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映画の面白さと歴史の重要さを議論して欲しい──『日本のいちばん長い日』原田眞人監督インタビュー

日本のいちばん長い日

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太平洋戦争末期、日本降伏の決定から、8月15日の玉音放送に至るまで、その終戦の舞台裏では何が行われていたのか。総理大臣・鈴木貫太郎、陸軍大臣・阿南惟幾、そして昭和天皇を軸に、日本が破滅へと向かう中、平和への礎を築くために苦悩し、身を挺した人々の姿を描いた映画『日本のいちばん長い日』が、8月8日(土)より公開。昭和史の大家・半藤一利の傑作ノンフィクションをもとにメガホンをとったのは、『クライマーズ・ハイ』『わが母の記』の原田眞人監督。映画の公開を前に、製作までの経緯、本作に込めた想いを伺いました。
映画の面白さと歴史の重要さを議論して欲しい──『日本のいちばん長い日』原田眞人監督インタビュー
──半藤一利さんの原作は、過去に岡本喜八監督によって映画化されました。今、改めて映画化しようと考えたのは?
監督:若い頃から岡本喜八監督のファンで、『日本のいちばん長い日』は18歳の時に見たんですけど、あれは不完全な映画だったと思うんです。事件を描いただけで人物が描かれていなかった。三船敏郎さんが演じた阿南惟幾陸軍大臣については、切腹の時の心情が描かれていないと思ったし、昭和天皇を真っ正面から描けなかった時代なのでしょうがないんですが、これは誰かがいつか作らなければいけない!とずっと考えていました。

僕自身はもっと早くやりたかったけど、受け入れ側がなかったのですぐには実現しませんでした。でも、昭和天皇が前面に出て描ける時代が来たならばいつでも…とは思っていましたね。21世紀になって昭和天皇の戦争責任が問われはじめ、2001年にハーバート・ビックス(著)の「昭和天皇」が出た。その頃から昭和天皇に関して、色んな角度で描いてもいいんじゃないかっていう風潮が生まれたと思うんですね。そんな中で、アレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』('06 イッセー尾形主演)という作品で初めて昭和天皇が主人公として描かれた。でもあの作品は形態模写に徹していたと思うし、「あ、そう」という口癖も当時はなかったと思うんです。僕はすごく不快に思っていて、リスペクトなく描いて良いのか!これはもう自分が作らなければいけない!と、より一層思いました。

その後、関係資料を読んでいくと、日本のいちばん長い日、宮城事件、天皇陛下の聖断を描くには、鈴木貫太郎が首相に就任した時に遡って、その4ヶ月を描かなければならないだろうと思いました。だから半藤さんの「日本のいちばん長い日」もそうですが、むしろ「聖断 昭和天皇と鈴木貫太郎」のほうを中心にしました。

タイトルは、「聖断」ではちょっと弱くて、『日本のいちばん長い日』は思い入れのあるタイトルだし、『JAPAN'S LONGEST DAY』として海外で知られている。それとは違った意味で、英題を『THE EMPEROR IN AUGUST』にしました。

他にも、「一死、大罪を謝す」(角田 房子/著)も関係者にインタビューして入念に調べられていたので、随分参考にしましたね。正確にはわからないけど、全部で50冊以上は参考にしたと思います。
──昭和天皇・鈴木貫太郎首相・阿南惟幾陸軍大臣の3名が軸ですが、関係する登場人物も、また終戦間際の出来事も非常に多い中で、どのように取捨選択して描いたのでしょうか。
監督:当時の国民生活を知るために「昭和二十年」シリーズ(鳥居民/著)を読みましたが、東京大空襲など本当は映像化したかったけど、予算の関係もあるし、話が拡散してしまうんですね。焼夷弾に関しては最近の映画の中でちゃんと描いたのはなかったと思います。本当に砂が振ってくるような音がしたとか、屋根を突き破って振ってくるとか、丹念にやるともっと怖い映画にもなるんですが、国民生活に関してはギリギリ入れられました。

あとは原爆ですね。広島でキャンペーンをやったけど、広島の人にとっては、映画の中で原爆が簡単に素通りされてしまったという印象があると思います。でも、描くならばちゃんと描きたいと思っているし、むしろ原爆投下に至るポツダムでのトルーマンの決断や、原爆投下は人道に反すると反対したヘンリー・スティムソン陸軍長官など、違った切り口でも描きたいと思う。でも、ポツダムに行ってちゃんとした役者を使ってやらなきゃいけないし、妥協したくないんですよね。原爆についてはドキュメンタリーや映画が沢山ありますから、あとは皆さんが想像するなり勉強するなりして欲しいと思って割愛させてもらいました。

この映画は、鈴木貫太郎と阿南惟幾と昭和天皇、この3人がどんな連係プレーで聖断まで持っていったのかがメインテーマだから、中途半端な寄り道は出来ませんでした。
──映画を観て、この3人じゃなければ終戦は叶わなかったのかもしれないと思いました。
監督:出来なかったと思いますよ。開戦の時にこのメンツがいなかったから開戦したのだと思います。

この3人は、映画の主人公にふさわしい人物なんです。特に阿南さん。彼自身は“行け行けドンドン”な人だし、次男は戦死していて、兵隊たちは彼が作り上げたモンスターのようなもの。やはり最後まで戦いたいと思いながらも、天皇の聖断もある。映画の主人公に必要なアンビバレントを抱えているんですね。魂の相克の中で、最初から行く道は決まっているけども、危険な道を綱渡りをしている。それは貫太郎さんにも昭和天皇にもあった。

あと、人物としては、木戸幸一が内大臣として、戦局が悪くなると昭和天皇に情報を与えないようにして、雲の上の人にしたんです。重臣ですら天皇に会わせないようにした。1945年2月から徐々に和平工作に動き出したけど、若槻禮次郞にしても岡田啓介にしても近衛文麿にしても、誰一人、ここで(戦争を)やめようと強く言った人はいなかった。

近衛文麿は特に、いい加減な男というか(笑)、よく「煮え切らない、頭がいいが病的に臆病」と評される人物で、陰謀家ではないと思うけど、状況に応じて火が付いちゃうと一生懸命に動いちゃって、ダメだと思うとすぐ退いちゃう。逃げちゃうんですよね。実際のところ、昭和天皇は彼を信頼していなかったと思うし、開戦の時に内閣を放り出しておいて、3年数ヶ月ぶりに上奏して「和平を」と言ったって…。左寄りの人たちはそういう言葉尻を取り上げて、天皇の戦争責任を追及するけど、僕はそこに怒りを覚えますね。最後の14・15日も彼は彼で動いているけど、そこだけピックアップすると、リベラルな和平論者になってしまう。人物としてはすごく面白いキャラだけど、映画の主役にはふさわしくないし、2時間16分の映画の脇役としては使えない(笑)。色々考えたあげく、半藤さんにも言って、今回は近衛さんを一切省きました。

この映画にはそういった前説が色々あるけど、右寄りと左寄りで見方が全然違うし、僕自身は思想的に偏っているわけじゃないけど、昭和天皇と終戦に関しては、イデオロギー重視で真実を歪める輩には怒りをおぼえます
──日本映画としては、初めて昭和天皇を真っ正面から捉えた映画となりました。描くうえではどんな苦心がありましたか?
監督:本木さんに昭和天皇を演じてもらうことになって、その時彼はロンドンにいたのでメールでやりとりしました。真似をするのかどうか聞かれたので、本木雅弘という役者の品格を出したいと伝えました。

ただ、玉音放送に関しては、スピーチをそのまま再現するので、本木さんに実際のテープを聴いてもらって、「間」とか声が裏返る部分もそのまま忠実に再現しました。私生活や御前会議のシーンも、真似ではなく我々が作り上げる1つのキャラクターとしての昭和天皇にしました。真似をすると品格が置き去りにされてしまうので、とにかく気品を大事にしました。
──侍従との会話なども人間としての昭和天皇が丁寧に描かれていました。
監督:昭和天皇に関する書籍も沢山読みましたが、やはり現場で実際に動いてみないと分からない。例えば食卓を囲む天皇と皇后。天皇は20歳の頃にイギリスやスコットランドを歴訪しているから、英国風の長いテーブルの両端に天皇と皇后が座っているイメージだったんですが、侍従によると「それはない」と(笑)。天皇と皇后は非常に仲が良くて、よく手を繋いでいたというんです。食事の時も絶対に並んでたはずというので、そのように描きました。現場でリハーサルする時に初めて聞くことも多かったですね。最初の御学問所のシーンも、何処でどのようにスリッパを脱ぐとか、誰も知らないわけですから、細かいところは事実の再現ではなく、侍従の方に確認しながら、この映画にふさわしい動き、導線、マナーで統一しました。
──途中、東条英機陸軍大将とのシーンも印象深かったです。唯一強めの口調になりますね。
監督:実際に、東条さんはあの日あの言い方で登場したんですが、それに対して天皇がどう答えたのかは記録に残っていないんです。だけど事実、東条さんはその後、矛を収めたので、よほどのことがあったのだろうと思います。

「サザエの殻」エピソードについては、“僕が愛する昭和天皇”としては、東条さんにこういう風に切り返して欲しいという思いがあってあのセリフを入れました(笑)。ただし、ナポレオンに関する歴史観は、実際に昭和天皇が別の所で言っていたので、あのシーンに入れました。おそらく、事実から遠くないんじゃないかと思います。

あと、誰かが上奏に来た時は、必ず立って上奏するので、昭和天皇も最後まで立っているんです。坐ることは絶対にないと。しかしあのシーンでは一旦坐らせました。一応、侍従に断りましたが(笑)、前代未聞の事だそうです。これによって東条は「はっ」として「そこまで怒っているのか」と恐縮する。観客にとっては言葉だけでも十分わかると思いますが、言葉以上に態度が語っているんです。
──クーデターを起こす青年将校たちも、松坂桃李さんをはじめ、いい顔が揃っていました。
監督:喜八版で黒沢年男さんが演じた畑中少佐はオーバーアクトだと思うんですが、実際の畑中少佐は純朴さが愛されていた青年なんです。なので、ナチュラルな芝居ができる純真な青年をイメージしました。キャスティングは、いくつか候補があったけど、かなり早い段階で桃李の名前が出ました。原田組にも参加したがっていたし、丸坊主もOKというので、何の問題もなく桃李に決めました。

決起する若手将校は、畑中・井田・椎崎の3人をベースに考えていました。喜八版で言うと、黒沢年雄・高橋悦司・中丸忠雄ですね。18歳の時に喜八版を見て、何で坊主じゃないんだろうって疑問に思いましたが、唯一格好いいなと思ったのが、高橋悦司が演じた井田中佐でした。

畑中少佐はスター俳優の桃李で、井田中佐と椎崎中佐には無名の新人、実力はあるけどまだ名前が知られていない良い役者を使いたいと思っていました。昔、ロベール・ブレッソンがアマチュアを使って映画を撮り、心理的な発見を与えたようなことをこの映画でやりたいと思ったんです。スターの魅力もそうだけど、映画ってお客さんにとっての発見があるからこそ面白いと思うんです。

椎崎中佐を演じた田島俊弥君は、青年座のステージで見ていて、良いなと思っていました。坊主にしたらあの当時いたような軍人の顔をしていましたよね。井田中佐は、俳優座や文学座、青年座など片っ端からホームページの写真をチェックして、端正な顔立ちを探して候補にあげました。30人ぐらいグループに分けてワークショップをやって、その中で一番良かったのが大場泰正君でしたね。彼らは舞台役者なのでアマチュアではないけど、とても良かったと思います。感謝しています。
──最後に、これから観る方、特に若い方に向けてメッセージをお願いします。
監督:今、日本の政治がおかしな方向に動いていて、この間の安保法案の強行採決もそうだけど、民意を無視して進んでいます。ひょっとしたら危険な道に行って、憲法を変える動きが出てきちゃうかもしれないし、日本が戦争に巻き込まれるかもしれない。選挙権も18歳まで落ちてくるなかで、若い人たちは絶対的に歴史を勉強して、我々はどこから来て何処へ行くのか頭に入れておかなければいけないと思います。

それとは別にしても、映画として面白いわけだから、『ミッション:インポッシブル』や『ジュラシック・ワールド』、『進撃の巨人』を観て、「夏は終わりだー」って言ってたら、あまりに寂しい(笑)。日本は滅びちゃうよ!映画の面白さと歴史の重要さを考えて、やはり『日本のいちばん長い日』を観て、同世代や戦争体験者の声を聞きながら色々議論して、日本の未来をちゃんといい方向に導いてもらいたいですね。
2015年8月5日
『日本のいちばん長い日』
2015年8月8日(土)全国ロードショー
公式サイト:http://nihon-ichi.jp