。フィリップ・グラスさんにはどんなオーダーをしたのですか?
監督:この映画にはふたりの肉体関係のシーンは出てきませんが、その代わりと言えるのがこのシーンなんです。ふたりの感情、心の交流、それを超えた肉体的な交流という風に感じとってもらえるような、そういうエロティシズムを見せたかった。

フィリップさんと初めてNYで会った時に、彼から「このシーンであなたが望む核心的な感情は何か?」と聞かれました。私は「セックスです」と答えたら、彼はいたずらっ子のように「だと思ったよ。いいね!変態だね!」と言い出して(笑)、ある逸話を話してくれたんです。以前、連弾のピアノの曲を作り、友人夫婦が演奏してくれた時、「こんな演奏も出来る」と、夫が妻の背中越しに手を回し、高い方の音を弾いた。その姿が情感溢れていてすごく良かったと。その話を聞いて、私もすぐに脚本を書き換え、フィリップさんにもその動きで演奏できる曲をオーダーしました。

フィリップさんへのオーダーは畏れ多いことでしたが、私も監督の仕事を全うしなければならないので、「怒られたらどうしよう…」と思いながらも細かく注文しました。最後に、その心の内を伝えましたが、「具体的な指示があってこそ監督だ。そのほうが僕も助かる」と仰っていただき、泣きそうになりました。
──チャーリーがインディアに毎年靴を贈るというのは監督のアイデアだそうですが、それに込めた狙いは何だったのでしょうか?
監督:幼い子って自分を守ってくれる“あしながおじさん”を待っているようなところがありますよね。この映画では、誰かわからないけど自分の成長を知ってくれていて、自分の足に合ったサドルシューズを毎年プレゼントとして贈ってくれる人がいる。おとぎばなしの部分を仕掛けとして入れられるし、少女の感性を表現できると思いました。チャーリーは恋人のような存在をにおわせて登場しますが、師匠のような役割も持ち、後半ではまるで騎士のようにひざまづいてインディアにハイヒールを履かせる。撮影時は、これを“戴冠式のシーン”と呼んでいましたが、インディアはここで“師匠”を超えて初めて大人になるのです。
──蜘蛛はどんな象徴として描いたのですか?
監督:元々の脚本にも出てきましたが、そこではインディアが蜘蛛を踏み殺すという設定でした。これは、インディアがどれだけ普通の子と違うのかと見せる設定でしたが、私はちょっと違う使い方をしたいと思い脚色しました。蜘蛛がインディアの足を這い、スカートの中に入る。この蜘蛛はチャーリーの象徴です。後半では“魂”のように登場する蜘蛛にも注目して欲しいです。

ちなみに、今回の助演である蜘蛛は撮影チームが探してきてくれましたが、最初はホラー映画に登場するような“ガッツリと毛がある蜘蛛”を見せられました。私が想像している蜘蛛とは違っていたので、「マシュー・グードのような蜘蛛を!」と注文しました(笑)。そこで、小柄で頭が小さく、脚の長い蜘蛛になったのです。
──冒頭のモノローグでインディアは、「花は自分の色を選べない」と言います。本作は、人間が生まれながらにして持つ「悪」を描いているのでしょうか。
監督:インディアの台詞は編集の段階で思いついたものです。ミラーの脚本では、「悪」はこの家の「血筋」であると強調されていました。私はそこを曖昧模糊としておき、観客に判断してもらおうと思いました。この台詞は、インディアの言い訳とも捉えることができます。「私は道徳観念がないわけじゃなく、そうなるように生まれてきたの」と。遺伝によるというのはチャーリーの主張でもあり、インディアにそう思わせようとしていました。しかし、もともと“白い花”として生まれたインディアは、チャーリーの影響を受け、“赤い花”に染まったのかもしれない。これは観客の判断に委ねたいと思います。
2013年5月30日
『イノセント・ガーデン』
2013年5月31日(金)TOHO シネマズ シャンテ、シネマカリテ他 全国ロードショー