ニュース&レポート

聖地ラサへ巡礼の旅をする家族を描く感動作『巡礼の約束』ソンタルジャ監督オフィシャル インタビュー

巡礼の約束

  • Facebookでシェアする
  • ツイートする
日本初のチベット人監督による劇場公開作として注目された『草原の河』のソンタルジャ監督最新作、『巡礼の約束』が、2月8日(土)より岩波ホール他全国順次公開。本作は、「中国で最も美しい村」にも選ばれたチベット高原の秘境から聖地ラサへと巡礼をする、ある家族の約束の物語。ある理由から突然、聖地ラサへの巡礼の旅に出た妻と、その妻を心配して追ってくる夫、妻の前夫との息子で心を閉ざしている少年。チベットの圧倒的な風景のもと、巡礼旅をつづける家族それぞれの想いを描き、往年の名作『山の郵便配達』を彷彿とさせる感動作。本作のメガホンをとったソンタルジャ監督のオフィシャルインタビューが到着しました。
聖地ラサへ巡礼の旅をする家族を描く感動作『巡礼の約束』ソンタルジャ 監督 オフィシャル インタビュー

―― 本作の主演兼プロデユーサーのヨンジョンジャさんが映画を企画したと伺いましたが、どのような経緯で映画の企画が始まったのですか?
ソンタルジャ監督:この企画は、映画で夫ロルジェを演じているヨンジョンジャさんのものです。ヨンジョンジャ(容中爾甲/ロンジョンアルジャ)さんは大変有名な歌手で、文化事業を行う会社もお持ちなんですが、映画の舞台になったギャロンのご出身で、ギャロンの文化を多くの人に知ってほしいという強い気持ちで映画をつくりたいと考えたわけです。そこで、知り合いの小学校の先生で3年をかけて五体投地でラサへ巡礼に行った人がいた話を出発点にこの映画を企画したそうです。
――ソンタルジャ監督はどのようにこの映画の企画を知ったのでしょうか。
ソンタルジャ監督:ヨンジョンジャさんは作家のタシダワさんに脚本を書いてもらい、そして私に監督してほしいと思ったそうなんです。私が初めて、この企画について聞いたのは、タシダワさんが書いた脚本をヨンジョンジャさんから渡された時です。その時点での脚本は、幼いロバを連れた男がギャロンからラサに巡礼に行く物語で、そこにはラブストーリーの要素がありました。

私は読んだ時に、巡礼の旅が長いこと、その旅の間にロバが成長するのが面白いと思いましたが、ラブストーリーがないほうが映画としては良いのではないかと感じ、そこを変えていいなら撮ってみたいと思いました。しかし、タシダワさんはとても高名な作家です。言っていいものか悩みましたが、正直にお答えしたところ、ヨンジョンジャさんが相談してくださり、するとタシダワさんは「ソンタルジャは脚本も書く監督だから、彼を信頼して任せよう」と変更に同意してくださったんです。
――ロバと旅する男から、今の物語にかなり大きく変わりましたね。
ソンタルジャ監督:ある日、断片的に絵が浮かんだのです。ツァツァ(粘土で作った小さな仏像)を見つめる男の姿です。それは、巡礼の旅に出た妻の荷物の中で見つけたツァツァで、前の夫の遺灰をまぜて作ったもの。そうとしたら、その男はどうするだろう。そこから物語が動き出しました。前の夫のツァツァをみて男は嫉妬する。しかし、理性的に考えようとし始める。この一瞬、嫉妬から理性へ向かう瞬間が人間の面白さではないかと思ったのです。

『巡礼の約束』

――前半は妻が巡礼をし、後半はそれを引き継ぐように夫と、その夫とは血の繋がらない息子、そして幼いロバの巡礼に変わるところが素晴らしいと思いました。
ソンタルジャ監督:最初は妻が主人公、次に夫が主人公になる。主人公が変わるというのは、普通に考えて、映画の作劇としてはリスクがあります。でも、今回はそのように撮りたいと思いました。夫婦という一つの存在として捉えれば、それは可能ではないかと。後半のために前半があります。夫がどんな人間かを後半で見せ、そこでチベット文化の奥深さも見せることができます。チベット文化というと抽象的に聞こえるかもしれませんが、チベットで個人を描く時、その行動、その決断は必ずチベット文化に影響されていると思うのです。
――チベットの人にとってラサへ行くということは重要なことなのでしょうか。
ソンタルジャ監督:チベットの人は晩年になると一生に一度行ってみたいという気持ちが強くなる。それほどラサへ行くということは重要なことです。また、チベットの人にとって約束を守る、ということも非常に大事なことです。チベットの人々はこれまでも、口で伝える、という方法で約束を守っていきました。この映画の中でも、ノルウがロルジェに「ラサへ巡礼に連れて行くって言ったじゃないか」と言う場面がありますが、それは、口にしたからには守ってもらわないと困る、と言う意味があるのです。この映画では、そのような文化を背景に、愛や誠意といったチベットに限らず世界中で一番大事なことを描いています。
――ウォマは亡くなった前夫と、ロルジェはウォマとともに巡礼の旅をしますね。
ソンタルジャ監督:死者の魂と巡礼をするのは、チベットではよくあることです。ツァツァや、死者の歯、遺髪などを持って一緒に巡礼をし、それをラサのお寺に納める風習があります。多くは亡くなった親のために子供が巡礼することが多いですね。この映画では、ウォマは前夫の、ロルジェはウォマの思いを背負って巡礼の旅をするわけです。
――ロルジェ役のヨンジョンジャさんをキャスティングした経緯は?
ソンタルジャ監督:私は脚本を書くときの習慣として、出演者を思い浮かべながらその人にあて書きしてつくっていくのです。今回については、早い段階から頭の中にヨンジョンジャさんが浮かんでいました。しかし、脚本を書き終えて、ヨンジョンジャさんにオファーした時、初めはヨンジョンジャさんに断られてしまったのです。しかしその後の説得の結果、ロルジェ役を演じてもらえることになったのです。

『巡礼の約束』

――ノルウ役の少年は名演でした。どのようにキャスティングしたのですか。
ソンタルジャ監督:ノルウをやった少年は、実は明るくてわんぱくな子で、決して映画の中のような無口な子ではないんですよ。私が気に入ったのは、あの子の「目」です。実はキャスティングの際、1000人ほどの小学生の写真をスタッフが撮ってきてくれたんですが、すべてを見ても気に入った子はいませんでした。そしてある日、自分で足を運んだ小学校の教室に彼がいたんです。一目で、この子がノルウだと思いました。
――映画初出演とは思えない存在感です。
ソンタルジャ監督:私はよくヨンジョンジャさんにこんな冗談を言っていました。子供の方があなたよりうまい、ロバの方が子供よりうまいってね(笑)。
――ラストシーンの髪を切る場面。映像が暗転し、髪を切る音だけが残るところもとても余韻がありますね。
ソンタルジャ監督:ここも早くから映像として頭に浮かんでいました。髪を切るという行為には、再生という意味がありますね。ロルジェとノルウの2人が自分の人生をあらたに始めるのです。暗転させ、ハサミの音を残したのは、観客もきっと自分の髪を切られているような気持ちになってくれると思ったからです。

『巡礼の約束』
これまでチベットは、西欧の監督も含め海外からの視線の中で記号化された対象として映画に描かれて来ました。私たちはそこから脱却して、誰もが触れることができる生身の感情を持った人間を描こうとした世代です。今回『巡礼の約束』では、心に去来する抗えない嫉妬の思いから、夫がどのようにそれを乗り越えるのか、その感情の揺れ動きこそが映画的だと思いました。人物の感情を表現するため、火に飛び込む蛾の羽音や、静けさの中に聞こえるハエの羽音などにもこだわり、ラストシーンも音の表現を重視しました。

中国で上映された時、多くの人が「あなたの映画は不思議だ。いつもは見終わったら、すぐ席を立つのに、見終わった後もずっと席を立ちたくない気がする」と言ってくれました。日本の方にもそのように感じてもらえたら幸せです。

2020年2月6日
『巡礼の約束』
2020年2月8日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://moviola.jp/junrei_yakusoku/