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このスケールで完成した映画は、是非観たい(笑)──『人類資金』福井晴敏・阪本順治監督インタビュー

人類資金

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戦時中、日本軍が秘匿したとされる財宝、通称「M資金」を題材に描いたサスペンス大作『人類資金』。国際的なマネーゲームや騙し合い、人間の果てしない欲望と、人間の尊厳を守ろうとするものたちの闘いをスリリングに描き出した本作、原作・脚本・監督は『亡国のイージス』の福井晴敏・阪本順治コンビ。世界を股にかけた壮大なスケールと、日本映画界を代表する豪華なキャスト、そして映画公開に向けて原作小説が月刊で全七巻が世に出るのも大きな話題に。10月19日(土)の公開を前に、福井氏と阪本監督にインタビュー。映画『人類資金』誕生から完成までの軌跡を伺った。
このスケールで完成した映画は、是非観たい(笑)──『人類資金』福井晴敏・阪本順治監督インタビュー
──国防問題を扱った『亡国のイージス』に続くタッグ作となりますが、「経済」をテーマに据えたのは?
福井: 元々は「経済」と言うよりも、実際に詐欺事件まで起きていた「M資金」に阪本さんが興味を持っていて、酒飲み話ぐらいの気軽さで「M資金を題材にした映画を撮りたい」と言われたのがきっかけでした。でも、今となってはM資金を知らない人も多いので、この謎を解くことにフィックスした映画だと現代と話が繋げられないので、難しいなとは思っていました。ちょうどその時、リーマンショックが起こり、うまいこと金融マネー経済の異常性とM資金の介入といった、両者を繋げるプロットが自然に出てきました。
──監督自身が経済に興味があったのですか?
監督: いやいや全然(笑)。「M資金」を題材に、「現代劇」で主役は「佐藤浩市」と、この3つだけ言って、福井さんにおまかせしました。
──脚本・小説ともに、主人公の真舟は佐藤さんを想定していた?
監督: 僕が「M資金」の映画をやる時は、佐藤さんがいて欲しいと思っていました。
福井: 脚本では、俺の中の「想像上の佐藤浩市」をフル動員して書きました。それを監督に見せると、佐藤さんとは長いつきあいですから、「こうは言わないな」と返ってくるので、なるほど…と思いながら書き直していきましたね。
──小説と脚本を同時に進めるのは難しいものですか?
福井: 小説は小説で、一番最初に出したプロットの通り着々と進めて、脚本は阪本さんと共同作業なので、全然違う脳味噌でやるんですね。でも一つのプロットから二つ筋を作るのは初めての経験だったので、それはとても面白くて勉強になりました。
監督: 希有なパターンでしたね。原作が先にあって佐藤浩市がこれを読んでいたなら、映画では描かれない、自分の役柄のバックグラウンドを想像して役作りに入れたと思うんですけど、時にはそういうのが邪魔になることもあるんです。
福井: 違う脳味噌でやっていても、映画と小説がパキッと別れるのではなく、阪本さんが書いた台詞が小説のほうに逆輸入されている部分もあるので、本当にうまいコラボレーションになったと思います。
──映像化が前提だど、表現に制限がかかることもありませんか?
福井: 確かにありますね。でも、俺はこれでも遠慮したつもりなんですけど、阪本さんは最初に見た時、「本当に映画化前提ってことを分かってんのか」と思ったらしいです(笑)。
監督: そりゃそうですよ(笑)。プロットを見て、ロシア、ニューヨーク…、国連???って(笑)。ただ、全く想像もつかないような仮説に感動し、世界的規模にしないとこの話は通じないんだと即座に分かりましたね。それに、このスケールで撮影されて出来上がった映画が楽しみで、是非観たい!と(笑)。資金がなかったけど(笑)。
福井: 誰か作ってくれないかな…ぐらいに(笑)。
監督: アニメなら可能かな?と思うくらいだった。
──結局、自らの手で撮影を敢行することになりましたが、経済というテーマに壮大なスケールと豪華なキャスト…、これまで何本も映画を撮られていますが、まだプレッシャーや不安を感じることもあるんですか?
監督: まぁ、今回で22本目ですが、いつも“怯え”は失ってないですよ。でも、それをスリルと感じる体になっちゃっているわけです。今の世にこの作品を投げかけ、観客はどう受け取るのか。非常に大胆でスリリングで楽しみだけど、これを1本のエンターテイメントとして仕上げるのには、今までの自分の手練手管を総動員しても無理かも…と思うこともありました。
経済については、自分なりに「初めての人にも分かる金融用語辞典」みたいなのから読み始め猛勉強しました。いつの世もそうだと思いますが、自分たちは知らさせていないことがたくさんあって、騙されているとまでは言わないけど、きれい事を言う施政者にコントロールされている気分ってありますよね。福井さんのプロットを読んだときに、なるほどそういう事だったのかとか気づくことが多かったです。これを自分の映画として作るわけだし、実感の伴わない台詞を役者に言わせるわけにはいきませんから、経済用語を覚えると言うよりは、何が起きているのか自分の中で解釈してから演出するという、今までと全く違う映画作りではありました。
福井: この業界で経済に詳しい人ってあまりいないわけで、言ってみればお互い経済音痴からスタートしてるんです。そういう意味ではいつもの手管が通じず、何が正解なんだろうって相当話し合っていきました。
──私も経済の知識は皆無なので、恐る恐る…という感じで映画を観ましたが、不確かなものの上に成り立っている豊かさ、先進国である日本にいる私たちが、まだ目を向けていない“大きな可能性”といったシンプルで力強いメッセージが伝わってきました。
福井: そう受け取って頂けるとありがたいです。
監督: 「金融・経済」そのものの映画ではないんですけど、どうしてもそこに触れないと、今仰っていた感想に届かないんです。
──キャスティングについて伺います。佐藤浩市さんは当て書きとのことですが、“M”というミステリアスな役柄に香取慎吾さんを起用したのは?
監督: 福井さんと、資金も集まってない頃から自由にキャスティングしていたので、脚本は当て書きに近かったですね。
福井: 本当にその人達が呼べる保証は何もない状態でした。
監督: 楽しい時間だったね(笑)。「スケジュールが合うわけないよ!」と思いながら自由に名前を挙げました。慎吾とは『座頭市』でも一緒でしたが、彼の“素の姿”と接する中で決めました。テレビでは太陽のような存在ですけど、その一方で月のような存在でもある。どちらかというと、そっち(月)の部分を期待しました。“M”がやろうとしていること、普段、慎吾の中にある弱者への視点をも知っていたので。それに、“謎の男”をキャスティングするのはなかなか難しいもので、私生活もバレバレの若い役者が演じるのは無理なんです。
福井: あれだけ露出しているのに、プライベートが見えない。他の役者さんでは考えられないですね。“M”は、最初は佐藤さんと同年齢と設定していたんですが、『座頭市』を撮り終えた阪本さんが、「“M”は慎吾が良いと思うんだ」と仰ったので、小説もその設定に変更しました。“M”を30代半ばにすると、森山未來・香取慎吾・佐藤浩市という年齢のアンサンブルも綺麗になったので、全世代に対するアピールが出来ると思いました。
──森山未來さんはアクションも多いうえに、ロシア語・英語・タイ語での演技となりました。クライマックスでは長い英語でのスピーチもあります。
監督: 日本語だけじゃ済まされない映画なので、俳優さんは役作り以前に言語の不安を払拭しない限り、役の解釈にも届かないわけです。でも、それを成し遂げる人をキャスティングしています。クライマックスのスピーチは、昨年5月のクランクインの時に撮りましたが、彼はそれ以前に全くこの役柄を演じていないし、僕も演出してないので、難しかったと思います。映画って順撮りが良いんでしょうけど、クライマックスを最初に演じることで自分の役柄を逆算することも出来るんです。
──希望を見いだすラストシーンではありますが、エンドロール後、さらなる問題提起が…。
監督: 本来は、“M”が仕掛けようとしたことが波及していく未来を期待する結末です。ただ、どうしても僕の場合、希望で終わりかけると絶望を持っていきたくなるので(笑)、ラストでハロルドが放った言葉とともに、一抹の不安を読後感として与えるために構成して入れました。映画だけの独断なので、その前に席を立った人は知らなくても良い、余韻程度に収めたつもりです。
──最後に、これから観る方に向けてメッセージをお願いします。
福井: 先日、この映画は70〜80年代の山崎豊子さんの原作や、角川映画に近いルックスだと言われて嬉しかったんですが、確かに邦画が衰退したどん底の中で、春樹さん独特のパワーで作られていったタイプに近いかもしれません。今となっては、なかなか取っつきにくい印象を受ける方も多いと思いますが、今回、我々としては大作感がありつつ、現実と向かい合う部分をきちっとやろうと思って作ったので、観てくださる方にも伝わると思います。今の半径5メートルぐらいのことしか描けなくなった邦画や小説に対してのアンチテーゼになれば…とも思っているので、是非ご覧になってください。
2013年10月16日
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『人類資金』
2013年10月19日(土)より、全国ロードショー
公式サイト:http://www.jinrui-shikin.jp/