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筒井真理子は「思いっきり描くことが出来る自由なキャンバス」──『よこがお』深田晃司監督インタビュー

よこがお

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『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した深田晃司監督が、同作で毎日映画コンクール女優主演賞他数々の映画賞受賞に輝いた筒井真理子と2年ぶりに再タッグを組んだ最新作『よこがお』が、7月26日(金)より公開。本作は、訪問看護師として善良に生きてきた女性が、ある日突然理不尽な事態に巻き込まれ「無実の加害者」へと転落、築き上げたすべてが崩壊するなかで葛藤し、ふたたび歩み続けるまでを描いたヒューマンサスペンス。本作のメガホンをとった深田晃司監督にお話しを伺いました。
筒井真理子は「思いっきり描くことが出来る自由なキャンバス」──『よこがお』深田晃司監督インタビュー
──プレスによると、「自分より年上の女性を主人公にした映画を作りたい」と思ったそうですね。
監督:思い返してみると、「年上の女性を描きたい」というニュアンスがちょっと違っていて、まずは『淵に立つ』でご一緒した筒井真理子さんとまた仕事がしたいという思いがありました。ちょうどその時、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』を観て刺激を受けていて、自分もあの世代の女性を描いてみたいという思いがあって、それが合致して、筒井さんの年齢の女性の人生を描くことになりました。
──ある事件をきっかけに「無実の加害者」へと転落し人生が狂ってしまう…。誰にでも起こりえる物語ですが、このテーマの着想は?
監督:自分にとってリアルな出来事は何かって考えたとき、人間って自分の性格や資質によって人生が変わっていくことはあるんだろうけど、それ以上に、どんな人でも、自分とは直接関係のない出来事のせいで人生が変わってしまうことのほうが圧倒的に多いんじゃないかと思いました。突然、事故に遭うとか、病気になるとか天災に巻き込まれるとか、当人の意思とは関係ないことから動いてしまう人生というのが、リアルに感じられると思いました。
──“闖入者”によって物語が展開していくというのは、監督のこれまでの作品と共通していると思います。今作は人物というより、他者の好意や嫉妬になりますね。
監督:闖入者というのはよく指摘を受けるんですけど、自分ではそんなに意識していないので、きっと自分にとって描きやすい物語なんだと思います(笑)。

好意ということに関して言うと、人が人を好きになることっていかに難しいのか、それが今回の物語の核にもなっているんですけど、ただ人が人を好きになるだけなのに、その好意が相手にとっても好意と受け止められるかも分からない。みんな性格も違うし、別個の世界を生きているから、結局「人間同士って分かり合えない」というか、たいていの場合、その好意が、人と人の距離感を露呈してしまう。そういった部分を描きたいと思いました。
──監督はこれまで、古舘寛治さん(『歓待』『淵に立つ』)や仲野太賀さん(『ほとりの朔子』『淵に立つ』『海を駆ける』)など、何作か続けて同じ役者さんを起用してきました。「この役者さんの別の顔を撮りたい」というインスピレーションが沸くのですか?
監督:そうですね。被写体としてカメラを向けると、もっと違う何かが出てくる人がいます。古舘さんでいうと、『歓待』と『淵に立つ』では真逆の役柄をやってもらったんですが、そういう面白みがありますね。今回は、筒井さんという被写体を得られたからこその物語だと思います。本当に演技力がある俳優だからこそ、思いっきり描くことが出来た。すごく自由なキャンバスを与えてもらったという感じでした。
『よこがお』
──筒井さんにはどういった魅力を感じていますか?
監督:シンプルに、役者としての上手さですね。上手さといっても、俳優さんによっては、その人の経験値や手癖とか技術で演じることも多いんですけど、そういった芝居はちょっと表面的になってしまって面白みがないなと感じるんです。でも筒井さんの場合はものすごく上手いのに、たくさん準備したうえで自由に演じる。役柄に対する真摯な姿勢がすごくいいと思いました。
──筒井さんは役柄について準備されるとのことですが、今回はどんなリサーチをしたのですか?
監督:訪問看護師についてのリサーチをされていました。終末医療の看護師なので、余命幾ばくもない患者さんのもとへ一人で同行してもらい、患者さんの様子や看護の様子を観察してもらいました。あと、ある変わったアクションシーンは実際にトレーニングしてもらいました。そういった分かりやすい準備もあったんですけど、筒井さんは、自分の脚本やノートに、役柄に関することをびっしり書き込まれていたので、監督よりもずっと準備しているんだと思います(笑)。
──物語は過去と現在が同時進行しますが、撮影は順撮りで行われたのですか?
監督:ざっくりと順撮りですね。過去編を撮ってから現在編という流れでしたが、もちろん完全に順撮りは出来ないので、シーン毎に前後することもあったので、演じる側は大変だったと思います。いきなり後半から演じなければならない時は、表情や感情のボリュームを一緒に作っていきました。
『よこがお』
──共演には、市川実日子さん、池松壮亮さん、吹越満さんなど実力派が揃いました。
監督:監督としては、これだけうまい人が揃うと楽ですね(笑)。それぞれの役柄に合う人をこつこつ探していくんですけど、やはり主演の筒井さんときちんと渡り合える存在感を持っている人を探しました。市川実日子さんは、 前田司郎監督の『ジ、エクストリーム、スキヤキ』を観て、いいなと思っていました。基子という複雑なキャラクターを技術で演じるのではなく、存在で感じさせるような人がいいと思っていたので、お願いしました。

池松さんが演じる和道は、脚本の段階ではもっと薄っぺらいチャラい男で、ワケも分からず気がついたら巻き込まれ捨てられてしまうという設定だったんですけど、そうすると過去編に比べてちょっと弱くなってしまうかなと思うところもあったんです。でも、池松さんだったら脚本の枠を広げてくれるんじゃないかという期待でキャスティングしました。ご本人も、年齢詐称じゃないかってくらいに(笑)異様に落ち着いた方で、池松さんの思う和道像で演じてもらい、結果的には大人の物語に出来たので良かったと思います。
『よこがお』
──ご自身の脚本でオリジナル映画を撮る映画監督として、新しい映画を作るなかで重きを置いている部分はどんな所ですか。
監督:やはりオリジナルなものを作り続けるというか、自分に嘘をつかないで作るということだと思っています。基本的に自分が観たいもの、自分にとって面白いと思うものを作る。合作だからといってフランス人に向けて作るわけでもないし、映画祭に向けて作るわけでもない。自分が観たいもの、作りたいものを、面白いと信じて作ることで、自分の映画を観たいと思ってくれるお客さんを増やしていくことが大事だと思っています。いきなりの大ヒットは難しいし期待していないんですけど、そうやってコツコツと負けずに作り続けることで、結果として10年後や20年後に、自分の作りたい映画を作り続けていられるんじゃないかと思います。
──『淵に立つ』や『海を駆ける』に続き、今回も小説を書かれましたね。物語を書く感覚はやはり違うものですか。
監督:脚本よりもずっと大変です。映画が完成した後に書いているので、後出しジャンケンなんですけど、やはり小説は集団作業じゃないっていうのが大きいですね。映画は、キャラクターの感情を俳優と一緒に作っていく感じがあるし、ある意味、観客の想像力に委ねる部分もある。カメラに映らないものは映らないので、それをいかに観客に想像させるかという駆け引きがあります。もちろん小説にもそういう要素はあるんでしょうが、映画とは別のベクトルだと思うので、ある程度、関係性や感情を書き込んでいかないといけないです。
──映画を観た後に小説を読んむ、答え合わせをする感じも面白いですね。最後に、映画を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
監督:筒井真理子さんはじめ、どこを切り取っても上手い俳優さんしかいないという珍しい日本映画になっていると思います。是非、俳優たちに会いに来てください。


配給:KADOKAWA
2019年7月29日
『よこがお』
2019年7月26日(金)より角川シネマ有楽町、テアトル新宿他全国公開
公式サイト:http://yokogao-movie.jp