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役者が呼応し合って生まれたシーンがたくさんある──『湯を沸かすほどの熱い愛』中野量太監督インタビュー

湯を沸かすほどの熱い愛

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自主制作映画『チチを撮りに』が国内外の映画祭で絶賛された、中野量太監督の最新作『湯を沸かすほどの熱い愛』が、10月29日(土)より全国公開。本作は、銭湯を営む一家を軸に、“死にゆく母と、残される家族の愛と絆”という普遍的なテーマを、想像できない展開とラストで描いた感動作。キャストには、脚本を読み「心が沸かされた」と出演を決めた主演・宮沢りえをはじめ、注目の若手女優・杉咲花、頼りないけどなぜか憎めないお父ちゃんを演じるオダギリジョーら実力派キャストが集う。本作のメガホンをとった中野量太監督にお話を伺いました。
役者が呼応し合って生まれたシーンがたくさんある──『湯を沸かすほどの熱い愛』中野量太監督インタビュー
──前作『チチを撮りに』から4年ぶりの新作となりました。
監督:『チチを撮りに』の後すぐに脚本に取りかかったんですけど、毎回毎回ひとつの作品で全部出し切ってしまうので、なかなか脚本が進まなかったんです。書けないときは何ヶ月も机に向かうことすらできなくて、ようやく取り組んでみても、納得がいかなくて、前作を超えるものが書けなかったり。せっかく『チチを撮りに』がヒットしてチャンスを得たのに、賞味期限も切れて、このままでは皆に忘れられてしまうと思って(笑)、ギリギリで生み出したという感じですね。結局、2〜3年くらいかかりました。
──商業デビュー作となりましたが、これまでもずっと「家族」を描いていますね。今作も監督らしい家族の描き方があって、集大成のようにも感じました。
監督:新作に取り掛かるときは、その都度、最高傑作を作ってやろうと思って臨むので、ある意味集大成になっていると思います。家族がいるということは、必然的に家族を失うことでもあって、僕は子どもの頃に家族を亡くす経験をしていたので、きっとそれも僕が家族にこだわる1つの要因だと思います。家族の繋がり、遺された人間がどう生きるかっていうのは、根本的なテーマだし、常に興味を持っています。
──主人公・双葉役を宮沢りえさんにお願いしたのは?
監督:いつか一緒にお仕事をする機会があればと思っていました。双葉という役は、太陽の明るさと月の寂しさを持った人物です。同世代として宮沢さんを見てきて、今こそこの役をやるべきだ!と、勝手に強い縁を感じていました。脚本を送ったらすごく早い段階で「やります」とお返事をもらったので、正直驚きました。この縁を宮沢さんも感じてくれていたような気がして、嬉しかったです。
──双葉は、、周囲の人々を大きな愛で包む素敵な母親でした。監督の中の理想像だったり、自身の経験と重ねて作り上げたキャラクターなのでしょうか?
監督:僕は兄と二人、母子家庭で育ったので、母親に対する思いはありますが、理想像として描いたわけではないですね。でもきっと僕の母親も、自分が死ぬと分かったら、僕ら兄弟のことばかり考えるでしょうし、重なる部分もあると思います。

双葉のキャラクターは、宮沢さんと話して決めたことがありました。双葉は会う人すべてを包み込む優しさと強さと持った役柄ですが、決して聖母のような人間ではなく、ごく普通の人間で自然な思いで誰かのために生きようとしているのだと確認し合いました。
──娘・安澄を演じた杉咲花さんも素晴らしかったです。
監督:杉咲さんは、あて書きでした。数年前にテレビで見たときから、とても感度の高い女優さんだと思っていました。感情表現とかいろんなところの感度が鋭いうえに、“憂い”も持っているんです。俳優さんって、どこか寂しさとか背負っているものが見えないと魅力的じゃないと思っているんですが、彼女は普段からそういうものを持っているんですね。安澄という役柄を明確にイメージさせてくれたし、自然とあて書きになっていきました。
──二人の親子関係は、どのように演出していったのですか?
監督:絶対に家族にみえないと嫌なので、色々やりました。まずはお風呂屋さんの設定なので、銭湯の店主に教わりながら、一家皆で風呂掃除をしてもらいました。あとは食事会をして自分たちの家族について語り合ってもらったり。撮影の10日くらい前から、宮沢さんと杉咲さん、鮎子役の伊東蒼ちゃんと3人で毎日メール交換もしてもらいました。娘役二人が、宮沢さんに「今日あった出来事」を報告して、宮沢さんがそれに返信するんです。
──では実際にお芝居の掛け合いでは、あまり細かく演出する必要がなかった?
監督:そうですね。撮影前に既に家族としての関係が作れていたと思うし、そこさえしっかりしておけば、大きくズレることはないと思うんです。僕の脚本はわりと丁寧に書いているし、何を描きたいのか皆が理解してくれていたので、僕はそんなに細かく演出する必要はなかったです。もちろん、初日〜2日目ぐらいは、人物像を合わせたりしますが。
──ちなみに初日の撮影はどのシーンだったのですか?
監督:初日は病院で、双葉が告知を受けるシーンや、オダギリさん演じる一浩が先生の話を聞くシーンなどでした。スケジュールの都合でそうなったんですが、初日からいきなりシリアスなシーンだったので、特に一浩の真剣な顔から、普段の“ちゃらんぽらんなお父ちゃん”が逆算出来なくて、「大丈夫かな…」ってちょっと思いました(笑)。でも、翌日の撮影が、“ちゃらんぽらんなお父ちゃん”のシーンだったので、オダギリさんが娘に「よぅ!」って軽く言った瞬間、僕がイメージする一浩だと思って安心しました。
──鮎子役の伊東蒼ちゃんや、駿河太郎さん演じる滝本の娘など子役たちも良かったです。前作でも子役への演出が素晴らしいなと思ったんですが、どんな基準で人選、演出をしているんですか?
監督:オーディションで芝居もしてもらうんですが、子役は“作って”しまうと駄目なので、基本的にはナチュラルな子を選んで、その子自身が持っている部分を掴んで引き出すようにしています。特に鮎子役は親に捨てられた役柄だし、難しいシーンがあるんですが、伊東蒼ちゃんがもともと“ハの字眉”で鮎子っぽさがあるように見えたんです。

鮎子が、お父ちゃんに「旅行に行くんだ」って伝えるシーンも、あの子らしさが出ていると思います。本当は「ご飯だよ」って呼びに来たのに、旅行に行くのが嬉しくて、恥ずかしそうにお父ちゃんに伝えるんです。一度家に戻って、思い出したように「ご飯!」って言うのは、すごくあの子らしさが出ていて、そういうシーンが撮れた時は嬉しいですね。

駿河さんの娘役も、本当にあのまま自由な子で、オーディションの時も隣で芝居をしている子にアドバイスしていました(笑)。その自由さはそのまま撮りたいなと思ったし、それが映っていると思います。駿河さんともずっと一緒にいてもらったので、朝、現場に来たら「パパー」って駆け寄るくらい仲良くなっていました。
──はじめに家族の関係を作っていると、現場では予想外の化学反応が生まれることもあるでしょうね。
監督:たくさんありました。芝居って本当に一人でやるものじゃなくて、役者同士が呼応し合って生まれてくるものだと思います。例えば、登校拒否した安澄に双葉が「学校に行きなさい」って言うシーン。「お母ちゃん、分かってない!」「分かってる!」「分かってない!」「分かってる!」って二人が言い合いますが、僕の脚本より一回多いんですよ。最後の一回を強く言うのも、脚本には書いていなかったので、呼応し合って生まれたものなんです。

拓海(松坂桃李)君との駐車場での別れのシーンでも、トイレに行く娘二人に「走ると滑るよ!」って双葉が言うんですが、あれも宮沢さんのアドリブで、それに対して娘二人が同時に「は〜い」って言ったんです、脚本には書いてないのに。そういう反応がちょこちょこあったので、面白かったですね。後半の、車中の安澄が双葉から“真実”を聞かされるシーンも、撮っていてシビれました。改めて、俳優って凄いなって思いました。
──双葉には、1つだけ叶わなかった願いがありましたね。
監督:双葉はそれまでずっと誰かのために行動していたけど、あそこで初めて自分のわがままを言わせたかったんです。でも、現実はそんなに甘くない。厳しい現実だけど、僕はあそこをハッピーには出来なかったし、だからこそ、家族が「お母ちゃんを絶対に一人にしない」って決心して、最後の行動に繋がるんです。双葉のわがままが叶っていたら、あのラストシーンはなかったと思います。
──最後に、本作を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
監督:家族愛や人と人との繋がりを描いていて、王道なテーマですが、見たこともないような衝撃的なラストも用意しています。子供の目線、親からの目線、誰の目線でも観れるような作品になっているし、視点によって捉え方が変わってくると思います。親子で観た後、話し合ったりすると面白いと思うので、是非色んな世代の方に観てもらいたいなと思います。
2016年11月1日
『湯を沸かすほどの熱い愛』
2016年10月29日(土)新宿バルト9他全国ロードショー
公式サイト:http://atsui-ai.com