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映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』 ジョン・チェスター監督インタビュー

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方

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殺処分寸前で保護した愛犬の鳴き声が原因で大都会ロサンゼルスのアパートを追い出された夫婦が、200エーカー(東京ドーム約17個分)の荒れ果てた土地を買い、“究極の農場”を作り上げるまでの8年間の奮闘を追ったドキュメンタリー『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』(公開中)。理想と現実、夫婦の絆、命の誕生と終わり、自然の厳しさと豊かさ、全てがつまった珠玉の91分。本作の主人公で、自らメガホンをとったジョン・チェスター監督がスカイプ・インタビューに応えてくれました。

──ひと組の夫婦が田舎へ引っ越し、つつましい自給自足生活を送るドキュメンタリーかと思っていましたが、「200エーカーの土地を購入」と聞いて驚きました!アメリカの夢は大きいですね(笑)。最初からこれほど大きなビジョンを持っていたのですか?
監督:アメリカは何もかもが大きいんだ(笑)。といっても、最初はここまで大きな計画ではなくて、今の10分の1程度と考えていたけど、投資家がすごく協力的だったし、値段的にもお得な農場が見つかったんです。映画では抑えめに表現してたかもしれないけど、僕とモリーは、非常に複雑で多様な形の農業をやることにものすごくワクワクしていました。色んな動物を飼い、色んな作物を植えようと興奮していました。もしかしたらモリーのほうが私よりエキサイト度合いが大きかったかもしれません。
──監督の人生のなかで「農業」とはどれくらいの縁があったのですか?
監督:家族経営の農場で働いたことはありましたが、トラクターの運転やフェンスを作っていた程度で、土壌のことなんてまるで知りませんでした。モリーはベランダでトマトを栽培できるってことは知っていたけどね(笑)。土壌が生きていることも知らなかったし、健全な土壌がどんなものかも知らなかったんです。

──ドキュメンタリーの監督として活躍してきて、突然農業の世界に飛び込みました。コントロール出来ないものに対処するという意味では、少し似ている部分もあると思いますが、これまでの経験はどのように農業に活かせたと思いますか?
監督:もちろん。ご存じのように、映画は創られたがっているわけじゃないし、農地も農園になりたいとは思っていません。ドキュメンタリーを撮っている人は、自分の作りたい物語と、目の前で繰り広げられているドラマは違うということを認識しなければなりません。ドキュメンタリーにおいて最も美しいストーリーは、全く予期していなかった時に起こったものだったりするので、それに対処していくことが重要。それは農業でも同じだと思う。再生型の農業も、失敗を通じて得た智恵をどう使っていくかにかかっていると思うんです。
──農業を始めた時点で映画にしようと思っていたのですか?
監督:最初はそう思っていませんでした。とはいえドキュメンタリーの監督だったので、ちょこちょこ撮影はしていましたが、農業を始めて5年目頃、ある変化が起こったんです。生物の多様性が戻ってきて、悩みの種だった様々な害虫の問題のバランスが保たれてきたんです。その頃から、これは僕が撮りたい物語だと考えて映画として撮り始めました。

──農作業をしながら自分が監督であり、被写体である映画をとるのは難しいと思います。撮って欲しくない場面もあったと思いますが、映画のチームとはどんな話をしていたのですか?
監督:自分のエゴを意識しすぎて、カッコ悪いから見せたくないとか、ストーリーに入れたくないとか思うことが何度もありました。でも、生々しくて正直な映画を作るには、僕が愚かに見えることも必要だと思いました。最初の頃、僕のビジョンが明確で、頭がクリアな時にチームに言ったのは、「二度と言わないからよく聞いて欲しい。これから先、いくつかの場面で僕が“カメラを回すな”と言うかもしれないけど、それには従わず、10フィート離れてカメラを回してくれ」と言ったんです。実際にそういうシーンがいくつかあって、撮影隊はちゃんとそれを撮っていました。
──例えばどんなシーンですか?
監督:子羊の腸が出てきて安楽死させなければならなかった時、あとはコヨーテに襲撃されてたくさんのニワトリが死んだ時かな。
──コヨーテの存在は物語に重要な変化をもたらしますね。二番目に登場したコヨーテ、番犬としてのロージーの存在、そこからまたサイクルが繋がっていきました。観客は、90分のなかでその変化をみて感動するわけですが、監督自身は8年のなかでゆっくり変化を感じ取っていたのですよね。
監督:ゆっくり感じ取ることもあるし、瞬間的に感じることもあります。なんでもそうですが、後で振り返った時に大きな気づきを得ることがあります。この映画の全体のデザイン構成を考えていた時、パートナーから「あのコヨーテが、実は大切なエコシステムの一部だと気が付いたのはいつ?」と聞かれて、ハッと気付いたんです。コヨーテが首を折って動けなくなったのを見たときだって。それを答えながら僕は泣いていました。あの時は気付かなかったけど、振り返ってみると確かにあの瞬間だった。何かに対する深い理解、気づきというのは、そのストーリーを語り出したときに起こるものなんです。

──8年間の中で様々なことに対処してきたと思いますが、“もうお手上げだ”と思ったことは?
監督:何度もあります。僕が男だからかもしれないけど、何でもすぐ言葉にしてしまうんです。モリーに何度も「やめる」って言いました。でも、ベッドに入って考えて、僕に頼っている命、動物や植物はどうする?って考えた時、やはりやめられなかった。そして次の朝、自分の周りを囲む美しいものを見ると、これまで苦労を乗り超えて頑張ってきたことを思い出すんです。
──生命に対する責任…でしょうか。
監督:もうひとつ、今、こういった再生的な農業を始めないと、次世代に対して、それが可能だというストーリーを語ることができなくなると心配しています。ジェフ・ベゾスやリチャード・ブランソンが月や火星を征服する前に、僕たちの地球がどういう風に動いているか知る必要があると思うんです。

──映画を観ていて、命のサイクルを感じ取ったのはもちろんですが、監督のモリーさんへの愛が溢れていました。明るく前向きで、人を勇気づけてくれる素敵な笑顔のシーンが多かったですね。
監督:ありがとう!モリーはまるでハミングバードのような人なんです。忍耐力、回復力もすごいし、限りなくエネルギッシュで楽天的で、とにかく頑張り続ける。ハミングバードって跳ぶときに翼を8の字、つまりは無限のサインを描くけど、どこか神秘的で、尽きないエネルギーによって支えられている。まったく彼女はそういう人なんです!

──たくさんの動物が出てきますが、豚のエマは元気でいますか?
監督:元気だよ!撮影が終わった頃より200ポンドぐらい増えて、今は650ポンド(約300Kg)です。子作りからは引退していて、今は大きなペットです(笑)。毎朝、彼女がいる牧草地を通ってくるけど、「やあ!エマ」と声をかけると、“ブヒッ”と返ってきます(笑)。
──監督のように、大きな農場で…というのは難しいですが、日本でも小さなことから始めたいと思っている方にアドバイスをお願いします。
監督:小さな庭での畑であれ、大きな農場であれ、再生的な農業の原理に注目して欲しいですね。何を育てるのも大変なことなので、自分が最もインスピレーションを感じるものから初めてみるのも重要だと思います。あとは、美を優先することもね。美の中に自然と協力する限りない方法が見つかるし、なによりも、美しさを感じることは、辛いときに乗り越えようとする力になると思うから。
photo credit:Yvette Roman Photography
2020年3月17日
『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』
2020年3月14日(土)シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMA他、全国順次公開
公式サイト:http://synca.jp/biglittle/