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器用に生きられずのたうち回る姿に興味を惹かれる ──『夏の終り』熊切和嘉監督インタビュー

夏の終り

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瀬戸内寂聴が自身の体験をもとに書いたセンセーショナルな愛の物語「夏の終り」。出版から50年、100万部を超えるこの原作を、『海炭市叙景』の熊切和嘉監督が映画化。自身の女の業に苦悩する主人公・知子に満島ひかり。知子を愛し、優しく見守りながらも妻とも別れられない、寛容さとずるさを併せ持つ年上の男・慎吾に小林薫。そして知子を求め嫉妬と孤独に苦しむ年下の男・涼太に綾野剛など、実力派俳優陣が競演。重厚で静寂な中に、登場人物たちの情熱が溢れ出る大人のラブストーリーが誕生した。本作の公開を前に、メガホンをとった熊切和嘉監督にお話を伺いました。
器用に生きられずのたうち回る姿に興味を惹かれる ──『夏の終り』熊切和嘉監督インタビュー
──原作は、発売から50年経つ、瀬戸内寂聴さんの代表作ですが、もともとご存じでしたか?
監督: プロデューサーに勧められて初めて読みました。若干構えて読み始めたんですけど、ヒロインがすごくアグレッシブだったので、今、映画として描く意義はあるなと思いました。
──映画化を前提で読んで、最も惹かれた要素はヒロイン像だった?
監督:そうですね。正直で不器用で大変な生き方をしている。人間関係でも、奇妙な男女の四角関係はオリジナルではなかなか思いつかない話だと思いました。前作が、オッサンたちが乱闘するアクション映画(『莫逆家族』)だったので、その反動もあったと思います。
──監督がこれまで女性を主人公に描いた『揮発性の女』や『ノン子36歳(家事手伝い)』は、女性からみて、共感したくないけど共感できてしまう、でも共感したことを認めたくないという複雑な思いを抱く女性像だと思います。
監督:まさにそれを狙っています。表立って「共感できる」と言えないキャラですね。男としては、例えばマーティン・スコセッシの『レイジング・ブル』の主人公なんて、嫉妬深かったり男として小さい所は観ていて恥ずかしくなるし、解るけどそう言いたくない(笑)。そういう感じで、女性が主人公の映画を撮るときは、かき乱されて恥ずかしくなるような女性像をいつも考えてます。個人的に、器用に生きられずのたうち回る姿に興味を惹かれますね。
──今回の主人公・知子も、経済的にも自立していて、妻のいる慎吾との関係も割り切っている。一見器用に見えましたが、実は習慣から抜け出せずにもがいている女性でした。
監督:人ごとだと「別れりゃいいじゃん」って軽く言えるけど、なかなか自分ではできない。そういった恋愛のうまくいかないところが映画で出来たらいいなと思っていました。
──原作者の瀬戸内寂聴さんは、「原作に最も近く、生々しさに圧倒された」と仰っていたようですが、製作の段階でお会いになって話したことは?
監督:撮影前は一切話をしていなくて、加古川での撮影中に現場にいらっしゃったので、挨拶させていただきました。この映画は「夏の終り」を原作にしているんですけど、もう一つ、「場所」というエッセイ集からもヒントを得ています。これは寂聴さんが過去に住んでいた場所に足を運んで、当時の様子を回想するノンフィクションなんですが、それも踏まえていたので、結構生々しいと感じられたんだと思います。
──前作『BUNGO ささやかな欲望 -人妻-』に続いての「時代物」ですが、演出は大変でしたか?
監督:時代物は単純にやってみたかったことなんですが、『BUNGO』の時は、写真集や映像など資料集めをして、かなり研究していたんですけど、低予算で3日で撮るという制約もあったので、あまり思いきり出来なかったんです。今回は、そこで溜まっていたものをはき出したという感じですね。映像では、成瀬巳喜男監督の描く女性像が素晴らしいので、手法としては真似するわけにはいかないけど、例えば“間”とか会話のチャキチャキしたリズムとか、そういうのは念頭にあったと思います。
──満島ひかりさん、小林薫さん、綾野剛さんとのコラボレーションはいかがでしたか?
監督:満島さんは、以前から一緒にお仕事したかった数少ない女優さんです。原作よりだいぶ若いんですが、年齢不詳な印象もあるので、30歳過ぎぐらいでも行けるんじゃないかと思ってお願いしました。思っていた以上に良い意味で不器用な役者さんで、「台本にこうあるからこうでしょ」って器用に演じるタイプとは真逆で、役柄を自分に近づけて演じる方なので、この役は非常に難しかったと思います。役柄同様に、のたうちまわって苦悩している様が画に映っていて、それも良かったと思います。

小林薫さんは『海炭市叙景』に続き2度目です。飄々とした感じと、着流しが似合い、くたびれているけど色気がある。なんとなくヒモ体質の人というのは背が高くてちょっと猫背というイメージがあって(笑)、薫さんはビジュアル的にもピッタリでした。慎吾を演出するうえで、知子宅での座り位置や立ち位置、頷き方とか細かくお願いすると、すぐにその意図を理解して「監督そういう情けないの好きだよね」ってニヤリと嬉しそうに言うんです。お芝居にも絶大な信頼を寄せているので、やはりよかったですね。原作のモデルは小田仁二郎さんなのですが、寂聴さんも「生き写しのようだ」と、薫さんにゾッコンだったようです(笑)。

綾野君は、キャスティングの時期にちょうどNHKの朝ドラで「カーネーション」をやっていて、時代物でもいい感じだったので彼に決めました。きれいな顔立ちでかわいい表情も見せるのに、時折、得体の知れない怖さも見せる。第三者として現れる役柄なので、現場でも満島さんと薫さんの関係が出来上がりつつある時に撮影に入ってもらいました。二人の関係に追いつこうとするように、涼太についても色々と提案してくれました。
──姿は見せないけど、最も大きな存在である「慎吾の妻」は、手紙と電話という声だけの出演でしたが、声のトーンやテンポに背筋がゾッとしました。
監督:キャスティングの妙ですね(笑)。阿部聡子さんというすごく大好きな女優さんに演じてもらったんですが、最高でしたね。電話のシーンも、実際に現場に来てもらい、あえて満島さんと対面せずに演じて頂きました。満島さんも、どういう風貌の人が喋っているのかわからないので、その緊張感が非常によく出ていたと思います。僕も撮っていてゾクゾクしました。
──劇中に出てくるアイテムで、知子の家の小さなサボテンと、慎吾の家の大きなサボテン。知子宅の子猫と本宅の成猫も気になりました。
監督:当時の男性の間では、盆栽までいかないモダンな道楽として、サボテンというのはあったみたいです。この映画で慎吾は、知子の家にサボテンを買ってきてどこに置こうか気にしてますが、実は本宅にはもっと大きく育ったサボテンがあります。これは、知子との関係よりももっと深くて長い夫婦の歴史があるということを表したかったんです。猫もそうです。ちなみに、猫って撮影が大変なんですけど、薫さんが猫になつかれるらしくて、とてもすんなり撮れました。雌猫だったので、ああいう男の色気に弱いかもしれないですね(笑)。
──最後に、これからご覧になる方にメッセージをお願いします。
監督:かつての日本映画が持っていた陰影の美しさを表現したかった作品で、これは人間を描くうえでもやりたかったことです。隅々までこだわった作品なので、是非スクリーンで観てください。
2013年8月29日
『夏の終り』
2013年8月31日(土)有楽町スバル座 ほか全国ロードショー