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理解するのを止めて“空気感”を感じてほしい〜『スイートリトルライズ』矢崎仁司監督インタビュー

スイートリトルライズ

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女性から圧倒的な支持を受ける人気作家・江國香織の同名小説を映画化した『スイートリトルライズ』が、3月13日よりシネマライズ他全国で公開される。監督は、『ストロベリーショートケイクス』で複雑な女心を描いた矢崎仁司監督。本作で、中谷美紀と大森南朋を主演に迎え、原作の世界観そのままに、嘘と優しさが共存する夫婦の姿を繊細に演出した矢崎監督に話を伺いました。
画像:『スイートリトルライズ』矢崎仁司監督インタビュー
──江國さんの原作を読んだ時に、1人の男性として客観的にどう感じましたか?また、どのように折り合いを付けて映像にしようと思いましたか?
矢崎監督:最初に、(プロデューサーの)宮崎さんから声をかけて頂き、映画にするぞと思って読んでいたので、客観的に見る余裕はなかったですね。原作を読んで、江國さんを第一の観客にしたいなと思ったので、原作の行間にある淋しさ、孤独、そういったものを映像にしようと思っていました。
──この作品の世界観を作ってるのは絶妙なキャスティングだと思いますが、キャスティングの決め手は?
矢崎監督:僕は、映画にしたいと思った時にキャスティングのイメージをしないようにしてるんです。実現しなかった時に立て直すのが苦手なのでニュートラルにしているんですが、宮崎さんが原作に惚れ込んでいるだけあって、凄い人を連れてきてくれたなと思いましたね。夫婦の物語なのにW不倫だけをクローズアップされがちなので、俳優に“品”がないと難しいんです。中谷さんも大森さんも他の作品では拝見していましたけど、直接お会いした時に「瑠璃子だ、聡だ」と思えて、この人を映したい、と思いましたね。でも原作を読んでいて唯一、池脇さんだけは(三浦しほ役に)イメージしてしまいました。断られたら嫌だなとドキドキでした(笑)。
──池脇さんは役作りでふっくらしてきたようですが、どんどん綺麗になっていきますね。
矢崎監督:池脇さんのシーンは最初の一週間だけで撮影したんですが、一週間の中でどんどん綺麗になっていきましたね。役にはいりこむ、本当に凄い人だと思います。
──池脇さんもそうですが、脚本の狗飼さん、カメラの石井さんや照明の大坂さんなど、『ストロベリーショートケイクス』からのチームですが、どんなところが好きですか?
矢崎監督:“空気感”を映し撮ってくれるところですね。僕は、俳優さんを見ているのが僕の仕事だと思っていて、モニターも石井さんのカメラも覗いたことがないくらいなんです。
──劇中全体の“空気感”と、キャンドルやサイフォンといった温かみのあるはずの物とのバランスが素敵でしたが、そういったアイテムもこだわられたのですか?
矢崎監督:最初に美術の高橋さんに、「“死”を散りばめたい」ということと、「火を使いたい」というリクエストしたんです。そうしたら、あんなふうなアイディアが生まれてきたんです。
──監督は、演出の際に演出意図をきっちり伝えて演出するタイプですか?
矢崎監督:特に具体的には言わないですね。映画って、感情の流れで出来上がっているので、これから撮るシーンが悲しいシーンだとか、感情だけはスタッフもキャストも知っていなければと思ってます。そうすれば、その場でシナリオが変わっても問題はないと思っていて、感情の流れが少しズレているなと感じた時だけ言ってます。基本的に俳優さんは皆、本を読み込んできてくれてるので、私の仕事なんかないくらいなんですよ(笑)。
──中谷さんのセリフで、「人は守りたいものに嘘を付く」って、その通りだなと思いますが、監督は何でも正直に話すタイプですか?
矢崎監督:そうですね。ただ、お互い嘘をつかせない関係がいいなと思います。誰でも秘密はあるし、孤独と同じくらい秘密は大切ですから。
──監督は普段どんな映画を見ているんですか?
矢崎監督:ノワールが好きですね。(ジャン=ピエール)メルヴィル監督が好きで、『サムライ』とか『仁義』とかは撮影前に必ず観ますね。静かな映画が好きだから、セリフを一行削って、画や表情で見せようと考えますね。

最近はジャック・リヴェットの『パリでかくれんぼ』とか。でもアメリカ映画も見るし、アクション映画も好きですね。同世代でいうと長崎俊一監督とか石井聰亙監督のアクション映画も憧れて観ていました。
──ノワールやアクションとは意外ですね。今後撮りたいジャンルはありますか?
矢崎監督:本格的なサスペンスを撮りたいと思っています。デヴィッド・リンチ監督の言葉だったか、「世の中にある不可解のことを表現するのが芸術家の役割だ」みたいなこと言ってたと思いますが、「人って解らない」ということをもっともっと映していきたい。空気感だけで成立するサスペンスをやってみたいですね。
──監督の撮るサスペンス映画は是非観たいですね。では、最後にメッセージをお願いします。
矢崎監督:ストーリーというのは、なかなか人の記憶には届かないので、理解するのを止めて、“空気感”を感じてほしいです。忘れていた感情を呼び覚ますような空気感が届くと思います。
誰もが羨むような理想の夫婦でありながら、それぞれ別の相手に恋をしてしまったことから、嘘を積み重ねていく夫婦…。一見、ドロドロのW不倫のはずが、江國香織と矢崎監督、そしてキャスティングのすべてが調和して作り出された世界観で、どこか儚く美しいものを観た感覚に。不倫なんて絶対あり得ない!そんな思いの方も、恋人や夫婦の間に時折感じる微妙な距離感や孤独、2人で生きていくということ、など何か感じ取るものがあるはず。そんな“空気感を感じ取る”大人のためのラブストーリー。ぜひ劇場で。
2010年3月8日
『スイートリトルライズ』
2010年3月13日(土)、シネマライズ他全国ロードショー
公式サイト:http://sweet-little-lies.com