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『暴走機関車』A・コンチャロフスキー監督、新作映画PRで来日 黒澤明監督との秘話を語る

パラダイス(原題)

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ロシアの芸術・文化を海外へ発信するプロジェクト「ロシアの季節」の一環で、ロシア映画『パラダイス(原題)』がプレミア上映され、アンドレイ・コンチャロフスキー監督、主演女優のユリヤ・ヴィソツカヤが来日し舞台挨拶に登壇した。
『暴走機関車』A・コンチャロフスキー監督、新作映画PRで来日 黒澤明監督との秘話を語る

映画『パラダイス』は、第73回ヴェネチア国際映画祭にて銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞したほか世界中の映画祭で12の賞に輝き、13部門にノミネートされた注目作。舞台は第二次世界大戦下のフランスとドイツ。ナチスによるユダヤ人襲撃から子供たちを匿った罪で捕まるロシア人、ナチス占領下の刑務所で働くフランス人、ナチス親衛隊兵としてユダヤ人の大量虐殺任務に就くドイツ人、立場の違う3人の男女それぞれの視点で描かれ、やがて物語が交差していく。監督は、ロシアを代表する監督アンドレイ・コンチャロフスキー。黒澤明監督が執筆した脚本を元に製作した『暴走機関車』(85)は、ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞しており、日本にゆかりの深い監督だ。

6月5日(月)、ロシアの芸術・文化を海外へ発信するプロジェクト「ロシアンシーズンズ ジャパン2017」の一環で本作がプレミア上映会され、当日は、監督を務めたアンドレイ・コンチャロフスキーと、主演であり監督の妻でもあるユリヤ・ヴィソツカヤが舞台挨拶に登壇した。

コンチャロフスキー監督は、始めに「皆様にお目にかかれたこと、東京にいられる事をとても嬉しく思っています。「ロシアの季節」というプロジェクトの中で、私の映画作品をご覧いただけるという事は、私自身にとってもとても光栄なことです」と、日本で自身の作品が上映される事の喜びを述べ、「今は政治的にとても複雑な時代ですが、芸術の分野が何かお互いを理解できる架け橋となれたらと思っています。私にとって日本文化は非常に近しいものです。私の祖父は画家だったんですが、その影響で小さいころから葛飾北斎や歌川広重などの浮世絵に親しんでいました」と日本好きをアピールした。

続けて、主演で監督の妻でもあるユリヤ・ヴィソツカヤは、「私は東京に来ることをずっと夢見ていました。初の来日が、この『パラダイス』のプレミア上映会である事をとても嬉しく思っています。この度はお招きいただきありがとうございます」と初来日の喜びと共に挨拶。また監督は、日本とロシアの国交について言及し、「私は、映画の他に、演劇やオペラも手掛けています。来年は日本におけるロシア年。ロシアにおける日本年という記念すべき年であり、その年に、チェーホフの三部作を日本で公演できたらと考えています。チェーホフの三部作では、私の妻でもあるユリヤも演じてくれると思っています」と、演劇においても日本での公演に意欲を示した。

『暴走機関車』A・コンチャロフスキー監督、新作映画PRで来日 黒澤明監督との秘話を語る

今作『パラダイス』制作のきっかけについて聞かれると、「映画監督には2つのタイプがあると思います。1つは長編映画を撮るようなタイプの監督、もう1つは、演劇もやりながら映画を撮る監督。そういう監督は、コメディも、悲劇も、ドラマも撮ります。日本には偉大な黒澤明監督がいますが、黒澤さんは、コメディあり、悲劇ありの様々なジャンルを手掛けていました」と、日本の巨匠黒澤監督を引き合いに出し、「黒澤監督が『デルス・ウザーラ』を編集されていた時にお目にかかったことがあるんですが、しょっちゅう廊下に出られて煙草を吸っていたことを覚えています。私はその黒澤監督のそばをネズミのようにつま先立ちでひっそりひっそりと歩いていました。それから14年後に、フランシス・フォード・コッポラ監督から黒澤監督のシナリオを基に映画を撮ってみないかと提案をもらったとき、座っていた椅子から転げ落ちそうになりました」と、黒澤監督とのエピソードを披露。

「以来、黒澤監督と色々とお話するようになりまして、監督は非常に図を描いて説明するのがお好きな人でした。『暴走機関車』という映画なんですが、車両はこうすべき、ああすべきだといつもアドバイスをくれました。また、黒澤監督は自らお寿司を握ってくれるという楽しい思い出もあります」と話すと、観客からは驚きの声も上がった。

また、監督がどうしても伝えたいメッセージとして、「少し哲学的な話をさせていただきたいのですが、「悪の誘惑」という話です。みなさん幸せになりたいという気持ちを持っています。それはどの民族にとっても当たり前のことです。そしてどの民族もどうしたら幸せになれるのかという事を考えます。20世紀は様々な国が、どうしたらそれぞれの国が繁栄をするかを模索し続けた世紀でした。そして20世紀の悲劇、私が考えますのは、ある民族の幸せはまた別の民族を犠牲にして成り立ってしまった、それが20世紀の悲劇だと思います。そして、この作品のタイトルでもある「パラダイス」、すなわち、ある民族の天国を作るというのは、他の民族の「パラダイス」を犠牲にしなければならない、そういうような事が20世紀の悲劇だと思います。今も人々は理想のために酷いことをし続けています。それが私が唯一申し上げたい事です」と映画に秘めた思いを明かした。

『暴走機関車』A・コンチャロフスキー監督、新作映画PRで来日 黒澤明監督との秘話を語る

今回の役でを演じるにあたって苦労した点を聞かれたユリヤは、「不思議に思われるかもしれまんせが、私が演じた役は女優にとって非常に大きなプレゼントだと思っています。ですので、難しい事だったと仰いましたが、いまになってみれば難しかった事もとても良い思い出になっています」と、熱く語った。監督の妻でもあるユリヤ。監督は家にいる時と全然違うのでしょうか。という質問に対し、「そうですね、職場での方が良い印象ですね」と話し、会場の笑いを誘った。続けて「監督は非常に俳優に愛を持って接する方なので、映画界でも演劇界でも彼と仕事が出来た人はとても幸せだと思います。同時に、アンラッキーでもあります。というのも、監督のあと、中々他の監督と仕事をしたがらなくなると思いますよ」と述べ、笑みをこぼした。

一方、監督は、「ユリヤは大変な事もあったと思います。まさか映画で髪を五分刈りにするなんて思っても見なかったと思います。2時間撮影現場に姿を見せてくれませんでしたから」と彼女の苦労したエピソードを明かした。

トークの終盤には、コンチャロフスキー監督が、富士山をバックに黒澤監督と一緒に撮った写真パネルが登場。コンチャロフスキー監督からは当時の思い出が語られ、「このあと、黒澤監督がウォッカを飲み始めたら途端に議論が始まりまして、レーニンを誉め始めました。ソ連に住んだことのないのに、レーニンが誰なのか知らないでしょと言ってみたら、腹を立てていました」と笑うと、会場からも笑いが沸き起こり、終始、温かなトークショーとなった。
2017年6月6日