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敬愛、夫婦愛、命の尊さ…今の時代にもきっと繋がる──『柘榴坂の仇討』若松節朗監督インタビュー

柘榴坂の仇討

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作家・浅田次郎が2004年に発表した短編集「五郎治殿御始末」に所収された一編を、中井貴一・阿部寛共演で映画化した『柘榴坂の仇討』。本作は、桜田門外の変で主君・井伊直弼を失い、敵を探し続ける男と、大老暗殺後、身を隠し俥引きとして孤独に生きる男の運命と、彼らを支える女たちの姿を描いたドラマ。本作の公開を前に、メガホンをとった若松節朗監督にお話を伺いました。
敬愛、夫婦愛、許し、命…今の時代にもきっと繋がる──『柘榴坂の仇討』若松節朗監督インタビュー
──原作は浅田次郎さんの短編ですが、どんなところに魅力を感じましたか?
監督:主人公の金吾という男の生き様が、自分にはない世界観で憧れましたね。計算もなく、名誉もお金も関係なく、大好きな殿様のために命を賭けるって、すごいなと思いました。純粋ですよね。浅田次郎さんの作品ですし、是非やってみたいと思いました。
──原作は、朝起きて髭を沿って秋元邸に行き…という短いエピソードですね。2時間の物語にするうえで気を遣ったのは?
監督:最初のシナリオは、ひたむきに生きる男の話がメインでしたが、武士が誇りを貫く覚悟をするには、支えになってくれる人がいるわけで、そこにはきっと犠牲がある。それが女たちなので、映画ではそこを足したいなと思い、金吾の妻・セツのシーンを膨らませました。あと、町中で、武士をやめた人たちが助太刀するシーンですね。ちょっとした笑いもあるんですが、時代が変わって、皆、武士を捨てているけど、武士の魂は捨てていないという部分も描きたかった。試写室では拍手する人もいましたよ(笑)。
──監督自身は、時代劇は初めてとなりますね。
監督:初めてですが、最初にシナリオを読んだときに「時代劇」という感覚はなかったですね。主人公は髷ですが、時代が明治に変わるせいか、散切り頭や洋服・鞄・靴の人もいっぱい登場します。それよりも、ひたむきに生きている男の素晴らしさ、情愛、義と情が裏合わせになっていて、時代劇と言うよりは人間の生き方を描きました。一方で、昔の日本人が持っていた武士道という美学はもちろん、細かい所作はちゃんと描きました。
──キャスティングはどのように?
監督:金吾役の中井さんは最初に決まっていて、その仇役・直吉には色んなイメージがあったんですけど、阿部さんは“新しさ”が出せるかなと思ったんです。舞台は江戸から明治に変わる時代で、阿部さんは明治の匂いというか、新しい時代の匂いが感じられたんですね。2人とも立ち姿がすごく格好いいですし、侍って良いなと思わせる佇まいを持っていると思います。
──人間国宝の中村吉右衛門さんも19年ぶりに映画出演となりました。
監督:井伊直弼という人物は「安政の大獄」のイメージから悪人のように描かれることが多いんです。今回は人間的な大老を吉右衛門さんに演じてもらいました。
──物語は、金吾の掃部様(井伊直弼)に対する思いが全編を貫きますが、2人のシーンは最初のほうで少ししか描かれないですよね。僅かなシーンで信頼関係を出すのにどんな工夫をされましたか?
監督:まずあの時代に、家来は主君の顔を拝顔してはいけないという決まりがあるんですが、今回はそういうわけにはいかないので、初めて金吾が掃部様に会うとき、すごく嬉しそうにしたり、ちゃんと目を合わせるようにしています。桜田門で事件が起きる朝も、雪の中で掃部様が敷台に立ち「ご苦労」と言うんですが、あれば吉右衛門さんのアイデアです。本当はセリフがなかったんですけど、吉右衛門さんが「ご苦労って言いたくなった」と言うんですね。皆に対して言っているけど、ちゃんと金吾の目を見て言うんです。そういったところで、2人の心が通いあった感じが出せたと思います。
──広末さんは時代劇初挑戦となりましたが、金吾の妻としての佇まいが素晴らしかったです。どのように演出しましたか?
『柘榴坂の仇討』
監督:金吾がセツに離縁を迫るシーンの目線とか、刀の渡し方、傘の持ち方、食事のシーンなど、所作は細かくお願いしました。セツは酌婦をしながら金吾との生活を支えていますが、それまできっと色んなものを売っただろうけど、紋付きの羽織だけは“その日”のためにとっておいたんですね。こういう夫婦の関係性って良いよねと思うし、セツのような女性が妻なら、男は頑張れますよね(笑)。広末さんも時代劇にすごくハマっていたと思うし、別れの朝や再会のシーンなど、セツのシーンは大好きです。武士が手を繋ぐというのも有り得ない話ですが、お客さんサービスです(笑)。映画館から出た時に、良い気持ちになれると思います。
『柘榴坂の仇討』『柘榴坂の仇討』
──金吾と直吉が新橋で再会し、柘榴坂へ向かうシーンの緊迫感は凄まじいものがありました。
監督:新橋の駅前で、まず武士が武士の俥に乗るという無礼があり、その後、刀を持った金吾の存在を感じながら俥を引く直吉。このシーンはサスペンスとして撮りました。いつ斬られるかわからない緊張感のなかで、直吉はその名前の由来、死にきれなかった場所、両親を亡くし、嫁もとらず過ごしてきたことを話し、金吾は彼が自分と同じように13年を過ごしてきたことを知るんです。
──“善人であってはならない”はずの仇の思いを知るんですね。中井さんの表情がすごく良かったです。
監督:そもそも何故、直吉が“目立つ職業”である車夫をやっていたか考えて欲しいんですが、彼は金吾に探し出して欲しかったんですね。斬られると分かっていても、自分の思いを伝えたかった。こういうところがこの映画の精神を支えているところ。格好いいんですよね。ここは私もすごく好きなシーンです。
『柘榴坂の仇討』
──2人が決着をつけるシーンでは、物語を象徴する、雪の中の椿がとても印象的でした。
監督:冬に色のつく花ってそんなにないですけど、寒椿は雪の中で真っ赤に咲くんですね。ひたむきに生きるという気持ちの象徴なんですが、さらには、時代が新しくなる時は必ず血が流れるものなんですよね。それをあの寒椿の色に見立てているんです。

映画の中では雪もそれぞれ工夫しているんです。桜田門外では、背景がみえないような激しい闘いの雪。金吾と妻の別れのシーンは切なくハラハラと降る雪、柘榴坂の雪なども使い分けています。

何だか…静かだけど、ちょっといい映画ですよね(笑)。
──とんでもない!すごく良い映画です(笑)。
監督:ありがとうございます(笑)。若い人もこういう映画を見て欲しいですね。中井さんと阿部さんがもの凄く良い芝居をしてますし、武士の誇りや覚悟ももちろんですが、目上の人に対する敬愛、夫婦愛、友情、許し、命を大切にするとか、ひたむきさが脈絡と繋がっているんです。高嶋政宏さん演じる内藤も、セツのために武士を捨てろと金吾に言いながら、彼の矜持を成就させようと動く。藤竜也さん演じる秋元も、ひたむきに生きろと言いながら十兵衛の居所を教える。そういった彼らの“情”も見て欲しいです。

時代劇ではあるけど、今の時代にもぴったりハマると思います。仇討ちというタイトルはサスペンス感があるけど、情愛の映画だと思っています。
2014年9月22日
『柘榴坂の仇討』
2014年9月20日(土)より全国ロードショー
公式サイト:http://zakurozaka.com/